碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

10月8日、「『北の国から』黒板五郎の言葉」が出ます。

2021年09月19日 | 本・新聞・雑誌・活字

 

 

金なんか望むな。倖せだけを見ろ。
そして謙虚に、つつましく生きろ。

我々が生きるべき“座標軸"を示した奇跡のドラマ『北の国から』放送40周年記念。


田中邦衛氏演じる黒板五郎が過ごした20年の日々を、名場面と名セリフで追体験する1冊。

「夜になったら眠るンです」
「人には上下の格なンてない。職業にも格なンてない」
「人を許せないなンて傲慢だよな」
「男が弱音をな――はくもンじゃないがな」
「疲れたらいつでも帰ってこい 息がつまったらいつでも帰ってこい」
「男にはだれだって、何といわれたって、戦わなきゃならん時がある」
「お前の汚れは石鹼で落ちる。けど石鹼で落ちない汚れってもンもある」

黒板五郎は決して饒舌ではない。むしろ無口な男だ。しかし、五郎が発する言葉だけでなく、度々の沈黙の奥にも、語り尽くせない喜び、悲しみ、悔しさ、そして愛情が溢れている。そこに込められた、家族と周囲の人たちに対する熱い気持ちは普遍的なものであり、古びることはない。(「おわりに」より)

1981年10月にスタートして82年3月末に全24話で放送を終えた『北の国から』と、83年〜2002年に放送された8本のスペシャル全話からピックアップした、現代人に響く黒板五郎の名セリフ。

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<予約受付中>

 


週刊現代で、「積木くずし」座談会に参加

2021年09月18日 | メディアでのコメント・論評

熱討スタジアム/穂積隆信の「積木くずし」を語ろう

発売中の「週刊現代」2021年9月25日号


言葉の備忘録240 批評の・・・

2021年09月17日 | 言葉の備忘録

2021年9月16日の月

 

 

 

ジル・ゴッドミロー監督の

『月の出をまって』(87年)のなかで、

リンダ・ハント演じる

アリス・B・トクラスはこういった。

「批評の仕事は

 理解(アプリシエート)することにある」。

至言だと思う。

 

 

川本三郎『美しい映画になら微笑むがよい』

 

 

 


【書評した本】 『筒美京平 大ヒットメーカーの秘密』

2021年09月16日 | 書評した本たち

 

 

立体的に甦る レジェンド作曲家

 

近田春夫

『筒美京平 大ヒットメーカーの秘密』

文春新書 935円

 

大ヒット曲「ブルー・ライト・ヨコハマ」や「木綿のハンカチーフ」などで知られる、作曲家の筒美京平。昨年10月に80歳で亡くなった。

1960年代後半からの約半世紀で、発表した楽曲は約2700曲。ヒットチャートのトップ10入りが約200曲。作曲作品の総売上枚数、約7600万枚は国内作曲家歴代1位だ。

そんな音楽界のレジェンドを語るのに最もふさわしい人物が本を出した。近田春夫『筒美京平 大ヒットメーカーの秘密』である。

かつて『週刊文春』に連載した「考えるヒット」でも読者を唸らせた、音楽への直観力と分析力。そこに45年におよぶ筒美との交流から得た実感が加わる。

筒美が生み出すメロディは「すべて丸みを帯びて」いた。そこには「生理的な心地よさ」があり、「官能的な快感」に満ちている。支えていたのはクラシックの「楽典的な素養」と最新の洋楽についての「該博(がいはく)な知識」だと近田は言う。

庄野真代「飛んでイスタンブール」、ジュディ・オング「魅せられて」などが並んだ70年代。

松本伊代「センチメンタル・ジャーニー」、小泉今日子「なんてったってアイドル」、斉藤由貴「卒業」などが連打された80年代。

しかし、音楽産業のシステム化と弱肉強食化が進んだ90年代、筒美は「時代の音を作る」役割から徐々に離れていく。その潔さも筒美の美学だ。

本書の第2部は作詞家・橋本淳や歌手・平山みきとの対話篇。「人間筒美京平」が立体的に甦ってくる。

(週刊新潮 2021.09.16号)


