内的自己対話-川の畔のささめごと

日々考えていることをフランスから発信しています。自分の研究生活に関わる話題が多いですが、時に日常生活雑記も含まれます。

路傍の可憐な立ち姿 ― 菫草頌歌 桃青句鑑賞(4)

2014-11-06 19:13:44 | 詩歌逍遥

山路来て何やらゆかし菫草

 昨日鑑賞した句を詠んだ翌年貞享二年(一六八五)の春の句で、これも『野ざらし紀行』の一句。同紀行中の秀吟の一つとして当時より知られる。
 初案では、上五が「何とはなしに」。日本武尊にゆかりのある尾張の国熱田の名所白鳥山法持寺でで三月二十七日に行われた興行歌仙の発句。後に上掲句のように上五を改案し、『紀行』では、「大津に出づる道、山路を越えて」との詞書を添え、京都大津間の山路での作と虚構して配す。初案が菫草に対するいわく言いがたい感懐のみをそのまま詠んだだけであるのに対して、『紀行』の句は、菫草を見かけた場所と見つけるに至る時間の経過が具体的に限定されている。春先の穏やかな陽射しの中、なだらかな山道をゆっくりと歩いていると、ふと路傍にひっそりと可憐に咲く濃紫色の菫草に気づく。菫草の詩的形象が造化の妙への頌歌になっていて、格段の味わい。
 この句については、個人的に特別な思い出があり、それについては昨年夏のこの記事で話題にした。