碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

家族のあり方を問う「ゆりあ先生の赤い糸」

2023年12月07日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

「ゆりあ先生の赤い糸」

家族のあり方を問う

今期一番の問題作

 

思えば、とんでもない設定のドラマだ。「ゆりあ先生の赤い糸」(テレビ朝日系)である。

伊沢ゆりあ(菅野美穂)は刺繍教室を営む主婦。売れない小説家の夫・吾良(田中哲司)が突然、ホテルで倒れる。くも膜下出血だった。一緒にいたのは夫の“愛人”だという青年、稟久(鈴鹿央士)だ。

昏睡状態の吾良を自宅に引き取ったが、認知症の義母(三田佳子)の世話もあり、ゆりあは稟久に介護の応援を求める。

しかも、そこに現れたのが娘2人を抱えた、みちる(松岡茉優)だ。DV夫から逃げるみちるは、吾良の“彼女”だった。

そんな複雑な関係の面々が、“疑似家族”として一つ屋根の下で暮らしている。この異常事態を成立させているのは、何でも受けとめてしまう、ゆりあの「男前なおっさん」的性格だ。

しかし、ゆりあが年下の便利屋・優弥を好きになったこと、そして吾良の意識が戻ったことで、物語は急展開を迎えている。奇跡的に保たれていた疑似家族のバランスが大きく揺らぎ始めたのだ。

原作は入江喜和の同名漫画。脚本は草彅剛主演「僕の生きる道」の僕シリーズ3部作(フジテレビ系)などの橋部敦子である。

一見奇抜な設定の中に介護、不倫、嫁姑、性的少数者、DVなど現代社会の課題を織り込みながら、夫婦や家族の「形」や「あり方」を探る、今期の問題作だ。

(日刊ゲンダイ「テレビ 見るべきものは!!」2023.12.06)


「ミワさんなりすます」は、「なりすましドラマ」の大本命!

2023年11月29日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

夜ドラ「ミワさんなりすます」(NHK)

「なりすましドラマ」の大本命!

 

今年の夏から秋にかけて、「なりすましドラマ」が目立った。

主婦が有名女優になりすました「この素晴らしき世界」(フジテレビ系)。女子大学生が友人のキャラクターを借りて就活をする「わたしの一番最悪なともだち」(NHK)などだ。

なりすますとは、「実際はそうでないのに、なりきった風をする」こと。

それを主要な要素としたドラマを「なりすましドラマ」と呼ぶなら、現在放送中の夜ドラ「ミワさんなりすます」(NHK)は、本命といえる1本だ。

映画オタクの久保田ミワ(松本穂香)は、ひょんなことからスーパー家政婦・美羽さくら(恒松祐里)になりすまし、世界的俳優・八海崇(堤真一)の邸宅で働いている。

現時点でこの秘密を知っているのは八海とさくらだ。八海はミワと映画愛を共有し、さくらはミワを通じて知る八海情報を楽しんでいる。

熱烈な八海ファンであるミワは、正体がバレそうになるたびにドキドキしたり、反省したりと大忙しだ。

原作は青木U平の同名漫画。脚本は「おっさんずラブ」(テレビ朝日系)や「私の家政婦ナギサさん」(TBS系)などを手掛けてきた徳尾浩司だ。

松本が演じるミワは原作以上に天然系で応援したくなる。また堤の八海は原作よりも人間味があって親近感が持てる。

生きることに不器用でも、何かを「好きであること」自体が才能だと教えてくれる佳作ドラマだ。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2023.11.28)


映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」への オマージュが笑えた「時をかけるな、恋人たち」

2023年11月22日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

「時をかけるな、恋人たち」

(カンテレ制作、フジテレビ系)

「バック・トゥ・ザ・フューチャー」への

オマージュが大いに笑えた

 

吉岡里帆主演「時をかけるな、恋人たち」(カンテレ制作、フジテレビ系)は、「パリピ孔明」と並ぶ今期の“奇作SFドラマ”だ。

「パリピ」では過去からよみがえった諸葛孔明が活躍するが、こちらは未来からやってきたタイムパトロールが騒動を起こす。

ヒロインの廻(めぐ、吉岡)は広告代理店のアートディレクターだ。失恋した夜、「23世紀人」の翔(永山瑛太)から、違法タイムトラベラーを取り締まる仕事に無理やりスカウトされる。

