碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

高畑充希&田中圭「unknown」を 第3話まで見てきて少し分かってきたこと

2023年05月10日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

高畑充希&田中圭「unknown」を

第3話まで見てきて

少し分かってきたことがある

 

テレビ朝日系「unknown」が、じわじわと面白くなっている。

雑誌記者のこころ(高畑充希)と警察官の虎松(田中圭)は恋人同士。だが、こころは吸血鬼であり、虎松の父親(井浦新)は殺人犯だ。

互いに秘密を抱える2人だが、そこに連続殺人事件がからんでくる。吸血鬼を連想させる凄惨な事件だ。

コメディータッチのラブファンタジーかと思いきや、サスペンスの要素もしっかり投入。

そのバランスの良さと高畑・田中コンビの軽妙なやりとり、こころの父を演じる吉田鋼太郎の怪演が楽しくて、ついクセになりそうだ。

第3話まで見てきて、少し分かってきたことがある。このドラマにおける「吸血鬼」は、一種のメタファー(隠喩)なのではないだろうか。

人は未知なるもの(unknown)に遭遇すると身構えてしまうことが多い。それはヒトに対しても同様だ。

たとえば人種、国籍、宗教、信条などが異なる相手と出会うと、過剰に反応したり、時には誤解したりする。

第2話では、こころの母・伊織(麻生久美子)が虎松に向かって、こんなことを言っていた。

「世の中は自分の知らないことであふれてるじゃない? それを恐れて嫌って排除しようとするのか。歩み寄って知ろうとするのか」

自分とは異なるものの象徴が吸血鬼なのだろう。このメタファーがどこまで物語を深化させるのか、注視していきたい。

(日刊ゲンダイ「テレビ 見るべきものは!!」2023.05.09)


『それってパクリじゃないですか?』芳根京子には「お仕事ドラマ」がよく似合う

2023年04月26日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

芳根京子には

「お仕事ドラマ」がよく似合う

「それってパクリじゃないですか?」

日本テレビ系

 

芳根京子には「お仕事ドラマ」がよく似合う。思えば出世作のNHK朝ドラ「べっぴんさん」も、実在のアパレルメーカー創業者をモデルにした、一種のお仕事ドラマだった。

その後、「チャンネルはそのまま!」(北海道テレビ)でテレビ局の報道記者。「半径5メートル」(NHK)では雑誌編集者を演じていた。

今期の「それってパクリじゃないですか?」(日本テレビ系)もまた、ウェルメイドなお仕事ドラマだ。

舞台は飲料メーカーの月夜野ドリンク。主人公の藤崎亜季(芳根)が所属するのは、新設の知的財産(知財)部である。

第2話では「商標権の侵害」問題が描かれた。お茶系飲料「緑のお茶屋さん」は看板商品だが、地方の製菓会社が名前やデザインを真似たチョコレート「緑のおチアイさん」を売っていたのだ。

親会社から出向してきた弁理士の北脇(重岡大毅)は知財のプロ。素人同然の亜季は彼を通じて徐々に学んでいく。

パクリとパロディの違いは何か? オマージュやインスパイアは許されるのか? 

見ている側も、「知財」が開発に関わった人たちの汗と涙の結晶であり、「商標」は彼らの努力の証明であることが分かってくる。

最終的に月夜野は製菓会社を訴えたりせず、「緑のおチアイさん」は業務委託で正式に販売されることになった。この後味の良さも「芳根流お仕事ドラマ」の特徴だ。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2023.04.25)


“普通の女性”を演じられる奈緒だからこそ「あなたがしてくれなくても」は切実感に満ちている

2023年04月20日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

「あなたがしてくれなくても」

”普通の女性”を

自然に演じられる奈緒だからこそ、

切実感に満ちている

 

これはまた困ったドラマが登場したものだ。「あなたがしてくれなくても」(フジテレビ系)である。何しろテーマが「夫婦のセックスレス」であり、「不倫恋愛」の要素もあるのだ。