異色の学園コメディー「古見さんは、コミュ症です。」が示す、他者とのつながり方

2021年09月15日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

「古見(こみ)さんは、コミュ症です。」

異色の学園コメディーが示す

他者とのつながり方

 

先週、NHKよるドラ「古見さんは、コミュ症です。」が始まった。

この「コミュ症」は、コミュニケーションが苦手な症状の略称。「コミュニケーション障害」を指す「コミュ障」とは別物で、医療用語や若者言葉でもない。オダトモヒトの同名原作漫画が生み出したオリジナルだ。

高校に入学した只野仁人(増田貴久)は、とてつもない美少女・古見硝子(池田イライザ)と同じクラスになる。極端に無口で、誰も寄せ付けない雰囲気の古見さん。しかし本当は人と接するのが苦手なだけで、関わりを持ちたくないわけではないことが分かってくる。

とはいえ、そう簡単に会話は成立しない。放課後の教室で、2人が黒板を使って筆談をする場面が不思議なくらい美しい。やがて、古見さんの夢が「友達100人つくること」だと判明。只野はその手伝いを申し出る。

いわば「日本一セリフの少ないヒロイン」である古見さんが見せる、究極の困惑顔が絶品だ。また本当は小心者で、静かな高校生活を望んでいた只野も、彼女をサポートすることで成長していく。25歳で女子高生の池田もさることながら、35歳であるにもかかわらず、すんなり高校生になり切ってしまう増田がすごい。

コミュニケーション過多の時代。古見さんは、その生きづらさを象徴しているかのようだ。異色の学園コメディーが示す、他者とのつながり方とは?

(日刊ゲンダイ「テレビ 見るべきものは!!」2021.09.15)


【気まぐれ写真館】 新宿紀伊國屋書店「向田邦子フェア」

2021年09月14日 | 気まぐれ写真館

2021.09.14


【気まぐれ写真館】 駒沢で、ひと休み

2021年09月13日 | 気まぐれ写真館


【気まぐれ写真館】 神楽坂 小雨

2021年09月12日 | 気まぐれ写真館


20年目の「9.11」 合掌

2021年09月11日 | 日々雑感

2021.09.11


8月の「戦争・終戦番組」から見えてきたもの

2021年09月11日 | 「ヤフー!ニュース」連載中のコラム

 

 

8月の「戦争・終戦番組」から見えてきたもの

 
かつて、毎年8月になると、テレビ各局は「戦争・終戦関連番組」を競って放送してきました。
 
その期間限定の集中度や風物詩的取り組みは、「8月ジャーナリズム」と揶揄(やゆ)されたほどです。
 
しかし民放ではその数が年々減っていき、東京オリンピックと重なった今年は、特筆すべきものが見当たりませんでした。
 
一方、NHKは今年も10数本の関連番組を放送しました。
 
中でも8月9日(長崎原爆の日)のNHKスペシャル『原爆初動調査 隠された真実』、13日の終戦ドラマ『しかたなかったと言うてはいかんのです』(9月4日夜、拡大版の放送あり)などの秀作が目につきました。
 
そして、今年の収穫とも言うべき1本が、15日(終戦の日)に放送されたNHKスペシャル『開戦 太平洋戦争~日中米英 知られざる攻防~』です。
 
番組の軸となっているのは、中国国民政府を率いていた蒋介石が遺(のこ)した、膨大な「日記」や「書簡」。
 
それらを解読することで、蒋介石が書簡による外交戦略や巧妙なプロパガンダによって、米英などの大国を日中戦争に介入させていったプロセスが見えてくる。
 
何より、太平洋戦争の開戦をめぐって、中国が果たした役割の大きさに驚かされました。
 
また、総理大臣の近衛文麿をはじめとする日本の指導者たちが、どれだけ世界の動向に鈍感で、いかに潮流を見誤っていたのかも理解できたのです。
 
たとえば、南京陥落による戦勝気分で和平条件をつり上げてしまい、蒋介石との交渉は暗礁に乗り上げた。
 
この頃の蒋介石の日記には、
 
「もし日本が柔軟な条件を提示していれば、政府内で対立が起き、動揺すると懸念していた。いまこのような過酷な条件を見て安心した。我が国は、これを受け入れる余地はない」
 
