ごっとさんのブログ

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抗生物質が効かないスーパーバグ

2016-06-13 10:37:41 | 健康・医療
アメリカで初めての抗生物質が全く効かない、細菌感染症が見つかったことが報道されました。こういった多剤耐性菌のことをスーパーバグと呼んでいますが、由来はよくわかりません。

今回の症例はペンシルベニア州の女性で、抗生物質耐性菌の場合最後に使用するコリスチンも効かなかったようです。こういった耐性菌についてはMRSAという菌株についてかなり前にこのブログでも取り上げましたが、この菌より耐性度が高いようです。

通常の菌が耐性となるメカニズムは、抗生物質の一部を分解したり修飾する酵素を獲得し、無効にするか、細胞壁あるいは膜の構造が変化し、薬剤が通りにくくなるためとされています。

余談ですが、抗生物質の濫用がこういった耐性菌を増やすということが言われていますが、私はあまり関係ないと思っています。現在使用されている抗生物質の大部分が、カビや放線菌が作り出す物質か、それに少し手を加えた類似物質からできています。こういった抗生物質生産菌はそれほど珍しいものではなく、自然界には多数存在していると思われます(たぶん生産量はそれほど多くありませんが)。

したがってこういったカビや放線菌と自然界で共存していくためには、細菌もこういった物質に抵抗する手段を獲得する、つまりある程度の頻度で耐性菌がいるということになります。ですから抗生物質耐性菌というのは100年程度短い期間で発生したわけではなく、何万年という長い進化で生まれてきたと思っています。

例えば感染症になり肺炎になった場合、当然抗生物質で治療します。そうすると通常の病原菌はほとんど死滅しますが、中に混じっているごくわずかの耐性菌は生き残るわけです。しかし通常は人間には免疫機能がありますので、それによって耐性菌は退治され完治するわけです。ですから耐性菌が問題になるのは主に医療機関内で、非常に高齢とか他に重篤な病気があり免疫がうまく働かないような人は、この耐性菌が増殖してしまうわけです。この耐性菌問題は特殊なケースと考えています。

さて今回のスーパーバグは大腸菌だったのですが、もともとはアシネトバクターという菌でいろいろ調べられています。当初この菌は毒素を出すと考えられていましたが、通常の耐性菌と同様にプラスミドという小さな遺伝子の中に色々な薬剤を不活性化する酵素遺伝子があることが分かりました。このプラスミドは核外の遺伝子で、他の菌株に移ることが知られています。

しかし結局はこのスーパーバグがなぜほとんどの抗生物質に耐性なのかはあまりはっきりしないようです。しかし現在は合成抗菌剤と言われる、完全に人工的な物質で細菌を殺す能力を持った薬が開発されていますので、それほど心配するようなことではないと考えています。