夫婦で見るには、ちょっと気まずい。できれば見ていることも知られたくない。といった具合に、見る側をザワつかせるのも制作側の狙いだろう。

主人公は建設会社で働く、32歳の吉野みち(奈緒)だ。

夫の陽一(永山瑛太)はカフェの雇われ店長。夫婦仲は悪くないが、セックスレスが2年続いている。みちは話題にするのを避けていたが思わず口にしてしまう。

際どいセリフがポンポン飛び出す。

「夫とのセックスが懐かしくなったら、それはレスだ」「ただしたいわけじゃない、私は陽ちゃんとしたいんだ」「それって、もうしないってこと?」などなど。

演じているのが「普通の女性」を自然に演じられる奈緒だからこそ、切実感に満ちている。

加えて、みちが上司の新名誠(岩田剛典)に悩みを打ち明けると、彼も妻(田中みな実)とのセックスレスを告白。2人は急接近していく。

とはいえ、いきなりドロドロの不倫劇になるとは思えない。陽一との関係も、新名との先行きも、たっぷりの「もどかしさ」とともに描かれていくことになりそうだ。

「夫婦のタブー」への挑戦は、新たな「大人の恋愛ドラマ」の開拓でもある。

(日刊ゲンダイ「テレビ 見るべきものは!!」2023.04.19)


江口のりこ「ソロ活女子のススメ3」シリーズならではの滋味

2023年04月13日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

水ドラ25「ソロ活女子のススメ3」

シリーズならではの滋味がある

 

水ドラ25「ソロ活女子のススメ3」(テレビ東京系)が始まった。2021年春にスタートし、今回が堂々のシーズン3だ。

出版社の契約社員・五月女恵(さおとめ めぐみ)は仕事が終わると即退社する。一人で好きな場所に行き、一人で好きなことを楽しむ「ソロ活女子」。主演はもちろん、江口のりこだ。

過去には、ひなびた動物園でイヌワシだけを眺めたり、中国料理店で回転テーブルの独占に挑んだりしてきた。初回は恵の誕生日ということもあり、クルーズ船でフレンチ料理を堪能する。

日の出桟橋を出て、レインボーブリッジや東京ゲートブリッジをくぐり、東京ディズニーランド周辺で折り返す2時間コース。

カップルが多いが、女性一人でも客として平等に扱われるし、他の客もこちらに関心などない。食事だけでなく、非日常的な時間を存分に楽しめるのもソロ活の醍醐味だ。

恵は船上で一人の女性客(大塚寧々)と出会う。彼女は地方出身で何十年も東京で暮らしてきた。だが今も自分を異邦人だと感じ、「海から眺める東京の距離感がちょうどいい」と言う。

一人で東京を楽しむ「ソロ東京」の先輩との一期一会は、新シーズン開始記念だ。

番組の冒頭、同僚がウンチクを語ると、「それ、どこの情報?」と恵が聞く。「ネットですけど」と言われて、「だろうね」と恵。このお決まりの応酬にもシリーズならではの滋味がある。

(日刊ゲンダイ「テレビ 見るべきものは!!」2023.04.12)


ドキュメント 「シン・仮面ライダー」が見せた、アクションをめぐる葛藤

2023年04月06日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

ドキュメント

「シン・仮面ライダー

~ヒーローアクション 挑戦の舞台裏~」

アクションをめぐる葛藤

 

庵野秀明監督作品の制作過程に約2年間密着したのが、3月31日にNHK・BSプレミアムで放送された、ドキュメント「シン・仮面ライダー~ヒーローアクション 挑戦の舞台裏~」だ。

庵野は「ノスタルジーだけではなく、新しいものを。でもノスタルジーは捨てたくない」と言う。この二律背反ともいえる難題は、制作現場の随所で噴出する。特に「アクション」をめぐる葛藤と波乱は激しく、この番組の見所となっていた。

アクション監督が練りに練ったシーンを、「頭の中が殺陣(たて)でいっぱい」「創意工夫が足りない」と庵野はことごとく否定していく。何より「段取り」を嫌い、排除したいのだ。

主演の池松壮亮を始めとする俳優陣にも負荷をかける。「自分のイメージを押しつけるならアニメのほうがいい」「僕からイメージを出すことはない。後は役者次第」と考えさせるのだ。

監督と俳優たちが、アニメとは異なる、実写ならではの「本物感」を探っていく現場はスリリングで目が離せない。ここでもライダーたちの「一生懸命さが見えない」と「段取り」を厳しく指摘。アクション監督と決裂寸前までいく。

結局、クライマックスは池松、柄本佑、森山未來の3人に託され、「ベストは何だ?」と真剣な試行錯誤が続いた。その成果を確かめるためにも映画館へ行こうと思う。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2023.04.05)