とありました。
 
日本は、戦争の早期収拾の機会を、自ら潰(つぶ)していったのです。
 
番組を見ながら、何度か現在の日本との重なりを感じました。
 
・指導者たちには、現実を正確に把握して分析を行い、進むべき道を判断する能力が欠けていた。
 
・大局を見ようとせず、自分たちにとって都合のいい情報だけを信じ、場当たり的な政策ばかりを打ち出していく。
 
・全体を動かすのは「空気」であり、誰も責任を取ろうとはしなかった。
 
――知っているはずの過去に隠された、知られざる真実。
 
この番組を通じて、「歴史に学ぶこと」の大切さを再認識しました。
 
ちなみに、取材協力者としてエンドロールに表記されていた一人が、『戦争まで~歴史を決めた交渉と日本の失敗』『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』などの著書で知られる、東京大学の加藤陽子教授です。
 
加藤先生が、日本学術会議の会員に推薦されながら、菅義偉首相によって任命を拒否されたことを思い出しました。
 

「SWITCHインタビュー 達人達」みうらじゅん×樋口真嗣 「特撮」先駆者へのリスペクト

2021年09月10日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

「SWITCHインタビュー 達人達」

みうらじゅん×樋口真嗣編で感じた

先駆者への深いリスペクト

 

対談番組の面白さは、人物の組み合わせとテーマで決まる。

NHK・Eテレ「SWITCHインタビュー 達人達」では、異なるジャンルが出合う“異種格闘技”が刺激的だが、同好の士が好きなものについて熱く語る“偏愛合戦”もまた楽しい。

先日放送された「みうらじゅん×樋口真嗣」編は、まさにそれだった。何しろテーマが「怪獣」である。

みうらは小学生時代、4年間にわたって「怪獣スクラップ帳」を作り続けた。やがて怪獣から仏像へと向かうなど、「スキマをどう面白く見せるか」に邁進する姿勢は今も変わらない。

一方の樋口は特撮現場の「見学者」から始まり、ついには平成版「ガメラ」シリーズで本物の「特技監督」になってしまう。

無名だった樋口が、自主制作で「ウルトラマン」を撮っていた大学時代の庵野秀明と出会う話などうれしくなってくる。

そんな樋口と庵野が、「シン・ゴジラ」に続いて取り組んだのが「シン・ウルトラマン」だ。

番組の中で、樋口は登場する怪獣として「ネロンガ」と「ガボラ」を挙げていた。

電気がエネルギーのネロンガ。ウランが好物で放射能光線が武器のガボラ。旧怪獣たちの進化とウルトラマンとの新たな戦いを早く見たい。

2人の話に好感が持てるのは、そこに円谷英二監督や円谷一監督、脚本家の金城哲夫ら特撮の先駆者たちへの深いリスペクトがあるからだ。

(日刊ゲンダイ「テレビ 見るべきものは!!」2021.09.08)


ワンダCMの千鳥 ”クセ”ある寓話 笑いのツボ

2021年09月09日 | 「日経MJ」連載中のCMコラム

 

 

”クセ”ある寓話 笑いのツボ

アサヒ飲料 ワンダ

「朝ワン どっちの金の微糖」篇

 

1人の木こりがいました。仕事中に手をすべらせ、斧を泉に落としてしまいます。そこに突然、美しい女神が現れて……。「金の斧銀の斧」として知られる、イソップ童話の一編だ。

缶コーヒー「ワンダ」の最新CMでは、木こりならぬ千鳥のノブさんが「金の微糖を湖に落としてもうた!」と騒ぐ。すると女神のはずもない大悟さんが、落としたのは「金の金の微糖」か、それとも「銀の金の微糖」かと尋ねる。「ややこしいな!」と困惑顔のノブさんに、つい笑ってしまう。