これまでに、未来から駆け落ちしてきた女性教師と男子生徒のカップルや、令和のホストに恋をした未来人の生真面目女子や、令和の女性と組んで人気お笑い芸人になった、未来の売れない作家などに対処してきた。

しかし、このドラマ最大の見所は、やはり廻と翔の「禁断の恋」だ。

先週は“恋の避難所”として選んだ1980年代にタイムトラベル。そこで結婚前の廻の両親と出会う。しかも父のナンパ癖のせいで、カップル解消の危機に遭遇する。

何とか2人の恋を成就させようとする廻と翔。映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」へのオマージュが大いに笑えた。

吉岡はコメディエンヌとしての力を存分に発揮し、永山はとぼけた味の未来人を飄々と演じている。

異色のタイムトラベルドラマであり、奇抜な恋愛ドラマでもある本作。どう着地するのか注目だ。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2023.11.21)

 


「セクシー田中さん」 秀逸な2人の女性の成長物語

2023年11月15日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

「セクシー田中さん」

(日本テレビ系)

秀逸な2人の女性の成長物語

 

ついついクセになるドラマだ。日曜夜の「セクシー田中さん」(日本テレビ系)である。

派遣OLの朱里(あかり、生見愛瑠)は、同じ会社の経理部で働く田中京子(木南晴夏)の秘密を知る。

仕事は完璧な田中さんだが、見た目は地味で暗いアラフォーだ。ところが、彼女にはセクシーなベリーダンサーという別の顔があった。

このドラマ、2人の女性の成長物語として秀逸だ。

子どもの頃から周囲とうまく交わることが出来ず、自分を封印しながら生きてきた田中さん。真壁くんと名づけたハムスターと暮らしており、毎日のルティンワークを決して欠かさない。

田中さんが言う。

「ベリーダンスに正解はない。自分で考えて、自分で探すしかない。私は自分の足を地にしっかりつけて生きたかった。だから、ベリーダンスなんです」。

それは自分を解放する魔法だったのだ。

一方の朱里は、誰からも好かれる「愛され系女子」だ。しかし、誰かから「本当に好かれた」という実感がなく、モヤモヤしていた。

また、不安定な派遣の仕事を続ける中で、不幸にならないためのリスクヘッジばかりを意識してきた。他人にどう思われようと気にしない田中さんに接する「推し活」で、朱里は徐々に変わっていく。

原作は芦原妃名子の同名漫画。好アレンジの脚本は「ミステリと言う勿れ」などの相沢友子だ。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2023.11.14)


「うちの弁護士は手がかかる」異能のパラリーガルを梃子に描かれる人間ドラマ

2023年11月08日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

「うちの弁護士は手がかかる」

(フジテレビ系)

異能のパラリーガルを梃子に

描かれる人間ドラマ

 

ムロツヨシが絶好調だ。

NHK大河ドラマ「どうする家康」の豊臣秀吉で主役を食う怪演、いや快演を見せたが、「うちの弁護士は手がかかる」(フジテレビ系)では、異能のパラリーガルを主役として演じている。

蔵前勉(ムロ)は芸能事務所の元敏腕マネジャー。突然解雇を言い渡され、法律事務所に拾われる。

組んだのが新人弁護士の天野杏(平手友梨奈)。18歳で司法試験合格の天才肌だが、かなり非常識で人とのコミュニケーションが苦手だ。

まったく異なるタイプの2人。その嚙み合わなさから生まれる、絶妙の掛け合いが笑える。

いかりや長介へのオマージュ「ダメだ、こりゃ。次、行ってみよう!」など、スイッチが入った瞬間のムロが繰り出す、どこまでが台本で、どこからがアドリブかも不明なセリフの連射が楽しい。

また、法廷ドラマとしても十分見応えがある。

先週も、女性シンガーソングライターの身代わりで強盗傷害の容疑者となった青年の心情を見抜き、裁判員裁判での逆転を引き寄せたのは蔵前だった。

今期も漫画原作のドラマが多いが、本作は完全オリジナルだ。「競争の番人」の神田優、「元彼の遺言状」の中園勇也などが、実際の事件も参考にしながら起伏に富んだストーリーを練り上げている。

バディ型のリーガルドラマであると同時に、パラリーガルを梃子にして描く人間ドラマだ。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2023.11.07)