「ペルソナの密告」圧巻の演技だった竹内涼真

2023年03月30日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

竹内涼真が

「ペルソナの密告」で圧巻の演技

3つの人格を口調や目つきの変化で表現

 

先週の24日夜、ドラマスペシャル「ペルソナの密告3つの顔をもつ容疑者」(テレビ東京系)が放送された。

元刑事の獅子舞亘(沢村一樹)は、派遣の仕事をしながら一人娘と暮らしていた。

ところが近所で連続誘拐事件が発生。被疑者の元村周太(竹内涼真)から呼び出される形で捜査に協力することになる。

しかも元村は複数の人格を持つ解離性同一性障害(DID)だった。かつては「多重人格」と呼ばれていた症例だ。

7年前、獅子舞の妻(矢田亜希子)は何者かに殺害されており、それをきっかけに退職した。元村もまた幼少時から不幸の連続だった。

そんな元刑事と容疑者が一緒に事件を追うという設定が異色で飽きさせない。

沢村はひょうひょうとしていながら肝のすわった元刑事が似合っていたが、演技賞モノだったのは竹内だ。

元村の中には周太本人、数字の天才・カブト、そして凶暴なバクと3つの人格がいる。

言うこともやることもバラバラで、突然誰が表に出てくるのか分からない。その都度、口調も動作も目つきも一変させていく竹内の演技が圧巻だった。

タイトルの「ペルソナ」とは仮面であり、心理学でいう「人間の外的側面」だ。ある時、獅子舞が言う。「人は誰だって、いくつもの顔を使って生きている」と。

そうしなければ生きられない人間の業(ごう)に迫る、見事な展開の一本だった。

(日刊ゲンダイ「テレビ 見るべきものは!!」2023.03.29)


Nスペ 「海辺にあった、町の病院~震災12年 石巻市雄勝町~」 命をめぐる葛藤を浮き彫りにした秀作

2023年03月15日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

NHKスペシャル

「海辺にあった、町の病院

  ~震災12年 石巻市雄勝町~」

 命をめぐる葛藤を浮き彫りにした秀作

 

東日本大震災から12年となる3月11日の夜、NHKスペシャル「海辺にあった、町の病院~震災12年 石巻市雄勝町~」が放送された。

半世紀以上も地域の医療を支えてきた、市立雄勝病院。震災当日、巨大な津波は建物の屋上まで達し、患者や職員の9割が命を奪われた。

自力で動くことが困難な高齢の患者が多かったことが、犠牲者を増やした要因ともいわれている。職員たちは必死で彼らを救おうとしたからだ。

番組は残された遺族や同僚の証言を軸に構成されていた。たとえば、訪問看護で外に出ていて助かった看護師は「どこか申し訳ない」「病院に戻れなかった自分を責める」と語っている。

また非番だったにもかかわらず、病院に駆けつけて亡くなった看護師もいた。彼女の娘は「母にとって患者さんは家族」だったと言う。

その一方で、確かに「職員は被害者」だが、「患者さんの遺族から見たら加害者でもある」と複雑な思いを吐露していた。

さらに亡くなった男性職員の妻は、夫が職務を全うしたことを誇りとしながらも、「逃げてもよかったのではないか」と胸の内を明かす。

12年の歳月を経て、ようやく語ることのできた揺れ動く心情。この番組は、当事者たちの気持ちと静かに向き合いながら、終わることのない「命をめぐる葛藤」を浮き彫りにしていた。今年の震災特集の秀作である。

(日刊ゲンダイ「テレビ見るべきものは!!」2023.03.14)


NHK夜ドラ「超人間要塞ヒロシ戦記」は今期ドラマ随一の“奇作”

2023年03月09日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

NHK夜ドラ

「超人間要塞ヒロシ戦記」は

今期ドラマ随一の“奇作”

 

原作は漫画だが、アニメならともかく実写化されるとは思わなかった。「超人間要塞ヒロシ戦記」(NHK)である。

機動戦士ガンダムは「有人操縦式の人型機動兵器」。そしてエヴァンゲリオンは「汎用人型決戦兵器」だ。どちらも人間が乗り込んで戦うことでは共通している。だが、この超人間要塞ヒロシの構造は全く異なる。

ヒロシ(豆原一成)の外見はごく普通の青年でしかない。しかし、その体内には6000万人の異星人が居住している。星を失った「スカべリア姫国」が丸ごと、「ヒロシ」という地球人の中で存続しているのだ。

