時遊人~La liberte de l'esprit~

優游涵泳 不羈奔放 by椋柊

居眠り磐音 江戸双紙26 ~紅花ノ邨~58

2010-04-18 | 読書
百日紅が咲き誇り
江戸が晩夏に移ろう頃
佐々木磐音は
吉原会所の若い衆・園八&千次と共に
一路
奥州道中を北へと向かっていた

出羽山形です

奈緒嫁ぎ先
紅花大尽前田屋お取り潰しの危機!
よもやここに来て
豊後関前藩お家騒動と類似した事件が
奈緒の身の上に降りかかろうとは…

山形藩主・秋元但馬守永朝
江戸に参勤の折
山形藩の財政を立て直さんとは名目ばかり
‘紅花専売制’を企み私服を肥やそうとする
主席家老・舘野十郎兵衛忠有と紅花商人奥州屋徳兵衛が
水戸黄門の‘印籠’に匹敵する‘紅花文書’を手中に収めんと
前田屋を窮地に追い込む!
その上
舘野家嫡男・桂太郎なる阿保が
奈緒に懸想してよからぬことを考えているらしい

紅花商人首座・前田屋内蔵助は
紅花商人としての証‘紅花文書’を守るため
と同時に
愛しい女房・奈緒を守るため
奈緒を密かに山形から逃がすのであります

主席家老・舘野十郎兵衛忠有らは
紅花商人首座・前田屋内蔵助を拷問にかけ
内蔵助が託したであろう‘紅花文書’を持つ
奈緒の行方を問いだすのでありました

傾いた前田屋を
一代で立て直した内蔵助
流石です
そんじょそこいらの商人とは訳が違う
技量が違う!
死の淵をさ迷いなが
決して奈緒の所在を語ろうとはせず…
男だぜい!

運命に翻弄され
吉原で花魁・白鶴太夫になり
前田屋内蔵助と心を通わせ
目出度く落籍
江戸から遠く離れた山形で
紅花商人の妻となり
心穏かに幸せに暮らすはずが…

田沼意次の動きも気になりますが
佐々木磐音
ここで立ち上がらんでどうする!

おこんさんの許しも得て
久々
自ら渦中に飛び込みます

今更
他人の妻になった‘にょしょう’に
そこまで…
とは思わないでもない!
しかし
そこが佐々木磐音が
佐々木磐音たる所以…

前田屋内蔵助が奈緒を娶るまで
そして
娶ってからの内蔵助の変貌なんぞが
前田屋の歴史を知る旅籠最上屋彦左衛門から語られます
内蔵助にとって
奈緒の存在が
どれだけ大きなものか
心の支えであるのか
磐音は知るのです

救出される場面

「坂崎様」
「なんでござるな」
「奈緒には会われましたか」
「内蔵助どのに断りもなく会うことはでき申さぬ」
「坂崎様」
「…」
「そなた様が羨ましゅうございます」
「なぜにござる」
「奈緒は過ぎた嫁にございます さりながら 奈緒の心を捉えた男子はただ一人
 坂崎磐音なり御仁にございます」
「内蔵助どの 坂崎磐音はもはやこの世から消え申した」

紅花の咲く丘
磐音と磐音に背を向けたままの奈緒

「奈緒どの」
磐音の呼びかけに
奈緒の背がびくりと動いて氷りついた
その姿勢のまま呟く声がした
「磐音様」
「いかにも 佐々木磐音でござる」
「おこん様と祝言を挙げられたと風の便りに聞いておりました」
「坂崎磐音はもはやこの世におらぬ」
「いえ 奈緒の心には永久におられます」

奈緒を心底
愛しいと思いながら
奈緒の気持が坂崎磐音と言う
男にあると察する内蔵助の心情

今だ
心から消え去ることの出来ない
坂崎磐音を目の前にして
その姿を見ることなく
姿を消した奈緒の心情

実に
せつのうございました

ですが
佐々木磐音は知ります

内蔵助から託された‘紅花文書’を守り
内蔵助が捕らわれの身にある中
紅花摘みと商いを
内蔵助に代わって
陣頭指揮をする奈緒の思いを

新しい商いを模索しつつ
商人の妻として生きようとしている
奈緒の思いを

だからこそ
奈緒は…


個人的には
山形藩お家騒動の結末を語るだけでなく
死の淵から生還した
内蔵助と磐音が暫し語らう…
下りが欲しかった

デス

しかし…
思い思われ
愛の形も様々なれど
切なさが残る

ですが
佐々木磐音の心中は
既に江戸に向っております

愛しい愛しい恋女房・おこんに
会いたくて会いたくて
たまらんようです

磐音ぇ~
子作りに励めぇ~


三味芳六代目・鶴吉が
商い第一弾として
おこんの義母・おえいに
三味線を新調&進呈します
始めは
躊躇していたおえいも

「義母様!おこんは覚悟をいたしました
 なにが何でも文字きよ師匠のお弟子になります!」

と云うおこんにほだされ

端唄を始めることになります

おこんさんとしては
自分がそうでも言わないと
おえいの決心がつかないと思ったようです


昔取った杵柄と申しますか
おえい殿は
なかなかどうして才がおありのようです

問題はおこんさん?

後から
『問題は私のようだわ』
と内心呟くおこんさんでしたとさ…