「フェルマーの料理」数学と料理の融合がキモ

2023年11月01日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

「フェルマーの料理」(TBS系)

数学と料理。

かけ離れた2つのジャンルの融合がキモ

 

金曜ドラマ「フェルマーの料理」(TBS系)は異色の料理ドラマだ。

北田岳(高橋文哉)は数学の才能に恵まれた高校生。夢はフェルマーのような数学者になることだった。しかし、数学オリンピック選考会で自身の限界に気づき、挫折してしまう。

そこに現れたのが、カリスマシェフの朝倉海(志尊淳)だ。「お前の数学的才能は料理のためにある」と言い、自分のレストランで働くチャンスを与える。

数学と料理。一見かけ離れた2つのジャンルの融合こそが、この作品のキモだ。原作は小林有吾の同名漫画。

岳には、数式の正誤が「分かる」ではなく、「見える」能力がある。それが料理に応用されていく。料理の出来上がりを数学における「答え」と捉え、そこから逆算して「式」というレシピを組み立てていくのだ。

しかも、そのプロセスの中に「発想の飛躍」につながりそうなヒントがあれば決して見逃さない。

そうやって作られた第1話のナポリタンも、第2話の肉じゃがの魅力を凝縮したフィレ肉も、実にうまそうだった。

岳が求めているのは、いわば「官能的食感」だ。理想の「答え(料理)」があるなら、自分の「式(レシピ)」でどうたどり着くのか。まさに数学的思考の勝負となる。

異能の新米料理人を全力で見せる高橋。謎のシェフを余裕で演じる志尊。こちらの勝負も見ものだ。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2023.10.31)


ホームコメディの快作「コタツがない家」(日本テレビ系)

2023年10月25日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

「コタツがない家」(日本テレビ系)

ホームコメディの快作だ

 

久しぶりに登場した、目が離せないホームドラマだ。小池栄子主演「コタツがない家」(日本テレビ系)である。

主人公は敏腕ウェディングプランナーにして社長の深堀万里江(小池)。仕事面は完璧だが、家庭は問題山積だ。

夫の悠作(吉岡秀隆)は廃業寸前の漫画家でヒモ状態。高校生の息子・順基(作間龍斗)はアイドルを目指して挫折中。そこに熟年離婚して家も失った万里江の父、達男(小林薫)がころがり込んできた。

主な舞台は深堀家のリビング。そこで繰り広げられる、万里江たち家族の笑える会話バトルこそ、このドラマ最大の魅力だ。

たとえば、達男の処遇をめぐるやりとり。

悠作が達男の同居を警戒していることを万里江が指摘した。悠作は、かつて自分の母親との同居を拒んだと万里江を非難。

すると達男が、この家の頭金を援助したのは自分だ、などと言い出す。すかさず万里江は「そういうところを母さんは嫌ったのよ」と応戦する。

家族の間とはいえ、十分リアルで際どい本音の応酬だ。しかし、そこには聞いていて辛くなるような重さや暗さはない。どこかカラッとしたユーモアが漂っている。

筋立てよりも人間描写でドラマをけん引していく、金子茂樹(「俺の話は長い」など)の脚本。小池たち俳優陣の軽妙かつ細やかな演技。両者がガップリ四つに組んだ、ホームコメディの快作だ。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2023.10.24)

 


「いちばんすきな花」生方美久の脚本に期待

2023年10月18日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

「いちばんすきな花」(フジテレビ系)

生方美久の脚本に期待だ

 

どんなドラマにも「テーマ」がある。作り手が見る側に「訴えたいもの」だ。「いちばんすきな花」(フジテレビ系)では、「男女の間に友情は成立するか?」だという。

古くからあるテーマで、その問いへの答えも明らかだ。「成立する場合もあれば、そうでないこともある」。あくまで個別の問題であり、一般化できるものではない。

このドラマに登場するのは年齢やキャリアも異なる男女4人。塾講師の潮ゆくえ(多部未華子)、出版社で働く春木椿(松下洸平)、美容師の深雪夜々(今田美桜)、そしてイラストレーターの佐藤紅葉(神尾楓珠)だ。

彼らは共通した「生きづらさ」を抱えている。自分が「2人組」になれないことだ。昔から2人組を作るのが苦手だったゆくえ。2人組にさせてもらえなかった椿。1対1で人と向き合うのが怖かった夜々。1対1で向き合ってくれる人がいなかった紅葉。

