先週の金曜日(7月15日)にTSUTAYA DISCAS で借りていてしばらくほっておいたDVDを見ることができました。
時間がある時はボビンレースの練習をしているのですが、この日は映画を見る時間を作りました。
いい意味で私の期待を裏切ってくれた映画。タイトルが「シェイクスピアの庭」の日本語の題がインプットされていたので
人生の最後に訪れた安らぎの時間でもっとほんわかした映画だと思っていたのですが、英文のタイトル”All is True "で知らされる
ように、まるでミステリー(サスペンス?)を見るドキドキ感があります。事実をもとにケネス・ブラナーのイマジネーション
で組み立てたシェイクスピア晩年の物語です。
長い間ほったらかしにしていた家族のもとにグローブ座の火災をきっかけに筆を折ったシェイクスピアが帰ることが
この物語の始まりです。途中に会う物語を完結してほしいという男の子は彼の心の中にずっと住んでいた幼くして亡くなった
息子です。
文字の読み書きができない娘が作った詩を息子が書き留める。男の子は学校へ行き、女の子は台所仕事。女性は子供を産んで
育てるだけと考えられていた時代。息子を失い、娘の価値に気づくシェイクスピア。
それが決して過去のものとは思えない今もまだまだ男女差別が残る世の中。息子の死の謎解き・・ 過去のシェイクスピアが
あこがれたよき理解者である伯爵とのスリリングな場面。シェイクスピアの愛にたいして、シェイクスピアのソネットで返す場面。
娘たちのスキャンダルも事実として残っているもので、遺産相続の心配や、妻との溝を埋める努力・・ まだ舞台の価値を
認めようとしない人々・・・いろいろなものに取り囲まれて、庭造りを進めて行く中にやっと訪れる家族の愛の復活。
映画『シェイクスピアの庭』予告編
DVDの付録でケネス・ブラナーのインタヴューがありとても面白かったです。彼の歯切れのいい英語も聞き取りやすく・・
私はアイルランド出身の監督が好きなのですね。ケン・ローチとか・・・
長い間見たいと思っていた映画が家で見ることができてよかったです。本当は劇場で見たかったけれどね。予告編を劇場で
見たあとコロナが流行り、劇場は閉鎖されこの映画を見る機会を失いました。
スタッフ
監督/製作 :ケネス・ブラナー
脚本 :ベン・エルトン
製作総指揮 :ジュディ・ホフランド
撮影 :ザック・ニコルソン
衣装デザイン :マイケル・オコナー
音楽 :パトリック・ドイル
キャスト
ウィリアム・シェイクスピア :ケネス・ブラナー
アン・シェイクスピア :ジュディ・デンチ
サウサンプトン伯 :イアン・マッケラン
ジュディス・シェイクスピア :キャスリン・ワイルダー
スザンナ・ホール :リディア・ウィルソン
ジョン・ホール :ハドリー・フレイザー
トム・クワイニー :ジャック・コルグレイヴ・ハースト
ろうそくの光だけで撮影した映像も素敵でした。ケネス・ブラナーは他の撮影と違って周りが全然見えなかった
ので神秘的な経験だったと話していました。まるで実際に起こったことのように?
サウサンプトン伯とのシーンはソネットから想像してこんなことがあったのも知れないとシェイクスピアの人生の
一つの仮説を引き出しました。
亡くなった息子が出てきてお別れを言う場面ではあのテンペストの最後のセリフ、最近カントロフの演奏を聴いて
いて思い出した私の大好きなフレーズが出てきました。
あのシェイクスピアの人生なんて考えたこともなかった。人生を知り尽くしたような言葉の魔術師。
実際の人生は困難なものだったのですね。問題はたくさんありますが、最後に訪れた平安にほっとしました。
心に残ったセリフ
私は想像の世界にいすぎた。何が現実であるのか、真実であるのか見失っている。
I have lived so long in imaginary world and I think I lost sight of what is real, what is true.
魂の地をとこまでも航海できる人。
創造の源は自分自身。まずは自分自身と話し、内面を知ること。
自分の魂の中にあるもの、人間性を。
シェイクスピアは誕生日に亡くなったという。葬儀の場面で読まれた詩。
Thou thy worldly task hast done,
Home art gone, and ta'en thy wages.
Golden lads and girls all must,
As chimney-sweepers, come to dust.
恐るるな 夏の暑さも
吹きすさぶ 冬の嵐も
汝いま この世のつとめを
なし終えて 家路につきぬ
尊きも 卑しきもみな
みまかれば 塵と化すのみ。
『シンベリン』第四幕第二場
ケネス・ブラナーのハムレットはTVで放映されていたのを少し見た記憶がありますが、他のヘンリー5世や最近の
ベルファストを見てみようかと思いました。
追記)
ケネス・ブラナーのインタビューをもう一度見てみました。
シェイクスピアとソネットを捧げたサウサンプトン伯との関係についてこんな風に語っていました。
愛していると言えないが、彼のソネットを持って答えたサウサンプトン伯。
相手の才能を高く評価できる人は、ある意味では特別な存在でもある。
またインタビューの最後にシェイクスピアの作品で最も好きな作品との質問には明言せず、晩年の
作品について語りました。
「シェイクスピアの庭」で最も影響を受けたのは「冬物語」。
晩年の作品はロマンスやフェアリーテイルが多いが、ある種の繊細なやさしさがある。不幸な出来事に
対して思いやりを持って対処した。
人生をおとぎ話としては描いていない。彼は非常に温情深く、美しく厄介なもの(beautifully messy)
として人生を描いた。
彼の晩年の作品には寛大さが現れ、何とかして幸せをつかもうとして、可能な限りの和解や償い行おうと
している。