2500年以上も前に古代ギリシャで生まれた寓話が、漫才の〝クセが強いネタ〟として現代に甦る。肩の力が抜けていながら意外な笑いのツボを押してくる、千鳥ならではの神業だ。出来れば「アリとキリギリス」や「北風と太陽」も千鳥バージョンが見たくなる。

ちなみに、もしも大悟さんが言うような純金製の「金の微糖」があったとしよう。金1gの最近の値段は7000円前後。ワンダ1本が185 gだから約130万円だ。ノブさんは誘惑に勝てるだろうか。

(日経MJ「CM裏表」2021.09.06)

 


終盤の『ハコヅメ』  俳優・滝藤賢一も驚いた、 永野芽郁「怒涛の感情表現」

2021年09月08日 | 「ヤフー!ニュース」連載中のコラム

 

終盤の『ハコヅメ』 

俳優・滝藤賢一も驚いた、

永野芽郁「怒涛の感情表現」

 
好調の『ハコヅメ〜たたかう!交番女子〜』(日本テレビ系、水曜夜10時)も、いよいよ終盤。
 
初回からずっと謎だった、藤聖子(戸田恵梨香)がハコヅメ(交番勤務)になった本当の理由が、徐々に明らかになってきています。
 
そこには、藤や源(三浦祥平)と同期だった婦人警察官、桜しおり(徳永えり)が関係していました。
 
かつて伊賀崎(ムロツヨシ)と一緒に交通事故の処理をしていた時、桜はひき逃げ事故に遭っていたのです。
 
一命はとりとめたものの、今も休職したままリハビリに励む桜。
 
ひき逃げ犯の逮捕を諦めない藤。
 
そんな藤が、新人婦警に執着する怪しい人物「守護天使」をおびき出すために、桜に似た川合麻依(永野芽郁)とペアを組んだのかもしれない・・・。
 
尊敬し、慕っている藤に対して、初めて疑念を抱いた川合の心は、千々に乱れます。
 
普段はバタバタと走り回り、ドジを踏み、泣き笑いの連続である川合。
 
いや、だからこそ、ふとした瞬間に見せる、抑えきれない感情の揺れが目を引きます。
 
この「抑えきれない感情」の表現こそ、女優・永野芽郁の真骨頂かもしれません。
 
7日に放送された『伊集院光とらじおと』(TBSラジオ)で、ゲストの滝藤賢一さんが永野さんについて語っていました。
 
滝藤さんは、2018年のNHK朝ドラ『半分、青い。』で、永野さんと共演しています。
 
伊集院さんが訊きました。
 
「(共演してみて)すごかったなっていう人、います?」
 
すると、滝藤さん―――。
 
「芽郁はすごかったですね、永野芽郁。ちょっと、ぶったまげましたね」
 
続けて、
 
「(朝ドラの)過酷なスケジュールの中で、(気力や体力を)どんどん消費するじゃないですか。(永野さんも)本番直前まではボーっとしてるんですけど、スイッチが入ったら、スタートが掛かったら、信じられないくらい感情があふれ出すんですよ。もう見入りましたね。すげえ女優がいるなって思いましたね。まだ19歳でしたけど」
 
「出来る人はそれが10代から出来ちゃうんだ」と感心する伊集院さん。
 
「まあ、どういう感覚で演(や)ってるか、わかんないですけど。滅多にないですね、あそこまで心を揺さぶられるって」
 
数々の現場で、たくさんの俳優たちと向き合ってきた滝藤さんでさえ、「見入ってしまう」ほどの感情表現。「滅多にない」ほど心を揺さぶられる演技。
 
永野芽郁、やはり只者ではありません。
 
『ハコヅメ』も、残すところ、あと2回のみ。
 
桜のひき逃げ事件の真相は? 
 
川合と藤の「つながり」の行方は?
 