確かに、そういう人は少なくないかもしれない。悩んできた人もいるだろう。しかし、2人組であることが、必ずしもシアワセとは限らないのもまた事実だ。その辺りを含め、本作ではどこまで描くのか。

偶然と必然が適度にブレンドされた出会いを果たした彼らが、4人という「枠」の中だけで男女間の友情探しや、2人組探しをするのではつまらない。「silent」も手掛けた、生方美久の脚本に期待するところだ。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2023.10.17)

 


テレ東「きのう何食べた? season2」西島秀俊と内野聖陽の“距離感”に注目

2023年10月12日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

「きのう何食べた? season2」

注目したいのは彼らの「距離感」だ

 

ドラマ24「きのう何食べた? season2」がスタートした。コロナ禍をはさんで4年ぶりの復活だ。とはいえ、シンプルな設定に大きな変化はない。弁護士の筧史朗(西島秀俊)と美容師の矢吹賢二(内野聖陽)は、現在も同じ2LDKで同居生活をしている。

何より、以前と変わらない2人の暮らしぶりが、見る側をホッとさせる。ゲイを公表していない史朗は、相変わらず倹約家で料理好き。一方、ゲイであることにオープンな賢二は、今も史朗と彼の作る料理の大ファンだ。

変わったことといえば、賢二の体重の増加と史朗が通い続けたスーパーマーケットの閉店。そして史朗が2万5000円と決めていた月の食費が3万円に上がったことくらいだ。

■「コロナ後の生き方」のロールモデルに

心優しき男たちの穏やかな日常を描くこのドラマ。注目したいのは彼らの「距離感」だ。たとえば史朗は、食費を切りつめようと魚より肉を食材の中心にしてきた。それが賢二のコレステロール値を上げたに違いないと本気で謝罪する。

しかし深刻な表情で「話がある」と言われた賢二が恐れていたのは、2人の生活が壊れるような告白だった。つまり、どちらも現在の関係に安住せず、一種の緊張感を持ち続けているのだ。

心地よい距離を保ちながら、出世やお金より一緒に食卓を囲む生活を大切にする2人。「コロナ後の生き方」のロールモデルのひとつがここにある。

(日刊ゲンダイ「テレビ 見るべきものは!!」2023.10.11)


NHKスペ「“冤罪”の深層~警視庁公安部で何が~」公安部の闇に迫る出色の調査報道

2023年10月05日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

NHKスペシャル

「“冤罪”の深層~警視庁公安部で何が~」

公安部の闇に迫る出色の調査報道

 

事実は小説より奇なり。使い古された言葉かもしれないが、優れたドキュメンタリーにはピッタリの表現だ。

9月24日に放送された、NHKスペシャル「“冤罪”の深層~警視庁公安部で何が~」はそんな一本だった。

3年前、横浜市内にある中小企業の社長ら3人が逮捕された。容疑は軍事転用が可能な精密機械の中国への不正輸出。

身に覚えのない経営者たちは無実を主張するが、警察側は聞く耳を持たない。長期勾留の中で1人は病気で命を落とした。

ところが突然、「起訴取り消し」という異例の事態が発生する。実は「冤罪」だったのだ。

会社側は東京都に賠償を求めて裁判を起こし、今年6月、証人となった現役捜査員が「まあ、捏造ですね」と告白した。

制作陣は関係者への徹底取材で「捏造」の構造を探り、「冤罪」が生まれる背景に光を当てていく。中には勇気を奮って内部告発を行い、組織の暴走と腐敗を止めようとした捜査員もいた。

しかし、捏造の当事者やその上司には反省も罪の意識もない。彼らにとっては正当な業務なのだ。

■決して他人事ではない

背筋が寒くなるのは、決して他人事ではないからだ。

公安部がいったん狙いを定めたら、証拠も含めて「何とでもなる」という実例であり、誰もが「自分はこの強大な組織に抵抗できるか」と考えずにはいられない。リアル公安部の闇に迫る、出色の調査報道だった。

(日刊ゲンダイ「テレビ見るべきものは!!」2023.10.04)


日曜劇場「VIVANT」、たった一つ欠けていたものがあるとすれば・・・

2023年09月28日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

日曜劇場「VIVANT」

たった一つ

欠けていたものがあるとすれば・・・

 

