碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

今年の放送界を振り返る   「TV見るべきものは!! 」年末拡大版

2015年12月23日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評



日刊ゲンダイに連載している「TV見るべきものは!! 」。

今回は、今年の放送界を振り返る、年末拡大版です。


TV見るべきものは!! 年末拡大版

BPOの矜持を感じさせた
政権与党への意見書

この1年の放送界を振り返る、恒例の年末拡大版だ。まずは、3月に発覚したNHK「クローズアップ現代」やらせ問題である。出家詐欺を扱った回で、事実とは異なる人物を登場させたり、恣意的な映像を見せたりしながら、偽りのスクープともいえる内容が流された。

BPO(放送倫理・番組向上機構)が調査を行い、11月に公表された意見書では、当事者である記者に重大な放送倫理違反があったと指摘。報道番組で許容される範囲を大きく逸脱した取材方法や表現を用いたことを強く批判した。

この意見書が異例だったのは、記者やNHKへの意見だけでなく、政権与党に対して、個々の番組に介入すべきではないこと、またメディアの自律を侵害すべきではないと強調した点にある。政権によるメディア・コントロールがさらに強まることを警戒・けん制しており、BPOの矜持さえ感じさせる、筋の通ったものだった。

BPOが懸念するように、今年は政権の露骨なディア・コントロールが続いた1年だ。各局の報道局長に対する公平中立要請。「クロ現」への総務大臣による厳重注意。自民党情報通信調査会が行ったNHK経営幹部の事情聴取。また自民党の勉強会での「マスコミを懲らしめるには広告収入がなくなるのが一番。経団連に働きかける」という暴言。そして、前述のBPOの意見書を軽視する政権中枢。来年は、メディア側の自覚と自律がより求められることになる。

■ドラマは良作を送り出したTBSに拍手

次にドラマだが、今年を代表する1本は、やはり「下町ロケット」(TBS系)だろう。町工場の技術者たちの奮闘と大逆転の物語は、2冊の原作を凝縮した脚本、脇役まで気を配ったキャスティングと役者たちの熱演、緩急自在の演出などが融合し、まさに“見るべき”ドラマとなった。

テレビ離れ・ドラマ離れが言われる中、この1年間に「流星ワゴン」「天皇の料理番」「ナポレオンの村」「下町ロケット」の4本を送り出したTBSには拍手を送りたい。技術面も含めた品質をキープし、ドラマ全体の底割れを防ぐ役割を果たした。何より、しっかりと作られたドラマには、たくさんの人の気持ちを動かす力があることを実証した功績は大きい。

2本目は「民王」(テレビ朝日系)だ。首相(遠藤憲一)とダメ息子(菅田将暉)が入れ替わるドタバタコメディが、現実の政治に対する不満や不安を背景に、期せずして秀逸な風刺劇となった点が興味深い。

NHKでは、ピエール瀧が主演した「64(ロクヨン)」が印象に残る。少女誘拐事件と警察内部のせめぎ合いを扱いながら、じりじりするような緊迫感と時代の空気感を表現して見事だった。

さらに、現在放送中の朝ドラ「あさが来た」が視聴者の支持を集めている。幕末生まれの大店(おおだな)のお嬢さんが、どう流転し成長するかという実話ベースが功を奏した。同じく実在の女性の生涯を描いてきた、大河ドラマ「花燃ゆ」の残念な“迷走”と好対照だ。来年、堺雅人主演「真田丸」での大河復活に期待したい。

(日刊ゲンダイ 2015.12.23)

書評した本: 伊藤裕作 『愛人バンクとその時代』ほか

2015年12月23日 | 書評した本たち



「週刊新潮」の書評欄に書いたのは、以下の本です。

伊藤裕作 『愛人バンクとその時代』
人間社文庫 864円

著者は40年のキャリアを持つ風俗記者。かつては年に百人の風俗嬢を取材していた大御所である。

本書の中心は、昭和58年に大ブームとなった愛人バンク「夕ぐれ族」だ。組織のオーナーで広告塔は筒見待子。後に売春斡旋容疑で逮捕される。ちなみに「愛人バンク」のネーミングを伝授したのは著者だ。体験取材の形で何人かのシロウト女性と出会い、交際の一部始終を報告していく。

バブル景気へと向かう、浮き足立った空気を背景に、愛人獲得の淡い夢を追った男たち。一方どのような若い女性たちが、何を求めて自らに値札を付けたのか。戦後ニッポンの性文化史、欲望史に咲いた“あだ花”の実相が見えてくる。


池井戸 潤 『下町ロケット2 ガウディ計画』
小学館 1620円

この秋のヒットドラマ『下町ロケット』。原作は直木賞受賞作である同名小説と本書だ。ロケットエンジンのバルブに加え、最先端の医療機器開発が焦点となっている。連続する危機に、「逃げたら何ひとつ、残らない。実績も評価もだ」と主人公は一歩も引かない。


河原一久 『スター・ウオーズ論』
NHK出版新書 842円

日本語字幕監修者でもある著者は、映画『スター・ウオーズ』を最もよく知る日本人の一人だ。本書の狙いは、「なぜ面白いのか?」の解明にある。映画史における位置づけ。描かれている物語世界の意味。シリーズが持つ文化としての価値。新作を見る前に読むべし。

(週刊新潮 2015.12.17)