碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

予想通りで残念だった、テレビ朝日『宮本武蔵』

2014年03月18日 | テレビ・ラジオ・メディア

テレビ朝日『宮本武蔵』、2夜連続で見ました。

木村拓哉主演というのが結構プレッシャーで(笑)、見るのを少し躊躇したりもしましたが、とにかく見ました。

まず、予想から、あまり大きく外れていなかったことが、残念。

その予想とは、木村拓哉と「武蔵」が合わないのではないか、いや、そもそも「武士」というのが難しいんじゃないか、ということでした。

武士のことを、俗に「二本差し」と言いますが、2本の刀を腰に差している様(さま)が、木村拓哉はどうにも決まらない。

中学時代まで剣道をやっていた経験から言っても(もちろん私も真剣を腰に差していたわけじゃありませんが)、キムタクさんは、特に全身が映ると「腰が据わっていない」感じが甚だしくて、それが気になって、ドラマに集中できないほどでした。

次に、宮本武蔵という人物が、どうにも見えてこなかったこと。

これはキムタクさんというより、脚本の問題かもしれませんが。

クレジットでは、原作は「吉川英治『宮本武蔵』(講談社刊)」となっていますが、吉川版に描かれていた武蔵って、もう少し奥深い内面をもった男だったと思うのです。

このドラマでは、成長しているんだか、していなんだか、どうもよくわからず、で。

あの随分あっさりした、尻切れトンボのようなラストも、2晩つき合ってきた視聴者にとっては、愛想がなさすぎるような(笑)。

まあ、「キムタクさんありき」の企画だったとは思いますが、最後まで見ても、やはり、「他に誰かいなかったかなあ」の感は拭えませんでした。

そうそう、吉岡清十郎の松田翔太は良かったです。


観てよかった、映画『あなたを抱きしめる日まで』

2014年03月18日 | 映画・ビデオ・映像

「いやあ、いい映画を観たなあ」と、素直に思える1本でした。

スティーヴン・フリアーズ監督の『あなたを抱きしめる日まで』です。

主演は、最近の『007』シリーズで「M」を演じてきた名女優ジュディ・デンチ。

1952年アイルランド、未婚の母フィロミナは強引に修道院に入れられた上に、息子の行方を追わないことを誓約させられてしまう。その後、息子をアメリカに養子に出されてしまった。それから50年、イギリスで娘と暮らしながら常に手離した息子のことを案じ、ひそかにその消息を捜していたフィロミナ(ジュディ・デンチ)は、娘の知り合いのジャーナリスト、マーティン(スティーヴ・クーガン)と共にアメリカに旅出つが……。

無理やり引き離されてしまった我が子を思い続け、50年後、ついに探すための旅に出る母親。

そう聞けば、「なんだ、古い母モノか」「ベタなメロドラマか」と思うかもしれない。

私も、そんなふうに思っていた。

でも、そんな予断は見事に裏切られる。

特に、途中で息子の生死が判明してからの展開は、「やられた」という感じだ。

そして、やはりジュディ・デンチがすごい。

悲しみや迷いといった、単純そうで複雑な熟年女性の心理を、表情のごく小さな変化で見せてくれる。

彼女の息子探しに同行する元記者のスティーヴ・クーガンもいい役者だ。

ジャーナリストとしての返り咲きを狙う、ちょっと臭みのある男が、少しずつ変わっていく。

どこか、のほほんとした雰囲気もいい。

また、観ながら、あらためて思ったのは、かの国における「宗教」についてだ。

キリスト教の「神」の存在についてだ。

その前提があって、この物語(実話)が成り立っている。

「慈愛」という言葉が意味するものも、私たち日本人の想像を超えているのかもしれない。

それでも、この映画から伝わってくるものは、はっきりわかる。

それは「同じ人間として」とか、「人の子の親として」の部分で、理解できるからだ。

いやはや、本当に、いいものを見せてもらいました。

この「邦題」には、かなり困りましたが(笑)。



原作本(集英社文庫)