17日に幕を閉じた、日曜劇場「VIVANT」(TBS系)。最終回の世帯視聴率は19.6%、全話の平均視聴率が14.26%だった(関東地区、ビデオリサーチ調べ)。今期、平均4~5%台の連ドラが多かったことを思うと飛び抜けている。あらためて、このドラマを振り返ってみたい。

まず驚かされたのが、長期モンゴルロケに代表される、壮大なスケールだ。圧倒的な砂漠の風景にも見知らぬ都市の雑踏にも、珍しいものを見ることの快感があった。

次に自衛隊の秘密部隊「別班」という設定が秀逸だった。映画「007」や「ミッション:インポッシブル」などのシリーズを思わせる、ジェットコースター型の冒険スパイアクションの快感だ。

そして何より起伏に富んだストーリーがある。原作は、演出を務めた福澤克雄のオリジナル。「半沢直樹」や「下町ロケット」の八津弘幸ら複数の脚本家が参加し、ハリウッド形式のシナリオ作りが行われた。高速の物語展開。伏線に次ぐ伏線。謎が謎のまま残され、迷路を引きずり回されるような快感を覚えた。

さらに主演の堺雅人をはじめとする俳優陣の熱演だ。ここぞという瞬間で大見えを切る、あのセリフ回しと大写しの表情には、“日曜劇場名物”といえる快感があった。

つまり、このドラマは刹那的な「快感」のオンパレードだったのだ。たった一つ欠けていたものがあるとすれば、恒久的な「感動」かもしれない。

(日刊ゲンダイ「テレビ 見るべきものは!!」2023.09.27)


朝ドラ「らんまん」 寿恵子がいてくれて本当に良かった

2023年09月20日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

NHK朝ドラ「らんまん」

寿恵子がいてくれて本当に良かった

 

連続テレビ小説「らんまん」(NHK)の放送も、ついに残り10日を切った。ここまで見てきて、つくづく思うことがある。

槙野万太郎(神木隆之介)の妻、寿恵子(浜辺美波)がいてくれて本当に良かった。いや、助かったということだ。

何しろ万太郎という主人公は一つのことを続けてきた人物だ。ひたすら植物採集を行い、その草花を文と絵で記録していく。それが貴重な植物図鑑となるのだが、やっていることは常に同じだ。

一方、物語に適度な起伏を与えてきたのが寿恵子だった。研究に湯水のごとくカネを使う夫を支えて家計をやりくりし、借金取りたちとの攻防を繰り返しながらも、常に笑顔を絶やさない。

ついには経済的安定を得るためにと、自分で「待合茶屋」まで開業してしまった。カネに無頓着な“坊ちゃん”である万太郎のために奮闘する寿恵子こそ、このドラマのもうひとりの主人公だ。

「ゲゲゲの女房」の布美枝(松下奈緒)、「まんぷく」の福子(安藤サクラ)と並ぶ、「朝ドラ三大女房」である。

夫と暮らす長屋ではごく普通の奥さんでありながら、自分の店では凛として美しい女将へと変貌する寿恵子。

妻や母という役割にとどまらず、自分で自分の生き方を決める、当時としては新しい女性像を打ち立てている。

そのギャップと落差の魅力を、浜辺が鮮やかに演じ切ってくれた。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2023.09.19)

 


若手女優の競演「沼オトコと沼落ちオンナのmidnight call」

2023年09月13日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

水ドラ25

「沼オトコと沼落ちオンナのmidnight call

 〜寝不足の原因は自分にある。〜」

(テレビ東京系)

 

期待の若手女優の競演に沼りそうな、

深夜のオアシス

 

水ドラ25「沼オトコと沼落ちオンナのmidnightcall〜寝不足の原因は自分にある。〜」(テレビ東京系)は、いわゆる連続ドラマではない。

30分の連作短編が並ぶ、オムニバス形式だ。

タイトルの「沼オトコ」とは一度ハマると抜け出せず、もがくほど沈む底なし沼のような男を指す。

そして、そんな男たちの魅力に沼ってしまったのが「沼落ちオンナ」だ。

第1話は「計算沼」。カメラマン助手の南祐希(杢代和人)は細かな気配りが出来る、人たらしだ。

しかし、その言動の背後には緻密な計算があった。広告プランナーの白岩夏(小西桜子)は警戒していたにも関わらず、つい祐希に魅かれていく。

第2話に登場したのは「不器用沼」だ。水元若葉(工藤遥)は、同期入社の深谷翔太郎(武藤潤)が気になる。小さなドジを繰り返す姿に母性本能をくすぐられ、放っておけないのだ。

