碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
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FRIDAYデジタルで、『真夏のシンデレラ』について解説

2023年08月07日 | メディアでのコメント・論評

 

おじさんが1人でこっそり視聴…?

月9『真夏のシンデレラ』

視聴率は爆死でもTver絶好調!のワケ

 

何かと話題作が多い7月期のドラマ。1話1億円の予算をかけて映画並みのスケールで圧倒する『VIVANT』(TBS系)や、名作学園ドラマ『3年A組』のスタッフが結集した『最高の教師』(日本テレビ系)を始めとして、注目作品が目白押しだ。

その中でも放送前からネットを騒がせていたドラマが『真夏のシンデレラ』(フジテレビ系)だ。’16年7月期の『好きな人がいること』以来、月9では7年ぶりに真夏の海を舞台に若い男女が繰り広げる“フジテレビらしい”恋愛ドラマが帰ってくると注目を集めていた。

ところが、蓋を開けてみれば初回の視聴率は6.9%と月9での初回ワースト視聴率という結果に。その後も低迷は続き、第4話までの平均視聴率は5.8%。月9では全話平均の最低記録(『海月姫』’18年の6.1%)を割り込む大爆死レベルなのだ。しかし、Tverでは、地上波とは真逆の現象が起こっているという。

「お気に入り登録者数は100.5万人と『VIVANT』に次いで2位なんです(8月3日現在)。また7月31日には第1話の見逃し配信再生回数がTverとFOD合計で410万回を突破したと報じられています。視聴率が5%台なのにお気に入り登録者数が多かったドラマといえば4月期の『あなたがしてくれなくても』。

同作品は夫婦のセックスレスを描いていたことから、“1人でこっそり視聴する作品”だと言われました。このことから、『真夏の~』は昔のトレンディドラマを懐かしむおじさんが1人でこっそり観ているのではないかと指摘する声があがっています」(ドラマライター)

本当におじさんたちが“1人でこっそり視聴”しているのだろうか。識者2人に『真夏の~』の作品自体を分析するとともに、誰が見ているのかを予測してもらった。

「全体的に平板というか、物語に起伏がない。森七菜さん演じるヒロインの夏海はサバサバした性格で非常に元気で明るい女の子なんだけど、恋愛体質ではない。男性陣もどこか草食系。だから恋愛ドラマとしてのドラマチック性とか振り幅みたいなものが少なくて、平熱なんです。今年の夏は猛暑だから、ドラマを観ているとむしろ涼し気に感じてしまいます」

と、語るのはメディア文化評論家の碓井広義氏だ。では碓井氏はTverでこのドラマを視聴している人はどういう人だと見ているのだろうか。

「やはり『真夏の~』を見ていると周囲に言うのが恥ずかしい中高年、それこそ’90年代のトレンディードラマを見ていた世代も含めた男性たちが見ているのではないかと僕は思います。そういう人たちは、最近の恋愛ドラマはどうなっているかということに興味もあるし、ヒロイン3人が気になる人も多いのでは。

このドラマはキャストは悪くないんです。森七菜さん、仁村紗和さん、吉川愛さんはいずれも決してメジャーではないけど、それぞれ魅力がある人たちです。裏路地でひっそりやっている人気の隠れ家バーのように、彼女たちに会いたくて通ってくるお客さんは少なくなくて、そういうおじさんたちが観ているのではないでしょうか」

一方で、若い人がけっこう観ているのではないか、と言うのはコラムニストの影山貴彦氏だ。前のめりになって観るというよりは軽く流して観ている人が多いのでは、と推測する。

「Tverだから、60分のドラマを全編見ているとは限らないと思うんですよね。評判になっているシーンだけ、TikTok並みとは言わないけども、いいところだけをすくい取って見ているのでは。それも今時だし『真夏の~』は、そういう見方をしても大丈夫というのか、没入しないとついていけないドラマではない。それも今の若い人には合うのかも知れません」

影山氏のよると、もう1点、若い世代がハマる“ツボ”があるという。

「ちょっと苦しいかもしれませんが、僕は『真夏の~』は令和版『伊豆の踊子』のようにも思うんです。折に触れて女性陣と男性陣の格差を強調するような場面が出てくる。『東大出でエリート』とか『住む世界が違うから』とか。

だから『伊豆の踊子』の主人公と踊子のような身分の格差みたいなものに、今の若い人たちも大いに興味があるのかなと思いました。ただ、あまりウェット過ぎると若い人は離れてしまうから、あくまで令和的に軽く扱ってはいますが」

念のため説明すると川端康成原作の『伊豆の踊子』はこれまでに幾度となく映像化されている定番かつ古典ラブストーリーだ。当時のエリートである一高生と旅芸人の踊子との“身分違い”の淡い恋を描く。悩みを抱えて旅に出た主人公が天真爛漫な踊子と出会って魅了されてしまうところなども確かに『真夏の~』とどことなくかぶっているようにも思える。

前出の碓井氏もこの“格差”については指摘している。

「女性陣はみんな働く庶民で一方の男性陣はプチセレブという、一見どうかと思う設定も、逆にシンプル。シンプルだからそんなに深く考えなくてもパラレルワールド、別世界の話として眺めていられるんです。現実とは地続きではないけど、だからこそ、ノンストレスで見られる恋愛ドラマとして成立しているのでしょう」

ツッコみどころ満載、リアリティに欠ける、ストーリーもどこか古臭い、そんな批判は数あれど、だからこそ美しい海や砂浜、イケメンと美女を、「これはないでしょ」と、ときにはツッコミも入れつつ気軽に眺めていられる。『真夏の~』は、そんな楽しみ方を提供してくれる作品なのかも知れない。

(FRIDAYデジタル 2023.08.05)