碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

【気まぐれ写真館】 曇り空の羽田空港

2021年07月08日 | 気まぐれ写真館


飯豊まりえ「ひねくれ女のボッチ飯」持ち味であるフツーっぽさ、ヤボったさがぴったり

2021年07月08日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

「ひねくれ女のボッチ飯」テレビ東京系

飯豊まりえの持ち味

「フツーっぽさ」「ヤボったさ」がぴったり

 

飯豊まりえ主演「ひねくれ女のボッチ飯」(テレビ東京系)は、いわば「孤独のグルメ」の20代女子版である。

ただし、井之頭五郎(松重豊)は自分で見つけた店にふらりと入るが、こちらの主人公・川村つぐみ(飯豊)は違う。「ホワイトホース」というアカウント名でSNSにアップされた食レポが気に入り、同じ店に一人で行ってみるのだ。

すでに町中華でカツカレー、大衆食堂でしょうが焼き定食を味わった。飯豊は演技なのか素なのか、どんな料理もごく自然に、しかも実に美味そうに食べる。その「食べ芸」が見所の一つだ。

そもそも、つぐみは内向的で非社交的。7ヶ月つき合った彼氏にもフラれたばかりだ。コンビニでバイトをしながら漫然と暮らしている。飯豊の持ち味である、いい意味での「フツーっぽさ」や「ヤボったさ」が、このヒロインにはぴったりだ。

さらにおかしいのは、つぐみはまだ知らないが、ホワイトホースの正体が冴えない営業マン、白石一馬(柄本時生)であることだ。仕事の失敗を失恋に置き換えた投稿が、つぐみの心にヒットする。

ホワイトホースを勝手に「白馬の王子様」と解釈し、「どんな人だろう」と夢子ちゃん状態のつぐみ。この辺り、飯豊のコメディエンヌとしてのセンスが発揮されている。匿名の世界ならではの「妄想」と「結晶作用」の行方が楽しみだ。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2021.07.07)


【気まぐれ写真館】 集英社文庫の「よまにゃ にちにち帳」

2021年07月07日 | 気まぐれ写真館


【気まぐれ写真館】 新潮文庫のキュンタ君「ほんのきろく」

2021年07月06日 | 気まぐれ写真館


月9『ナイト・ドクター』は、どこを目指しているのか!?

2021年07月05日 | 「ヤフー!ニュース」連載中のコラム

 

 

波瑠主演の月9『ナイト・ドクター』は、

どこを目指しているのか!?

