碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

2013年 テレビは何を映してきたか (9月編)

2013年12月30日 | テレビは何を映してきたか 2010年~13年
ハワイ島 2013


「日刊ゲンダイ」に連載している番組時評「TV見るべきものは!!」で
振り返る2013年のテレビ。

その9月編です。

文末の日付は掲載日。


2013年 テレビは何を映してきたか (9月編)

「リミット」 テレビ東京

テレビ東京の「ドラマ24」(金曜深夜0時12分)は、これまで「勇者ヨシヒコと悪霊の鍵」「まほろ駅前番外地」「みんな!エスパーだよ!」など、ひと癖あるドラマを送り出してきた。現在放送中の「リミット」もまた、サバイバルサスペンスという挑戦的な1本だ。

高校生たちを乗せてキャンプ場へ向かっていたバスが事故を起こす。5人の女子生徒が生き残るが、決して一枚岩ではない。事故前まで、いじめグループにいた者、いじめられていた者、傍観していた者など複雑だった。

しかも、その中の1人が殺害されたことで疑心暗鬼と反目が深まる。後から合流した男子生徒を含め、確かに誰かが殺人犯なのだ。このサスペンス要素が第1の見所である。

また、極限状態に投げ出されたことで「学校カースト」は変質し、立場の逆転現象も起きる。彼女たちが自分と他者との関係を再構築していくプロセスが第2の見所だ。

さらに、生徒役の若手女優たちの競演がある。主演は桜庭ななみ。常に冷静な土屋太鳳。殺人を疑われ、崖から転落する工藤綾乃。いじめに遭っていた山下リオなどだ。全員が、セーラー服をボロボロにしながら体当たりで演じている。

現在、同世代では「あまちゃん」の能年玲奈がブレイクしている。このドラマ、彼女たちにとっても今後を左右する「サバイバル」かもしれない。

(2013.09.03)


「あまちゃん」 NHK

「スタートから一週間あまり、すでにこのドラマから目が離せなくなっているのは宮藤官九郎の脚本のお手柄だ」――このコラムにそんな文章を載せたのが4月9日。5ヶ月が過ぎて、今や「あまちゃん」は堂々の国民的ドラマとなった。

そして先週、誰もが「一体どうやって見せるのだろう」と注目していた震災と津波がついに描かれた。東京へ向うため北三陸鉄道に乗っているユイ(橋本愛)。天野春子(小泉今日子)の「それは突然やってきました」というナレーションが流れる。夏ばっぱ(宮本信子)の携帯電話が「緊急警報」を告げて・・・。

結果的に、宮藤官九郎とスタッフは津波の実写映像を視聴者に見せることをしなかった。観光協会に置かれていたジオラマの破壊された無残な姿。電車が止まったトンネルを出て、外の風景を見たユイと駅長の大吉(杉本哲太)の表情。そして津波が運んできたと思われる、線路の周囲に散乱した瓦礫。敢えてそれだけにとどめたのである。

この描き方は見事だ。本物の映像なら視聴者の目に焼きついている。また被災地の皆さんもこのドラマを見ている。あの日の出来事を思い起こさせるには必要かつ十分、しかも表現として優れたものだった。

物語は終盤。アキ(能年玲奈)たちの地元愛が、いい形で実を結んでいくことを祈るばかりだ。

(2013.09.10)


「夏目☆記念日」 テレビ朝日

テレビ朝日「夏目☆記念日」(土曜深夜1時15分)は夏目三久の冠番組だ。銀座のバーにたとえるなら、「マツコ&有吉の怒り新党」では雇われのチーママだが、こちらは堂々のオーナーママ。自分のお店である。

この場所で最初に開いたのは「ナツメのオミミ」。以来、店名と内容を変えながら1年半、これが3軒目の店となる。

番組のコンセプトは明快だ。毎回ひとつの「記念日」を取り上げて、その道に詳しい方々に話を聞くというもの。最近だとバイクの日、ロールケーキの日ときて、先週はバスの日だった。

スタジオにバス好きの素人さんを招き、VTRを挟みながらのバス談義だ。バスを個人で購入し自家用車として使っている人。一日中、地元のバスを乗り継いでいる人。バスに乗るためだけに全国行脚を続ける人。本人たちは大真面目だが、その過剰な「バス愛」の発露が実に微笑ましい。

この番組で夏目が守っていることが3つある。相手の話を急かさない。無理に盛り上げようとしない。そして、見え透いた迎合をしない。この「夏目3原則」+「夏目スマイル」が功を奏して、番組に登場する素人たちがのびのびと話せるのだ。

痛恨の「写真流出」騒動から4年。古巣の日本テレビに対しても、「真相報道バンキシャ!」登板で落とし前をつけた夏目は、まさに今が盛夏だ。

(2013.09.17)


「たべるダケ」 テレビ東京

テレビ東京ってのは、ほんと面白い放送局だ。漫画を原作にしたドラマはどこの局でもやるが、「たべるダケ」(金曜深夜24時52分)みたいな作品に挑戦するのはここくらいなものだろう。もちろんホメ言葉だけど。

ヒロインは、「食」にしか興味のない謎の女。というか常にハラペコのシズル(後藤まりこ)だ。いきなり現れ、ひたすら食べて、消えてしまう。でも彼女と出会い、一緒に食事をした人間は何かが変わるのだ。ちょっと元気が出たり、自分を再発見したり、時には救われたりもする。

そんなシズルに魅かれたのが柿野(新井浩文)だ。3人の元妻への慰謝料を抱えながら他人の世話ばかりしてきた男が、今度は自分のためにシズルを探し回る。とはいえ、そもそもシズルとは何者なのか。その謎も間もなく明らかになりそうだ。

毎回の見せ場はシズルの食べっぷりである。ハンバーグ、卵納豆かけご飯、タラ鍋と焼きたらこ等々、それはもう嬉しそうに口に運ぶ。先週の天ざるも豪快な音と共に食す姿がアッパレだった。思えば、人は悲しい時も辛い時も絶望した時も腹が減る。そして、まずは食べることで生きるチカラが湧いてくるのだ。

「半沢直樹」が終わった。「あまちゃん」は今週末には完結だ。そして、「たべるダケ」も次回が最終話。味見するなら、ラストチャンスである。

(2013.09.24)






この記事についてブログを書く
« 2013年 こんな本を読んで... | トップ | 三谷幸喜「大空港2013」に、... »
最新の画像もっと見る

テレビは何を映してきたか 2010年~13年」カテゴリの最新記事