ヒロシは普段、周囲に紛れて目立たぬように暮らしている。自身の秘密は絶対守らなければならないからだ。

ところが、バイト先の社長令嬢・しずか(山之内すず)がヒロシを好きになったことで苦境に陥る。酒を飲まされてダウン。搬送先で医師たちに人間でないことがバレそうになる。

この人型機動要塞をコントロールするのが艦長のアケミ(高山一実、元乃木坂46)だ。大統領(吹越満)の命令に翻弄されたり、しずかの恋心に動揺したりしながら必死で操艦を続けている。

どこかノホホンとした言動が特徴のヒロシ。これがドラマ初主演となる高山の熱血艦長。両者のギャップと微妙にズレた感じが笑ってしまう。今期ドラマ随一の“奇作”と言っていい。

(日刊ゲンダイ「テレビ 見るべきものは!!」2023.03.08)


「忍者に結婚は難しい」菜々緒の個性が生かされていない

2023年03月02日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

「忍者に結婚は難しい」

菜々緒の個性が生かされていない

 

菜々緒主演「忍者に結婚は難しい」(フジテレビ系)も第3コーナーに差し掛かってきた。

薬剤師だが実は甲賀忍者の蛍(菜々緒)。郵便局職員で伊賀忍者の悟郎(鈴木伸之)。2人は互いに相手が忍者であることを知らずに結婚生活を送っていた。

そこに事件が起きる。悟郎たちが警護する与党政治家が殺害されたのだ。伊賀は蛍が犯人で甲賀忍者ではないか、そして夫の悟郎は裏切り者ではないかと疑う。2人は伊賀の追及をかわしつつ、真犯人を見つけようとする。

このドラマ、のんびりと眺めている分には楽しめる一本だ。ただ、ちょっと物足りない。蛍のキャラクターが平板で、菜々緒の個性が生かされていないのだ。蛍の姉で競馬ジョッキーの楓(ともさかりえ)や、妹でインフルエンサーの雀(山本舞香)のほうが、よほどキャラ立ちしている。そこがモッタイナイ。

菜々緒にとっては、2018年の「Missデビル 人事の悪魔・椿眞子」(日本テレビ系)以来の民放ドラマ主演作なのだ。もっと魅力的に見せてあげるべきではないか。たとえば忍者姿も、黒のパンツと黒の長そでシャツ、黒い帽子と黒マスクじゃ、誰だかわからない。

ドラマのコンセプトは“忍者ラブコメディー”だそうだが、「忍者」も「ラブ」も「コメディー」も中途半端で残念。終盤では菜々緒らしさを前面に押し出してほしい。

(日刊ゲンダイ「テレビ 見るべきものは!!」2023.03.01)


「浦沢直樹の漫勉neo 手塚治虫スペシャル」実作者だからこそ分かる巨匠のすごさ

2023年02月23日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

「浦沢直樹の漫勉neo 手塚治虫スペシャル」

浦沢自身も実作者だからこそ

巨匠のすごさが分かる

 

17日の夜、NHK・BSプレミアムで「浦沢直樹の漫勉neo 手塚治虫スペシャル」が放送された。

「浦沢直樹の漫勉neo」は普段Eテレで放送されているが、これまで亡くなった漫画家を取り上げることはなかった。しかし手塚治虫は別格だ。今回はEテレで放送したものに未公開映像を加えた特別編だった。

巨匠の“創作の秘密”に迫るための材料は主に3つ。手塚の生原稿、さまざまな資料、そして貴重な証言だ。番組には、石坂啓をはじめアシスタントを務めていた漫画家3人が登場した。

盛り上がったのは、堀田あきおが保存していた「ブラックジャック」の描きかけ原稿のコピーが出てきた時だ。手塚は簡単な下描きだけで人物にペンを入れており、手にした浦沢は「ベタ(黒塗り)が入る前の〈描いてる感〉がすごい!」と大興奮だった。

また雑誌「アサヒグラフ」を下敷き代わりにしていた手塚を浦沢が追体験。小指ではなく、手のひらの側面を紙の上に置いた、独特のペン遣いにもトライする。「柔らかな線になる」と驚きながら、アトムの顔をさらさらと描く浦沢。自身も実作者だからこそ、手塚のすごさが分かるのだ。

さらに豊富な資料映像を駆使することで、手塚の仕事ぶりや人となりも伝わってくる。NHKならではの異色のドキュメントであり、見事なエンターテインメントだ。

(日刊ゲンダイ「テレビ 見るべきものは!!」2023.02.22)


