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「アイドル誕生 輝け昭和歌謡」
メリハリある演出で「熱いドラマ」
年末年始の楽しみの一つがスペシャルドラマの放送だ。「孤独のグルメ2023大晦日スペシャル」(テレビ東京系)をはじめ、「義母と娘のブルースFINAL2024年謹賀新年スペシャル」(TBS系)、バカリズム脚本「侵入者たちの晩餐」(日本テレビ系)などを堪能できた。
そんな中、目を引いたのが2日の特集ドラマ「アイドル誕生 輝け昭和歌謡」(NHKBS)である。1970年代初頭の音楽界を舞台にした、一種のドキュメンタリードラマだった。主人公は作詞家の阿久悠(宇野祥平)だ。
当時、阿久の実績は突出していた。年間39週チャート1位に輝き、日本レコード大賞を最多の5回受賞。「史上最大最強の作詞家」と呼ばれた阿久は、いかにして希代のアイドルを生み出していったのか。その軌跡が描かれた。
71年秋に始まったオーディション番組「スター誕生!」(日本テレビ系)。阿久はその企画者であり、都倉俊一(宮沢氷魚)などと共に審査員も務めた。合格者の一人に山口百恵(吉柳咲良)がいる。
しかし、彼女を世に出していったのはレコード会社の音楽プロデューサー、酒井政利(三浦誠己)だ。酒井は百恵を身近な存在としてのアイドルにはしなかった。曲の中に彼女自身のライフヒストリーを潜ませ、私小説的なアプローチで成功する。阿久は百恵の曲を作詞したいと思ったが、百恵が阿久を指名しなかったのだ。
本作が秀逸だったのは、全体を阿久と酒井の「ライバル物語」として構築したことだ。阿久は酒井に対してコンプレックスと憧れを抱いていた。しかも、そんな自分を許せない。強烈なプライドとやせ我慢の男だった。
その後、阿久が手掛けたピンク・レディーが、賞レースで百恵に勝つ。だが、阿久の百恵に対する思いは変わらなかった。晩年、阿久は酒井に言う。「酒井さん、僕らは死んでやがて忘れ去られるが、歌は残る」と。「それでいいのだ」という覚悟の言葉だった。
最近、若い人たちの間で昭和歌謡が注目されている。その楽曲の背景には、作り手たちの熱いドラマがあった。本作は秘話も含む実際のエピソードを足場に、ドラマならではの想像力を働かせた音楽物語だ。
脚本は実話ドラマ「洞窟おじさん」(NHKBSP)などの児島秀樹と演出も務める吉田照幸。吉田は朝ドラ「あまちゃん」や大河ドラマ「鎌倉殿の13人」のディレクターだ。メリハリのある演出で、良質なエンタメ作品に仕上げていた。
(毎日新聞 2024.01.13 夕刊)