9月30日~1月11日まで開催されているのが「ジョヴァンニ・ベッリーニ(Giovanni Bellini)展」である。充実した内容とあまりの素晴らしさに2日間通ってしまった(^^ゞ
大型祭壇画を含めたジャンル別・年代別に展示されたジョヴァンニ・ベッリーニ(1438/1440-1516)の足跡を辿りながら、ヴェネツィア絵画の特色とも言える、自然主義的な光と豊穣な色彩が醸し出す詩情溢れる世界にどっぷりと浸ることができる展覧会だったのだ。 まず、オープニングから《ペーザロ祭壇画(Pala di Pesaro)》+《ピエタ/通称(Imbalsamazione di Cristo)》(ヴァティカン所蔵)の合体がど~んと展示してあり、入場者がおおっ!と驚く仕掛けになっている。さすが合体すると規模の大きさが実感できるのだ。
《ペーザロ祭壇画》:聖パウロ・聖ペトロ・聖ヒエロニムス・聖フランチェスコのいる聖母戴冠 + 《ピエタ》
このペーザロ祭壇画はペーザロの領主スルフォッツァ家のために描かれた。祭壇画本体である《聖母の戴冠》は構図的にもかなり興味深い。中央のキリストと聖母が座る玉座の背面が窓となり背景が遠近法的に描かれており、両脇の聖人たちの上に浮かぶ天使たちを含めて空間が窓の空間と呼応して広がりを見せる。その二重空間的な窓から見える風景はベッリーニ的な光に満ち、あの美しい横雲がたなびく。 不思議だったのはキリストと聖母よりも両脇に立つ聖人たちの方が写実的に描かれている点だった。そのため聖人たちの存在感が際立ち、背景にヴェネツィアの光に満ちた風景が無ければ北方絵画的な雰囲気もするなぁと思えたほどで、もしかしてこれは玉座部分の「聖母の戴冠シーンを幻視している聖人たち」を描こうとしたものなのかも?とも考えてしまった(^^; 更に上部の精霊の象徴である鳩の上にはヴァティカンの「ピエタ」が合体している。本体画面の空と呼応するようかの空と雲ではあるが、そこには観る者の心を打つ沈痛な悲しみが溢れている。そう、私が初めてバティカン絵画館に行った時に画面と一体になることのできたピエタは、まさしくこの「ピエタ」だった。夕暮れの光と静かな悲しみが画面の外にまで広がり、まるでその場に居合わせたような気がしたものだった...。 ちなみに、ヴァティカン絵画館の現在は....↓である(^^;
ペーザロ祭壇画を飾る額縁縦両側にニッチ風に描かれた聖人たちも、その影を映す明暗により活き活きとした立体感を見せる。しかし、下のプレデッラの方は聖パオロの回心などの聖書物語が描かれてはいるが、意外にも素朴な画風である。 このペーザロ祭壇画は油彩で描かれており、油彩は当時フランドル派から学んだアントネッロ・ダ・メッシーナのヴェネツィア滞在(1475年ごろ)によって伝えられた技法と言われる。しかし、青色には当時主流のアズライトやラピスラズリだけでなくガラス質のエナメル顔料も使われているようで、ベッリーニが油彩についての先進技術を身につけていたことがわかると言う。
■参考:マリオリーナ・オリヴァーリ著「ジョヴァンニ・ベッリーニ」(東京書籍刊)