碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

目で見る文学史、林忠彦『文士の時代』

2014年10月12日 | 書評した本たち



嬉しい復刊です。

林 忠彦 『文士の時代』 (中公文庫)。

朝日新聞社から86年に単行本、88年に文庫本が出ていましたが、増補を加えた新編集版です。

表紙の坂口安吾は、見た記憶をもつ人も多いはず。

銀座のバー「ルパン」での太宰治も、林さんの作品です。

織田作之助を撮っていた林さんに、坂口安吾と並んで飲んでいた酔っ払いが、「おい、俺も撮れよ。織田作ばっかり撮って。俺も撮れよ」と声をかけた。

それが太宰でした。有名なエピソード。

ほかにも川端康成、谷崎潤一郎、志賀直哉、佐藤春夫など、確かに「文士」としか言いようのない佇まいです。

いずれも昭和21年から46年にかけて撮影された写真なので、45年に亡くなった三島由紀夫も見ることができます。

直接、彼らと接してきた林さん。

文士たちについて書かかれた文章がまた、とてもいい。

カメラのレンズを通じて、人物を見抜いてしまうんですね、きっと。


今週の「読んで書評を書いた本」は次の通りです。

中山七里 『アポロンの嘲笑』集英社 

宮崎 学 『突破者外伝』祥伝社

石川直樹ほか 『宮本常一と写真』平凡社

松田哲夫 『縁もたけなわ』小学館

筑摩書房編集部 『スティーブ・ジョブズ』筑摩書房

* これらの書評は、
  発売中の『週刊新潮』(10月16日神無月増大号)
  読書欄に掲載されています。