北海道新聞に連載している「碓井広義の放送時評」。
今回は、「NEWS23」意見広告をめぐる問題について書きました。
圧迫される放送の自律と報道の自由
事業者の見解 示すべき
事業者の見解 示すべき
11月の中旬、紙面全体を使った意見広告が読売新聞と産経新聞に掲載された。題して「私たちは、違法な報道を見逃しません」。
広告主は「放送法遵守を求める視聴者の会」という団体。報道番組「NEWS23」(TBS―HBC)のキャスター、岸井成格氏(毎日新聞特別編集委員)を非難する内容だった。
今年9月、参議院で安保関連法案が可決される直前、岸井氏は番組内で「メディアとしても廃案に向けて声をずっと上げるべきだと私は思います」と述べた。この発言を、意見広告は番組編集の「政治的公平性」の観点から、放送法への「重大な違反行為」に当たると断じているのだ。
確かに放送法第4条には「政治的に公平であること」や、「意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること」が規定されている。
しかし、それは一つの番組内における政治的公平ではなく、事業者が放送する番組全体のそれで判断されるべきものだ。その意味で、岸井発言は決して“違反行為”などではない。
個人に対する新聞での意見広告というのも異例だが、それ以上にこの意見広告を目にした時の違和感は、“視聴者(市民)の意見”という形をとりながら、メディアコントロールを強める現政権の思惑や意向を見事に体現していたことだろう。
「NEWS23」は、政権に対しても“言うべきことは言う”姿勢を持った貴重な報道番組だ。故・筑紫哲也氏がキャスターを務めていた頃と比べて弱まってはいるが、岸井氏が孤軍奮闘して引き継いできた大事なカラーである。
昨年の11月、同番組に出演した安倍首相は、VTRで紹介された街頭インタビューで自身にとって厳しい意見が流れると、生放送中にも関わらず「これ、ぜんぜん(国民の)声を反映していませんが。おかしいじゃないですか」と抗議した。そうした経緯も、今回の異様な意見広告で思い起こされた。
また、もう一つ気になるのは、この意見広告に対してTBSが反論や抗議を行っていないことである。岸井発言についてはもちろん、放送法や報道番組に対する認識を、放送事業者の見解として明確に示すべきだ。
沈黙している間に、一部の報道では、岸井氏の番組降板説まで伝えられている。もしも今回の件を受けて、トカゲのしっぽ切りのように降板させるようなことがあれば、放送の自律や報道の自由を自ら放棄することになる。強い関心をもって推移を見つめたい。
(北海道新聞 2015.12.07)