碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

週刊新潮で、NHK朝ドラ「マッサン」について解説

2014年10月06日 | メディアでのコメント・論評

酔えるかなあ
テレビ小説「マッサン」トリビア

9月29日からスタートしたNHK連続テレビ小説「マッサン」は、初回視聴率21.8%で滑り出し上々。

ニッカウヰスキー創業者の竹鶴政孝と、スコットランド人の妻、リタをモデルにした作・・・・のはずだが、玉山鉄二(34)演じる“マッサン”は「亀山政春」、米女優シャーロット・ケイト・フォックス(29)の名は「エリー」だ。

NHK大阪に尋ねると、「国際結婚した夫婦の人情喜劇、冒険物語として描くフィクションです」

夫婦善哉と007のブレンドかな。

「2010年に『バクマン』という漫画をアニメ化した際も、原作に登場する『集英社』は『遊栄社』に、『週刊少年ジャンプ』は『週刊少年ジャック』に変更されました」(芸能ライター)

だから今回も社名は出ない? それでも、ニッカ社創業の地である北海道・余市町の蒸留所で、妻の遺影を見つめる“マッサン”の姿からドラマは始まる前から、“元ネタ”は明らかだ。

朝ドラ史上初の外国人ヒロインを務めるシャーロット嬢は、521名の中からオーディションで選ばれた。

「祖母がスコットランドの方で、無名ながら舞台を中心に活動し、端役で、マット・デイモンの主演作に出たことも。今回は、日本語、そのローマ字表記、英訳が載った彼女専用の台本が用意されました」(同)

物語は、結婚した2人の帰国あら描かれる。スコットランドでの2人の出会いについては、後回し?

フシギな構成のワケを上智大学の碓井広義教授(メディア論)に解説頂くと、

「泉ピン子(67)演じる政春の母は“外国人の嫁なんて”とエリーを認めません。今後、受け入れていく姿を描くのでしょうけれど、それは見る側も同じ。“初の外国人ヒロイン”を、朝ドラ視聴者が少しずつ受け入れるのと同じ構造なのです」


蛇足ながら、NHKからは「飲酒を助長する表現にならないよう描き方に配慮しています」との説明が。ま、スコッチずつね。

(週刊新潮 2014.10.09号)


なるほど、テレビは“クイズ化”していたのだ

2014年10月06日 | 本・新聞・雑誌・活字

放送批評懇談会が発行する放送専門誌『GALAC(ぎゃらく)』。

発売中の11月号に、『クイズ化するテレビ』の書評を寄稿しています。


『クイズ化するテレビ』(青弓社ライブラリー)
黄菊英(ファン・クギョン)、長谷正人、太田省一:著

表題作は黄の修士論文が元になっている。研究のきっかけは外国人らしい素朴な好奇心だ。

日本に留学し、テレビを見ると緊張した。画面からの質問に一生懸命答えようとしたからだ。クイズ番組に限らず、バラエティーもニュースも、黄には質問の嵐に見えた。日本のテレビが「無数の質問とクエスチョンマークであふれている」ことを発見したのだ。

黄はまずクイズを3つの視点で分析する。一つはクイズの「啓蒙」。仮想の教室を設定しての教育的コミュニケ―ションだ。次は「娯楽」で、「時間」をコントロールする演出が特徴だ。そして最後が「見せ物化」である。

黄はさらに、テレビの中にクイズと認識されない形でクイズが偏在することを確かめる。特に答えを「秘密化」して視聴者の興味を喚起する手法は、ニュースからバラエティーまで広く浸透していた。

こうした現象を、黄は「テレビのクイズ化」と呼ぶ。テレビの優先順位が低下しているこの時代、「クイズ性」は生き残るための現実的措置でもある。

しかしテレビは、「クイズ性」を用いて媒体として何かを伝えるよりも、「媒体としてのテレビそのもの」をアピールしようとしていると黄は言う。「クイズ性」の誤用と乱用だ。

本書には太田の『クイズ番組とテレビにとって「正解」とは何か』と、長谷の『テレビの文化人類学』も収められている。どちらも補論や解題の枠を超えた、読み応えのあるものであり、中でも長谷が指摘する「何もかも儀礼化してしまうテレビ」という分析は刺激的だ。

先行研究としては、石田佐恵子・小川博司編『クイズ文化の社会学』(世界思想社、03年)が知られている。黄たちの論考は、同書刊行から現在までの10余年を埋める、大きな成果だと言っていい。

(GALAC 2014年11月号)