「日刊ゲンダイ」に連載している番組時評「TV見るべきものは!!」で
振り返る、この1年のテレビ。今回は8月編です。
2012年 テレビは何を映してきたか (8月編)
「黒の女教師」 TBS
千代田線・赤坂駅からTBS局舎へと向かうエスカレーター脇に、「黒の女教師」の巨大ポスターが貼ってある。主演の榮倉奈々は黒のミニスカート。軽く組んだ長い美脚が実に見事だ。ただし、残念ながらこのドラマの中の榮倉はパンツ姿が多い。毎回、ラストの見せ場で披露するのが「愚か者!」の“決めゼリフ”と、制裁の“回し蹴り”だからだ。
昼間は「普通の先生」だが、実は学校内の悪や問題を解決する「スーパー教師」。しかも課外授業の名目で金銭も要求する。榮倉はこの得体のしれない女教師を熱演している。だが、さすがに「女王の教室」(日テレ)の天海祐希的迫力はない。そこで小林聡美や市川実日子など同僚とのチームプレイとした。この辺りの設定も悪くない。
しかし、ひとつ不満がある。ターゲットの悪を暴いていく過程と、最後の“お裁き”の場面で警察の力を借りることだ。これはちょっと安易ではないか。榮倉たちの“課外授業”自体がかなり非合法なものだ。それでも結果的に生徒たちを救うことになるから許されている。そんなダークヒロインが肝心なところで警察など頼るべきではない。
このドラマには「鈴木先生」(テレ東)の土屋太鳳、映画「愛と誠」の大野いとなど、若手実力派が生徒役で参加している。美脚の榮倉先生も負けてはいられないのだ。
(2012.08.07)
「ゴーストママ捜査線」 日本テレビ
仲間由紀恵が日本テレビで4年ぶりの主役を務めている「ゴーストママ捜査線」(土曜夜9時)。婦人警察官だった仲間が殉職し、夫(沢村一樹)、娘(志田未来)、息子(君野夢真)の3人が残される。ところが、仲間は幼い息子を心配するあまり、幽霊となって現世に留まってしまう。
第1話を見た時は、ゴーストママとその息子が事件を解決していく“異色ミステリー”かと期待した。しかし、そうではなかった。回を追うごとに、半端なファミリードラマとなっているのだ。
先週など、その最たるもの。沢村が、夏休みに入った息子を連れて仲間の実家にやってくる。息子は自分の母親と祖父(内藤剛志)が今も反発し合っていることを気にして、何とか仲直りさせようとする。小さな騒動が起こり、結果的に2人は仲が良かった昔を思い出して和解するのだが、それだけの話だ。事件も捜査もありゃしない。
最も印象に残ったのは、沢村一家が東京と田舎を往復するたびに出てくるクルマだ。スズキの「SX4セダン」。緑の田園地帯を走る遠景から車内の様子まで、実に丁寧に撮影されていた。もちろんスズキはこのドラマのスポンサー企業である。
登場人物に商品を使わせる「プロダクト・プレイスメント」と呼ばれる広告手法だが、そんなことよりドラマの中身に力を入れてもらいたい。
(2012.08.14)
「主に泣いてます」 フジテレビ
フジテレビ「主に泣いてます」(土曜夜11時10分)は、バラエティでよく見かける“9等身モデル”菜々緒が初主演する連続ドラマだ。しかも役柄は「世の中の全ての男性が心を奪われ、 なりふり構わず追いまわしてしまう」絶世の美女である。いや、追い回されることで普通の生活ができない“不幸美女”なのだ。
男を虜にする美しすぎる顔を隠すために「子泣き爺」から「元巨人のクルーン選手」まで、笑えるコスプレを披露。菜々緒自体がそれほどの美女かどうかはともかく、体当たり(しかないのだが)の演技で頑張っている。
ただし、このドラマの真の主演女優は菜々緒ではない。草刈麻有(草刈正雄の娘)が演じる“究極のツンデレ女子中学生”が秀逸なのだ。美少女なのに笑わない。自分を「オレ」と呼び、変に大人っぽい(実際の草刈は19歳)。本当は優しいのだが、自分の気持ちを素直に表現できず、暴力的な我がままを通したりする。ほとんど“怪演”と言ってもいい草刈だが、ぼーっとしているばかりの菜々緒を尻目に大量の台詞を連射し、物語をぐいぐいと引っ張っていく。
ドラマの視聴率は平均で5%台と苦戦しているものの、馬鹿馬鹿しい話を大真面目で撮っているところに好感がもてる。菜々緒に再び主演のオファーがあるかどうかは疑問。しかし、草刈麻有を再発見した功績は大きい。
(2012.08.21)
「トッカン~特別国税徴収官」 日本テレビ
日本テレビのドラマ「トッカン~特別国税徴収官」(水曜夜10時)が、なかなかいい出来だ。税金滞納者の中でも、特に悪質な事案を扱うのがトッカンこと特別国税徴収官である。
ただしヒロインの井上真央はトッカンではない。有能にして冷血なトッカン(北村有起哉)付きの徴収官だ。仕事に対する覚悟も定まらない井上は北村から怒鳴られてばかりいる。このちょっとドジだが生真面目な新米徴収官を演じる井上の安定感が見事なのだ。
先週は計画破産の常習犯が相手。裁判所が正式に破産を認めれば税務署でさえ手が出せない。まさに法律が犯罪者を守ることになる。井上は単独で隠し財産を突き止め、裁判所に破産手続きの中止を求めるが、堅物の事務官(嶋田久作)が立ちはだかる。井上の頑張りどころ、見せどころだ。
毎回読み切りのエピソードと並行して、初回に登場した町工場の夫婦(泉谷しげる&りりィ)や銀座のクラブママ(若村麻由美)などのサイドストーリーを走らせているのも効いている。
徴収官は法律を盾に差し押さえなどを進めるが、滞納者の中には払いたくても払えない事情を抱えた善人もいる。そんな相手に対して、井上は悩んだり迷ったりしながら作業を進める。このドラマは井上が徴収を通じて「世の中」を知っていく成長物語でもあるのだ。
(2012.08.28)