たまたま見かけたポスターで知り、東北大学川内キャンパスで「さわって体験 中世写本 とその周辺」展を観た。どうやら「西洋中世学会」との抱き合わせイベントだったようで、会場の上階では学会が開催されていた。
中世写本と言えば先ごろ亡くなったウンベルト・エーコの『薔薇の名前』を想起するが、海外の美術館や教会廻りをしていると、ガラスケースの中に鎮座する中世写本を色々と見る機会がある。特に彩色豊かで筆記も美しい写本は、美術品だなぁ!と感心する。例えばダブリンで観た『ケルズの書』も、その美的価値はド素人眼にもわかるほどだった。
今回の展示は「羊皮紙工房」が担当し(展示品も所有!)、その主宰者である八木さん(多分ご本人だと思う)が会場で色々と質問等に応えてくださった。ちなみに「羊皮紙工房」サイトを拝見したら、まぁ凄いこと!!(・・;) 羊皮紙や写本についてのお勉強ができるし、今回の展示物の詳細も書かれているので、ぜひご参照あれ。
今回の展示構成は…
■展示:(1)中世写本模写作品(現代)、(2)羊皮紙の作り方、(3)装飾写本の作り方、(4)中世~近世本零葉、(5)中世~近世の羊皮紙文書、(6)トーラー巻物
■体験:(1)羊皮紙筆写体験(中世写字生体験)、(2)羊皮紙冊子めくり体験(中世読書体験)
展示は写本の用紙である「羊皮紙」からで、羊皮紙の作り方や素材(羊・山羊・牛・仔牛など)による違いなど、実際に自分で触って違いを確かめることができたし、写本の作り方(造本)過程も展示され、美しいレプリカ作品や当時の実物写本も色々と展示されていた。
羊皮紙用に処理・乾燥された羊さん一頭分
羊だけでなく、牛や仔牛、山羊などの種類もあり、触って違いを知ることができた。
写本用のインクや絵具の原料も展示
が、やはり面白かったのは体験コーナーで、「実物展示と筆写体験」と銘打つように、ガラスケースの中ではなく、実物写本が展示され、その頁を自分でめくることもできたこと。更には、傾斜台(中世の写字生気分♪)で羊皮紙に羽ペンで当時仕様のインを使い、15世紀のゴシック体を真似て写字体験ができたこと!
写字のお手本
私も羊皮紙にゴシック体でabcdef(もちろん、ヘタですっ!)
実物写本の中でも私的に一番目を惹かれたのは、16世紀スペインのPatent of Nobility(叙爵証明書)『神聖ローマ皇帝カール5世発行の叙爵証書』 (1550年 スペイン)で、その挿絵装飾や字体だけでなく、発行者であるカール5世の肩書が何行にも渡って羅列されている様を目にできたこと!!
『神聖ローマ皇帝カール5世発行の叙爵証書』 (1550年 スペイン) Niculas de Campoo宛て
写本右頁に並ぶ肩書は…
Don Carlos(カール陛下)、神の恩寵による、神聖ローマ皇帝、永遠の尊厳者、ドイツ王、全スペインの王及びカスティーリア王、アラゴン王、シオン王、ナバラ王、グレナダ王、トレド王、バレンシア王、….オーストリア大公、ブルゴーニュ公、ブラパント公、ロレーヌ公、….フランドル伯、ハプスブルク伯、…ブルゴーニュ自由伯、エノー伯、ホラント伯、ゼーラント伯、…。
かなり省略したけど、凄~く長い肩書なのだ(・・;)。カール5世の支配した領土の多様さが、その肩書から透けて見える。装飾写本ではあるけれど、歴史史料としての価値も半端ないと思う。
更に、サイトの解説を読むと…「本物の金を粉末にした絵具「金泥」を地にして描かれたボーダー装飾は、「ヒスパノ・フレミッシュ」(スペイン+フランドル)様式。フランドルのゲント・ブルージュ様式を踏襲し、動植物が立体的に描かれています。」
やはりブルゴーニュ公国を継承し、ネーデルラント育ちのカール5世だわ~♪♪ プラド美術館でもヒスパノ・フレミッシュ絵画が展示されており、スペインにブルゴーニュ(フランドル)文化を持ち込んだ痕跡を見ることができたのだった。
それにしても、たまたま目にしたポスターから、こんなに楽しく勉強できる展示会を観られたのだから、本当にラーッキーだったと思う(^^)v