花耀亭日記

何でもありの気まぐれ日記

続報「CARAVAGGIO E CARAVAGGESCHI A FIRENZE」

2010-05-31 00:06:03 | 展覧会
フィレンツェで5月22日から「CARAVAGGIO E CARAVAGGESCHI A FIRENZE」展が始まっている。ボローニャのFさんがフィレンツェ展覧会の紹介記事を送ってくださった。(いつもありがとうございます!)

何と今回の展覧会にはジャンニ・パピが新たに真作とした《マッフェオ・バルベリーニの肖像》(個人蔵)が展示されているようなのだ。RaiのCARAVAGGIOサイトにもあったが、果たして真作なのか躊躇していたので、敢えて私的な真作にカウントしていなかった。


カラヴァッジョ《マッフェオ・バルベリーニの肖像》(個人蔵)

フィレンツェ展は行かないからなぁと最近チェックを怠っていたので、あわてて公式サイトをチェックした(汗)。出展作品画像ページを見ると、この《マッフェオ・バルベリーニの肖像》)の他に、新たに《枢機卿の肖像》(ウフィッツィ美術館)もカラヴァッジョ真作として展示されているようだ。すると、私の未見作品は4点になる。


カラヴァッジョ《枢機卿の肖像》(ウフィッツィ美術館)

今回出展の新たなカラヴァッジョ作品の真作問題は、美術ド素人には何とも言えないものがあるが、《マッフェオ・バルベリーニの肖像》を大きな画像で見ると《リュート奏者》と似通うものがあり興味深い。

う~ん、フィィレンツェにも行きたくなったが…やはり無理かなぁ…。

「カジノ・ルドヴィーシ」天井画

2010-05-23 05:02:11 | 美術館
カラヴァッジョ作品を追いかけて、かれこれ10年以上に渡り様々な国や都市を訪ねた。カラヴァッジョ真作とされる作品中、未見で残るのは一般公開されていない個人蔵の4点、《サウロの回心》、カジノ・ルドヴィーシ天井画《ジュピター・ネプチューン&プルート》、《マッフェオ・バルベリーニの肖像》、《ジョヴァンニ・バティスタ・マリーノの肖像》というところまできていた。私にとって今回のローマ没後400年記念展のハイライトは、何と言ってもそのうちの2作品である《サウロの回心》と「ルドヴィーシ天井画」だった。

以前、カジノ・ルドヴィーシ天井画を観たくてヴェネト通り付近をウロウロしたことが何度かある(参照:以前書いたサイトの記事)。鉄柵門の前で、中の人影に向かい「中に入れてもれえませんか」と頼んだこともある。この鉄柵門が開かれ、自分が入る日をずっと待ち焦がれていた。


ヴィッラ・ボンコパーニ・ルドヴィーシ鉄柵門

今回はガイドさんの引率で開いた鉄柵門から堂々と入り、カジノに向かい上り坂を歩いて行く。道なりにグロッタのような岩肌がそそり立ち、突き当たりで左折すると視界が開けた。こじんまりとした建物が見えてきた。多分、あれがカジノ・ルドヴィーシ!

建物は修理中のようで工事道具が散らばっていたり、作業の合間にお屋敷拝見といった雰囲気だった。

  
カジノ・ルドヴィーシ(横から)          カジノ・ルドヴィーシ(正面から)

「カジノ・ルドヴィーシ」は「カジノ・オーロラ」とも呼ばれる。建物の玄関を入ってすぐの広間天井に、グエルチーノによる《オーロラ》(1621-23)が描かれているのだ。(グイド・レーニの《オーロラ》をかなり意識した作品だとか(^^;))

このカジノを含むヴィッラは、カラヴァッジョのパトロンであるフランチェスコ・マリア・デル・モンテ枢機卿(1549-1627)が1596年に購入し、一時期住んでいたらしい。しかし、1621年にはルドヴィコ・ルドヴィーシ枢機卿に売却される。後にルドヴィーシ家がボンコパーニ家との婚姻を結ぶことにより、正式には「カジノ・ボンコパーニ・ルドヴィーシ」となる。


玄関脇には紋章が...。

かなり広大なヴィッラだったものの、今世紀になって区画整理とともに大部分が国に売却されてしまったようだ。残ったのは現在のカジノを含む小さな区画だけだが、丘から臨む一帯から当時の面影がそこはかとなく偲ばれる。


カジノの建つ小高い丘から臨む

カラヴァッジョのパトロンであったデル・モンテ枢機卿は科学にも興味を持ちガリレオとも親交のあった教養人である。当時の科学=錬金術の実験室として使っていた2階の小部屋の天井画をカラヴァッジョに描かせた(1597-98)。まぁ、普通はフレスコ画となるところだが、生憎カラヴァッジョはフレスコ画が描けなかったから、天井画は油彩である。観たところ色彩も鮮明に残っていて、グエルチーノの《オーロラ》よりも保存状態が良いように思われた。画像では灰色に見えるが、碧青色の空が印象的だった。もしかして修復したのかもしれない。

  
カラヴァッジョ《ジュピター・ネプチューン&プルート》     カラヴァッジョに似ている!