ドラマ24「今夜すきやきだよ」蓮佛とトリンドルという絶妙の組み合わせ

2023年02月15日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

ドラマ24「今夜すきやきだよ」

(テレビ東京系)

蓮佛とトリンドルという絶妙の組み合わせ

 

タイトルだけ見るとグルメドラマみたいだが、「今夜すきやきだよ」(テレビ東京系)の主人公は自分の〝生き方〟を探るアラサー女子たちだ。

あいこ(蓮佛美沙子)は内装デザイナー。仕事では優秀だが、家事全般は苦手だ。恋人がいて結婚願望も強い。

ともこ(トリンドル玲奈)は絵本作家。料理など家事全般が得意だが、仕事はやや行き詰り状態だ。また、他者に対して恋愛感情を抱かない「アロマンティック」でもある。

そんな2人が同級生の結婚式で再会し、ふとしたことから同居生活が始まった。

経済的に不安定なともこは、会社員のあいこに助けられている。あいこは、ともこと仕事や恋愛をめぐる雑談をすることで癒されている。

タイプの異なる2人が互いの足りない部分を補いながらの暮らしは、イソギンチャクとクマノミのような、やさしい「共生」かもしれない。

自分の感情を大事にしたいからこそ、他者の気持ちも大切にする。そして「性」ではなく、「人」として相手を見る。

何より「女だから」とか「世の中そういうもんだから」といった〝決めつけ〟と、やんわり距離を置こうとする2人の姿勢が爽やかだ。蓮佛とトリンドルという絶妙の組み合わせが効果を生んでいる。

原作は谷口菜津子の同名コミック。ともこが編集者と打ち合わせをする場面のロケセットは、版元である新潮社の社屋だ。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2023.02.14)


テレビ70年記念ドラマ 「大河ドラマが生まれた日」

2023年02月08日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

 テレビ70年記念ドラマ

「大河ドラマが生まれた日」

(NHK)

「いいものを創りたい」というシンプルな情熱

 

どんなジャンルであれ、前例がないことに挑む「はじめて物語」は面白い。4日夜に放送された、テレビ70年記念ドラマ「大河ドラマが生まれた日」(NHK)は、1963年の第1作「花の生涯」の舞台裏を描いていた。

きっかけは芸能局長・成島(中井貴一)の「映画スターを呼んで日本一の時代劇を作る」という思いつきだ。プロデューサーの楠田(阿部サダヲ)とアシスタント・ディレクターの山岡(生田斗真)が動き出す。

当時のテレビは、隆盛だった映画界から「電気紙芝居」と見下され、専属俳優たちを出してもらえなかった。楠田たちは松竹の看板スター・佐田啓二(中村七之助)に狙いを絞る。

アメリカでテレビが映画を凌駕しつつあることを知った佐田は出演を決意。「花の生涯」の主人公・井伊直弼のブレーンで、副主人公の長野主膳を演じた。

また俳優たちの拘束時間が限られていたため、同じセットで複数回の撮影を行う「同一セットまとめ撮り」や、セット替えの時間を短縮する「引き枠セットチェンジ」などの手法を生み出す。

何もかもが手探りだからこそ、携わった人たちの「いいものを創りたい」「身近な人を喜ばせたい」というシンプルな情熱が印象に残った。

徳川幕府崩壊の決定的要因となった「桜田門外の変」。60年後の大河の主人公が家康であることに不思議な感慨がわく。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2023.02.07)


「100万回 言えばよかった」“ゴーストのパクリ”と退けるのはモッタイない

2023年02月02日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

井上真央主演

「100万回 言えばよかった」

“ゴーストのパクリ”と

退けるのはモッタイない

 

突然姿を消した恋人が幽霊となって現れる。姿は見えず、声も聞こえないが、霊媒を介して会話することが出来るのだ。

多くの人が映画「ゴースト/ニューヨークの幻」を思い浮かべそうだが、井上真央主演「100万回 言えばよかった」(TBS系)である。

設定の類似は一種の「本歌取り」だろう。古歌(本歌)の一部を取り込みながら歌を詠む。本歌を連想させることで、新しい歌の内容に親しみと奥行きを与えるという技法だ。

したがって、見る側は「ゴーストのパクリじゃん」などと退けてはモッタイない。

ストーリーはもちろん、井上とデミ・ムーア、恋人の佐藤健とパトリック・スウェイジ、そして霊が見える刑事・松山ケンイチと霊媒師だったウーピー・ゴールドバーグの“差異”を大いに楽しめばいい。