 
『イチケイのカラス』が終わったばかりのフジテレビ系「月9」枠。間を置かずに始まったのが『ナイト・ドクター』です。
 
波瑠が演じる主人公・朝倉美月は、あさひ海浜病院に勤務する医師。
 
彼女を含む若手5人が、試験的に発足した夜間救急専門の「ナイト・ドクター」チームです。
 
一般的に夜間の病院は医師が少なく、インターンなどが対応することが多い。
 
ナイト・ドクター制度の導入によって、手薄になりがちな時間帯にも、十全な医療の提供が可能になります。
 
美月たちも、工事現場の崩落事故で傷ついた人たちを救ったり、湾岸地区の爆発事故現場に駆けつけたりと、連夜の活躍を見せています。
 
とはいえ、仕事の出来る美月や成瀬(田中圭)も、いわゆる「天才外科医」とか、「スーパードクター」とかではありません。中には救えない命もあります。
 
修羅場が続く救命医の仕事を目の当たりにして、平穏な勤務医生活を望んでいた深沢(岸優太)は衝撃を受けます。
 
彼が抱える、医療現場に対する素朴な疑問や葛藤は、このドラマに奥行きを与えていると言っていいでしょう。
 
思えば、日本人が初めて見た“救命もの”は、1990年代の米国製ドラマ『ER緊急救命室』でした。
 
原作者は、小説『ジュラシック・パーク』を書いたことでも知られる、マイケル・クライトンです。
 
医学博士でもある作家が描いた、医療現場に反映される社会問題が新鮮でした。
 
また国産の“救命もの”としては、2008年から放送された『コード・ブルー ドクターヘリ緊急救命』(フジテレビ系)などが人気を集めました。
 
本来、生と死という究極のテーマを扱う医療ドラマは、ヒーロードラマの色彩が強くなります。
 
特に救命ものは、状況が困難であればあるほど、それを克服する主人公たちに拍手が送られてきました。
 
しかし、昨年から1年半もの間、私たちは逼迫(ひっぱく)する医療現場のリアルを見聞きしています。
 
以前と同様に、医療ドラマをエンターテインメントとして無邪気に楽しめない人も少なくないはずです。
 
「いつでも、どんな患者でも絶対受け入れる」という“正しい信念”を持つ、美月。
 
そんなヒロインの隣に、現実的な欲望や仕事に対する“割り切れなさ”を抱える深沢のような人物を配したことが、今後効いてくるのではないでしょうか。
 
コロナ禍で、医療問題が実は社会問題でもあることを痛感する毎日です。
 
であるならば、優れた医療ドラマが、優れた社会派ドラマであってもおかしくありません。
 
この『ナイト・ドクター』が、そんな1本になるかどうか、注目です。

救命医の信念と葛藤  医療ドラマは社会を映すか

2021年07月04日 | 「北海道新聞」連載の放送時評

 

 

碓井広義の放送時評>

救命医の信念と葛藤 

医療ドラマは社会を映すか

 

今月下旬から開催が予定されている東京オリンピックの影響だろうか。夏ドラマのスタートが例年よりも早くなっている。オリンピックで騒がしくなる前に1話でも多く流しておきたいのかもしれない。

「イチケイのカラス」が終わったばかりのフジテレビ-UHBの“月9”枠でも、間を置かずに「ナイト・ドクター」が始まった。

波瑠が演じる主人公・朝倉美月は、あさひ海浜病院に勤務する医師。彼女を含む若手5人が、試験的に発足した夜間救急専門の「ナイト・ドクター」チームだ。一般的に病院は、夜間は医師が少なく、インターンなどが対応することが多い。

ナイト・ドクター制度の導入によって、手薄になりがちな時間帯にも十全な医療の提供が可能になる。美月たちも工事現場の崩落事故で傷ついた人たちを救ったり、湾岸地区の爆発事故現場に駆けつけたりと、連夜の活躍を見せている。

とはいえ、仕事の出来る美月や成瀬(田中圭)もスーパードクターではない。中には救えない命もある。修羅場が続く救命医の仕事に、平穏な勤務医生活を望んでいた深沢(岸優太)は衝撃を受ける。彼が抱える、医療現場に対する素朴な疑問や葛藤が、このドラマに奥行きを与えていると言っていい。

思えば、日本人が初めて見た“救命もの”は、1990年代の米国製ドラマ「ER緊急救命室」だ。原作者は「ジュラシック・パーク」を書いたマイケル・クライトン。医学博士でもある小説家が描く、医療現場に現れる社会問題が新鮮だった。

また2008年から放送された「コード・ブルー ドクターヘリ緊急救命」も人気を集めた。

元々医療ドラマは、生と死という究極のテーマを扱うヒーロードラマの色彩が強い。特に救命ものは、状況が困難であればあるほど、それを克服する主人公たちに拍手が送られてきた。

しかし、昨年から1年半もの間、私たちは逼迫(ひっぱく)する医療現場のリアルを見聞きしている。以前と同様に、医療ドラマをエンターテインメントとして無邪気に楽しめない人も少なくないはずだ。

その意味で「いつでも、どんな患者でも絶対受け入れる」という“正しい信念”を持つヒロインの隣に、現実的な欲望や仕事に対する“割り切れなさ”を抱える深沢のような人物を配したことが、今後効いてくるのではないだろうか。

コロナ禍で、医療問題は社会問題であることを痛感する毎日だ。ならば医療ドラマが優れた社会派ドラマであってもおかしくない。

(北海道新聞「碓井広義の放送時評」2021.07.03)


【書評した本】『教養脳~自分を鍛える最強の10冊』

2021年07月04日 | 書評した本たち

 

 

古典で身に付ける、他者を理解する能力

 

福田和也

『教養脳~自分を鍛える最強の10冊』

文春新書 935円

 

書名に「教養」の文字が入った本は沢山ある。その多くが「古典」を読むことを勧めるが、理由はビジネス的な実利だったりする。

しかし、福田和也『教養脳―自分を鍛える最強の10冊』は違う。著者によれば、教養とは「自分を自分として形成すること」だ。そして「自分とはまったく違う時代、文明のなかにいる他者を理解する能力」を育てるのが古典だと言う。

本書に登場するのは『万葉集』からハイデガー『存在と時間』までの10冊だ。キリスト教世界を軸に「信仰による魂の救済」を描いたダンテの『神曲』。「巧言令色」ではなく、きちんと言葉を使い風儀正しく行動することが「仁」であり、それを最高の道徳とした『論語』などが並ぶ。

またスタンダールの『赤と黒』では、著者は主人公ジュリアン・ソレルの「偽善」に注目する。作者は近代における幸福や恋愛が、いかに困難なものであるかを明らかにしていると。