滝藤賢一を驚かせた、永野芽郁の「怒涛の感情表現」が見逃せません。
 
 

東京新聞の「向田邦子」特集記事で・・・

2021年09月07日 | 本・新聞・雑誌・活字

 

 

向田邦子さん 没後40年 色あせぬ魅力

 

数々のドラマ脚本を手掛け、名エッセイストでもある直木賞作家向田邦子さん(1929〜81年)。没後40年の今年は関連本が相次いで出版され、変わらぬ人気を誇る。人々をひきつけて離さない魅力とは何だろう。向田さんとその作品をこよなく愛する人たちを取材した。【北爪三記】

向田さんの命日の八月二十二日。東京・多磨霊園に「向田邦子研究会」の会員七人が集まった。コロナ禍とあって例年より参加者は少ないものの、毎年欠かさぬ墓参りのためだ。向田さんが好んだという黄色いバラなどを墓前に供え、一人一人手を合わせる。

「向田さんが好き、というところでつながっている。だから、初めてでもすぐ打ち解けるんですよ」。会の代表で共立女子大教授(日本語表現学)の半沢幹一さん(67)が笑う。

会は、向田さんが卒業した実践女子専門学校を前身とする実践女子大の教職員ら五人で、一九八八年に発足。現在は北海道から鹿児島まで二十〜九十代の約百五十人の会員がいる。これまでに『向田邦子文学論』(新典社)、『向田邦子愛』(いそっぷ社)など三冊を刊行。年四回発行の会報には、会員それぞれの熱い思いがあふれる。

テレビドラマがきっかけという人も多く、小川雅也さん(60)もその一人。「『寺内貫太郎一家』や『阿修羅のごとく』を夢中で見ました」。むろん、小説『あ・うん』や直木賞を受賞した「花の名前」「かわうそ」「犬小屋」などの短編、「父の詫(わ)び状」「字のない葉書(はがき)」といったエッセーは脈々と読み継がれている。

今年は多くの関連本が刊行された。作品から向田さんの言葉をえり抜いた『少しぐらいの嘘(うそ)は大目に 向田邦子の言葉』(碓井広義編、新潮文庫)や、食にまつわるエッセーとシナリオを収めた『メロンと寸劇』(河出書房新社)、ムックを文庫化した『向田邦子を読む』(文春文庫)など。特集を組んだ雑誌もある。

五十編を収録した『向田邦子ベスト・エッセイ』(向田和子編、ちくま文庫)は昨年三月の刊行以来、二十刷、十六万部の人気ぶりだ。筑摩書房によると、購買層は五十歳以上の女性の割合が最も多く、これに迫るのが三十〜四十九歳の女性。同社営業部の担当者は「初めて読んだ、という声もある。入門として手に取りやすいのでは」と話す。

向田さんの作品は、戦前を含む昭和の時代を舞台に、日常にふと顔をのぞかせる人間の一面や、家族の姿を鮮やかに描く。平成、令和と移ったいまも、色あせないばかりか新たな読者をつかむのはなぜなのか。

半沢さんは、家族という普遍的なテーマに着目する。折しもコロナ禍による巣ごもりで、家族と向き合う時間が増えている。「向田さんは昭和の家族像を描いて共感を得たが、『あ・うん』などの作品のように、危ういバランスの上にあっても、家族の破壊までは描かなかった。それがいま逆に新鮮なのでは」とみる。

「生活者の感覚」を挙げるのは、会の事務局を担当する吉本邦子さん(50)。会報や読書会で「自分の感じていることを表現してくれている」という多くの声に接してきた。「日常生活で感じることが描かれ、共感につながっていると思う」。自身は向田さんの生き方にもひかれるという。「昭和一桁生まれの女性が、自分できちんと稼いで好きな暮らしをする。今の人から見てもかっこいい。憧れです」

会の発足時から携わる石川幸子さん(61)は、読み手ごとに幅を持って受け取ることができる平易な文体が魅力だと考える。「例えば、『父の詫び状』の最後の部分。父の心情は読む側に委ねられるから、受ける印象は状況によっても変わる」と言う。

それにしても、と石川さんはほほ笑む。「没後四十年で、こんなに関連の本が出る作家っているでしょうか」

(東京新聞 2021年9月6日)


【気まぐれ写真館】「TOKYO 2020」ピンバッジの記憶

2021年09月06日 | 気まぐれ写真館

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