さらにこのドラマは、井上にとって2019年の「少年寅次郎」(NHK)以来、久しぶりの連ドラ主演作だ。セリフに込めた微妙なニュアンスや表情の変化などをひたすら堪能することが出来る。

たとえば第3話では、井上が見えない恋人に自分の思いをぶつけた。「私はあなたのことが好きです」に始まる2分半もの“告白”だ。「理屈ではなく、ただ好き」なのだと語り続けるだけなのに目が離せない。

井上を支える脚本は、朝ドラ「おかえりモネ」や「きのう何食べた?」の安達奈緒子によるオリジナルだ。

(日刊ゲンダイ「テレビ 見るべきものは!!」2023.02.01)


作り手の「音楽と音楽家への敬意」が感じられる、日テレ『リバーサルオーケストラ』

2023年01月25日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

『リバーサルオーケストラ』

作り手の

音楽と音楽家への敬意が

感じられる

 

門脇麦主演「リバーサルオーケストラ」(日本テレビ系)は、久しぶりに登場した音楽ドラマだ。リハーサルならぬ「リバーサル」とは、逆転とか反転を意味する。

元天才ヴァイオリニスト・谷岡初音(門脇)が、優秀だが毒舌家の指揮者・常葉朝陽(田中圭)と共に、地方の崖っぷちオーケストラを再生する物語だ。

初音には、自分の演奏活動が家族に犠牲を強いていると思い込み、表舞台から消えた過去がある。欧州で活動していた朝陽は、市長の父(生瀬勝久)から強引に地元オーケストラの再建を任された。

門脇も田中も、訳アリの音楽家を硬軟自在の演技でしっかり造形している。

しかも、ヒロインがヴァイオリニストとして復活することだけでなく、オーケストラという集団とメンバーたちの〝生きる道〟を探るストーリーになっている点が面白い。

さらに注目したいのは、このドラマがクラシック音楽を大切に扱っていることだ。音楽担当としてNHK・Eテレ「クラシックTV」などで知られる、ピアニストの清塚信也が参加している。

またドラマの中の児玉交響楽団の演奏は、神奈川フィルハーモニー管弦楽団によるものだ。たとえば初音がはじめて楽団と一緒に演奏したロッシーニの「ウイリアム・テル」序曲も、わずか数分とはいえ十分聴き応えがあった。

作り手の「音楽と音楽家への敬意」が感じられるドラマだ。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2023.01.24)

 


「ブラッシュアップライフ」 安藤サクラという俳優のうまさを再認識

2023年01月18日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

「ブラッシュアップライフ」

安藤サクラという

俳優のうまさを再認識

 

もしも未来が分かっていたら、踏まずにすんだ地雷があったはずだ。また、もしも生き直すことが可能なら、岐路での選択も違ってくるだろう。

安藤サクラ主演「ブラッシュアップライフ」(日本テレビ系)は、そんな〈やり直し人生ゲーム〉のドラマである。

主人公は市役所勤務の近藤麻美(安藤)だ。自宅通勤で33歳の独身。仲のいい幼なじみ(夏帆と木南晴夏)もいて、特に不満もなく暮らしていた。

ところがある日、交通事故で死亡してしまう。気がつくと奇妙な空間にいた。

案内人の男(バカリズム)から「来世ではオオアリクイ」だと告げられ、抵抗した麻美は「今世をやり直す」ことに。ただし前よりも「徳を積む」必要があった。

麻美は再度の誕生から社会人へと至る「2周目の人生」を歩み始める。保育園では保母と園児の父親との不倫を阻止。成人してからは、売れないミュージシャンという未来が待つ同級生(染谷将太)を救おうとしたりする。

周囲に悟られることなく人生に修正を施すため、勝手な“善行”に励む様子が何ともおかしい。

脚本はバカリズムによるオリジナルだ。麻美の独白も仲間とのレディーストークも、ユーモラスでリアルな言葉の連射と軽快なテンポが心地いい。

あらためて安藤サクラという俳優のうまさを再認識させられる、1月ドラマの思わぬ伏兵にしてスマッシュヒットだ。

(日刊ゲンダイ「テレビ 見るべきものは!!」2023.01.17)