そして、ヘミングウェイ『移動祝祭日』の比喩力を高く評価し、「この作品に漲(みなぎ)っている幸福感、充実感、これこそが文学の魅力の、最も分かりやすい、顕(あきら)かな姿」だと断言する。心身ともに苦しかった晩年、若き日に体験した単純な生活を取り戻そうとした文豪の闘争心の産物だった。

もちろん10冊全部を読破しなくてもいい。たとえば小林秀雄『本居宣長』を1年かけて熟読してみるのも悪くない。どの本でも、立ち現れる「人間の本性」は時代を超えたものだ。

(週刊新潮 2021.07.08号)


『少しぐらいの嘘は大目に』が熊本日日新聞の週間ベスト、西日本新聞の書評、感謝です!

2021年07月03日 | 本・新聞・雑誌・活字

 

 

『少しぐらいの嘘は大目に』が、

熊本日日新聞の週間ベスト6位。

また

西日本新聞の書評も

感謝です!

 

熊本日日新聞 2021.06.27

週間ベスト10=熊本 

(1)老いの福袋

    樋口恵子著 中央公論新社 1540円

(2)Pastel

    坂口恭平著、サム・マリッサ訳 左右社 3300円

(3)いまこそスマホ(NHKテキスト趣味どきっ!)

    日本放送協会編集 NHK出版 1430円

(4)ハニオ日記

    石田ゆり子著 扶桑社 1980円

(5)ふしぎ駄菓子屋 銭天堂15

    廣嶋玲子作、jyajya絵 偕成社 990円

(6)少しぐらいの嘘は大目に

    向田邦子著、碓井広義編 新潮社 605円

(7)ののはな通信

    三浦しをん著 KADOKAWA 880円

(8)一切なりゆき

    樹木希林著 文芸春秋 880円

(9)センス入門 

    松浦弥太郎著 筑摩書房 1430円

(10)二番目の悪者

    林木林作、庄野ナホコ絵 小さい書房 1540円

(長崎書店=23日調べ)

 

西日本新聞 2021.06.26 

読書館[文庫・新書]

向田邦子著、碓井広義

『少しぐらいの嘘は大目に』 

数々の傑作ドラマで昭和の日本人を活写した向田邦子。航空機事故で世を去って40年、元テレビマンの評論家が、脚本や随筆、小説から名言・名せりふをよりすぐった。男と女、家族、仕事、人生。人をはっとさせる鋭い洞察と、きれいごとだけでは生きていけない庶民への愛惜が、時代を超えて心に響く。

(新潮文庫・605円)

 


【気まぐれ写真館】 まつぼっくりがあったとさ・・・

2021年07月02日 | 気まぐれ写真館

庭で拾った「まつぼっくり」が、翌日にはカサが開いて・・・


NHK「超速パラヒーロー ガンディーン」スタッフとキャストが特撮愛を結集!

2021年07月01日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

NHK「超速パラヒーロー ガンディーン」

スタッフとキャストが特撮愛を結集!


なんと! 突然「特撮ドラマ」が始まった。「超速パラヒーロー ガンディーン」(NHK)だ。しかも特撮とパラスポーツの合体である。

まずは「車いすアクションで戦う変身ヒーロー」という斬新な設定に拍手だ。

森宮大志(奥野壮、好演)は、車いす陸上のアスリートを目指す高校生。彼のコーチを引き受けたのが元陸上選手の大学院生、深井京(小芝風花)だ。

このままではスポーツ青春ドラマになりそうだが、巨大怪獣が出現して大暴れ。いきなり特撮ドラマらしくなる。

この怪獣は謎の異星人(林カラス)を追ってきたようだ。大志はその異星人から手渡された結晶によってガンディーンに変身し、怪獣と戦う。初代ウルトラマンのベーターカプセルを思い出す。

ガンディーンの造形はカッコイイし、「レーサー」と呼ばれる競技用車いすと一体化して突進する姿は勇壮だ。怪獣とのバトルも見応えがある。

制作は東映でも円谷プロでもなく、アラタFG。故・実相寺昭雄監督の愛弟子で、平成のウルトラマンシリーズなどを手掛けてきた北浦嗣巳(きたうら つぐみ)監督が率いる会社だ。

パラヒーローは「仮面ライダージオウ」の奥野。その父親は「ウルトラマンダイナ」のつるの剛士。そして小芝は「トクサツガガガ」でトクオタ(特撮オタク)OLを熱演していた。

スタッフ・キャストが特撮愛を結集させた、怒涛の全3話だ。

(日刊ゲンダイ「テレビ 見るべきものは!!」2021.06.30)