ところが、仕事でミスをして落ち込む若葉を励ましてくれたのは翔太郎だった。実は若葉も彼と同じ不器用な人間であり、それを隠していた自分に気づく。

これは「恋愛あるある」のカタログ集のようなドラマだ。

しかも沼オトコたちはどこか爽やかで、沼落ちオンナたちも輝いている。恋愛という沼は「ハマった本人がシアワセならそれでいいのだ」とさえ思わせる。

小西や工藤といった期待の若手女優の競演に沼りそうな、深夜のオアシスだ。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2023.09.12)


「わたしの一番最悪なともだち」蒔田彩珠が 繊細な演技で見せていく

2023年09月06日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

「わたしの一番最悪なともだち」

テレビドラマ初主演の蒔田彩珠が

繊細な演技で見せていく

 

夜ドラ「わたしの一番最悪なともだち」(NHK)の主人公、笠松ほたる(蒔田彩珠 まきた・あじゅ)は就職活動中の大学4年生。

しかし、なかなか内定が出ない。「素の自分」が没個性的であることは承知しているが、どうしていいのか分からないでいた。

ある日、幼なじみの鍵谷美晴(高石あかり)のキャラクターを借用して書いたエントリーシートを第一志望の会社に送り、通過してしまう。

小学生の頃からクラスのもめ事を鮮やかに解決し、トラブルも柔軟な発想で突破してきた美晴。大学ではダンスサークルの中心メンバーだ。

鬱陶しい存在でありながら、ほたるは「こんな自分だったらいいのに」と思っていたことに気づく。その後、一次面接も突破して次へと進むが、気持ちは晴れないままだ。

このドラマ、いわゆる「なりすまし物語」ではない。ヒロインは仮面をつけて外界と向き合ってしまったことで、逆に自分にとって大切なものが見えてくるのだ。

蒔田は、これまでにNHK朝ドラ「おかえりモネ」でヒロインの妹、「妻、小学生になる。」(TBS系)では堤真一と石田ゆり子の娘を好演。映画「万引き家族」など是枝裕和監督作品の常連でもある。

今回がテレビドラマ初主演だが、ほたるの中にあるモヤモヤも、美晴への複雑な心境も繊細な演技で見せていく。

入社後の展開が今から気になって仕方ない。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2023.09.05)

 


「神田伯山のこれがわが社の黒歴史」手間のかかる仕掛けにも作り手の遊び心が生きている

2023年08月30日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

「神田伯山のこれがわが社の黒歴史」

手間のかかる仕掛けにも

作り手の遊び心が生きている

 

黒歴史とは「なかったことにしたい過去」のことだ。

「神田伯山のこれがわが社の黒歴史」(NHK)は、それを“苦労の歴史”と捉え、企業の失敗経験をエンタメ化した番組だ。

これまでにブラザー工業の「早すぎた配信ビジネス」やコクヨの「デジタル時代対応の新商品開発」といった、イタい歴史が登場した。

そして先週、俎上に載ったのが、「第三のビール」で12連敗という過去を持つキリンだ。

かつて「のどごし生」というヒット商品を生んだ後、「コクの時間」や「麦のごちそう」などを送り出すが、いずれも厳しい競争には勝てなかった。

そんな負の連鎖を止めるべく抜擢されたのが、マーケティング担当の女性社員と製造技術の男性社員だ。彼らが明かす、失敗の真相が興味深い。

たとえば自信があった商品が、インパクトを欠くネーミングとおしゃれ過ぎるパッケージが原因で、大量の競争商品の中に埋もれてしまう。

その悔しさをバネに、次の新作では「原点回帰」を示すネーミングと強烈な赤のパッケージで注目を集める。それが2年で10億本を売った「本麒麟」だ。

番組では黒歴史の流れを伯山が講談風に語り、2人の試行錯誤の過程がキャラクターを使ったコマ撮りアニメで再現される。

今回は「マジンガーZ」の人形たちが演じていたが、そんな手間のかかる仕掛けにも作り手の遊び心が生きている。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2023.08.29)