碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
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この季節にドンピシャな警察小説『暴雪圏』

2009年02月25日 | 本・新聞・雑誌・活字

佐々木譲さんの新作『暴雪圏』を読了。

うーん、濃厚な中身にふさわしい、迫力のタイトルだ。

先週の札幌では、激しい雪のために、危うく帰りの飛行機が飛ばない、いや飛べない、ということになりかかったので、よけい切実感がある。

舞台は、北海道の十勝平野にある小さな町、志茂別(しもべつ)。

猛烈な吹雪のために、交通はマヒし、町は完全に機能を停止してしまう。

そんな状況の中で、何人かの男や女が、それぞれの事情を抱えて、町から“逃亡”を図ろうとしている。

暴力団組長の自宅を襲い、その妻を殺害し、現金を強奪した犯人たち。会社の金を盗み出したサラリーマン。不倫相手との関係を清算したい主婦。義父の歪んだ欲望から逃れようとする少女等々。

彼らは、運命の糸に操られるように、雪に埋もれたペンションに吹き寄せられてくるが、そこは、完全なる密室と化してしまう。

そして、この町にいる警察官は、たった一人。川久保篤巡査部長だけだった。

2006年発表の『制服捜査』(新潮文庫、今月の新刊)で登場した川久保。彼は、豪腕刑事やスーパーマン的警察官ではない。いや、だからこそ、いいのだ。

単身赴任で“駐在所”勤務の巡査部長。当たり前のことを、当たり前のように考え、実行していくだけのように見える川久保。彼は、一体どうするのか。

冷たい雪嵐の中で、物語は徐々にヒートアップしていく・・・。

いやあ、面白かった。夢中で読んでしまった。

北海道を、その自然のすさまじさを熟知している佐々木さんだけに、雪の怖さが、読む者にびんびん伝わってくる。

一旦、雪や風が猛威を奮い始めれば、人間の知恵も、思惑も、愛情も、欲望も、何ひとつ通用しない。そんな極限でのサスペンスであり、人間ドラマだ。

暴雪圏
佐々木 譲
新潮社

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制服捜査 (新潮文庫)
佐々木 譲
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