さて、見上げればクロノス3兄弟がむくつけき姿で描かれている(^_^;)。それにプルートはカラヴァッジョの自画像じゃないのか?よく似ているのだ。

その向かい合う3人の間には青い空と太陽。太陽には月が重なり、よく観ると春の星座が描かれていた。当時は占星術も天文学なのかな?とにかく、様々な象徴がこの絵の中に塗り込められているようだ。

・プルート(ハーデス)     アトリビュート:三頭犬(ケルベロス)  
                 宇宙の要素:土  固定 塩
・ネプチュウーン(ポセイドン) アトリビュート:三叉矛  
                 宇宙の要素:水  流動 水銀
・ジュピター(ゼウス)     アトリビュート:鷲    
                 宇宙の要素:空気 揮発 略硫黄

う~む、やはり下から眺めるとお下品かも(^^;;、なぁんて思いながら観ていたのだが、ガイドさんの説明によると、どうやらカラヴァッジョはジュリオ・ロマーノを参考にしたらしい。ミラノからローマに向かう途中、マントヴァに立ち寄ったのだろうね。

ということで、「レンピッカ展」でやや強引気味にジュリオ・ロマーノを登場させてしまったのだった(^^;;;

マントヴァ公フェデリーコ2世・ゴンザーガは愛人イザベッラ・ボスケッティ(ラ・ボスケッタ)のために離宮を建てた。このパラッツォ・デル・テの建築設計をジュリオ・ロマーノが担当している。特に内装のフレスコ画はマニエリスムの綺相的壁画として有名だ。ちなみに、「プシュケの間」ができる頃にはファデリーコがマルゲリータ・パレオローガと結婚、ラ・ボスケッタは追い出されてしまった(^^;
私はまだマントヴァに行ったことが無いので、ぜひ観たいと思っているのだが...。

  
ジュリオ・ロマーノ「太陽の間」天井画   「プシュケの間」天井画  Palazzo del Te(1526-1535年)

やはり、「カジノ・ルドヴィーシ」天井画の構図着想はジュリオ・ロマーノから得ているような気がする。似ているよね(^^;;;

Bunkamura「レンピッカ展」

2010-05-04 00:29:17 | 展覧会
okiさんから頂戴したチケットでBunkamura「レンピッカ展」を観てきた。いつもながらokiさんに感謝!

実は今までタマラ・レンピッカに対してアールデコの申し子的なイメージを持っていたのだが、作品の変遷を辿るうちに意外に多様なアプローチを見せていたことを知った。最盛期のファッショナブルで時代の先端を行くような強い女性像も、キュービズムやロッソ・フィオレンティーナなどのマニエリスムの影響もあるようだと知ると、なるほどこうなるのか、と納得できたりする。


タマラ・レンピッカ《緑の服を着た少女》

独特の肖像画はなにやら官能的な雰囲気を漂わせ、彼女自身がセルフイメージに拘るったり、同性愛だったり、結局は自己愛の反映だったのではないかと思える。レオノール・フィニとも重なる部分が感じられるし、恐らく当時の「時代」的なものも多く影響を与えたのだろう。

さて、今回の展覧会で一番気に入ったのは、いかにもアールデコといった作品ではなく、《帽子を被る女》だった。

無駄のないエレガントな作品で、大きな水玉の帽子が強いアクセントとなっている。背景の濃薔薇色と黒の衣装、裏地の光沢ある黄緑は薔薇色の補色。灰色の手袋と薄紫の本(バッグ?)が薔薇色と黒の調和を奏でる。そして、何と言っても、この女性の個性を強調するのが帽子から見える前髪の赤毛である。彼女の静かで伏目がちという古風な佇まいが、わずかに覗く赤毛によりインパクトのある現代性を獲得する。この大きな帽子はレンピッカ自身が作らせたものらしい。解説にはティツィアーノ《イザベラ・デステの肖像》を示唆している。

 
タマラ・レンピッカ《帽子を被った女》           ティツィアーノ《イザベラ・デステ(マントヴァ公夫人)の肖像》

確かに、当時のマントヴァ公の宮廷でイザベラが流行させた髪飾「zazara」をヒントにしたものだろう。だが、私にはもっと似通ったモデルが脳裏に浮かんだ。ジュリオ・ロマーノ(Giulio Romano (c.1499-1546))が描いたイザベラの息子フェデリーコ2世(ゴンザーガ)の妻《マルゲリータ・パレオローガの肖像》(1531)である。←リンクした画像を拡大してみると、ねっ、前髪が印象的でしょう? レンピッカってルネサンスよりマニエリスム寄りのような気がするのだ。

 
ジュリオ・ロマーノ《マルゲリータ・バレオローガの肖像》

ロンドンのクイーンズ・ギャラリーで観た時、画面から立ち上がる妖気に思わずたじろいでしまった作品である。フェデリーコがモンフェラート公爵位を狙った政略結婚らしいので、もしかして画面から漂う妖気はそのせいかもしれない(^^;;

さて、ローマのカラヴァッジョ展レポートは忘れたわけではない。実は、今回はルドヴィーシ天井画の長い前振りなのである(^^;;;