内的自己対話-川の畔のささめごと

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哲学の実践の一つの生きた形 ― ミッシェル・フーコー『自分自身について本当のことを言うこと』所収のセミナーの記録を読んで

2017-07-09 17:56:10 | 哲学

 昨日紹介したフーコーの未公刊講演集 Dire vrai sur soi-même に収録されているセミナーの記録は、昨日の記事でも触れたように、録音からできるだけそれに忠実に起こした英語原稿を仏訳したものなので、フーコーが学生たちにセミナーの中でどのように対応しているかがよくわかって面白い。
 セミナーに参加した学生たちは講演も聴講していて、セミナーの第一回では、すでに聴いた講演内容に関する質問がいくつかはじめのほうに出てくる。学生たちからの質問は編者が要約してしまっているところもあり、同じ学生が一連の質問を続けているのか複数の学生から質問が出ているのかはわからないのだが、それはともかく、フーコーは、一つ一つの質問を真剣に受け止め、質問した学生が納得するように丁寧に答えようと努めている。
 セミナーに出席している学生たちは、記号学専攻であるから、哲学の知識は必ずしも十分ではなく、ましてや古代ギリシャ・ローマ世界についての知識は乏しく、そのことがフーコーの所説についていくのを難しくしており、その困難をめぐっての質問がセミナー第一回の最初の方で繰り返されている。
 学生たちには、古代ローマ社会における自己のテクノロジーと個人主義との間にフーコーが立てる区別がなかなか理解できない。フーコーの方も彼らの質問の意図がよく掴みきれない。そこでフーコーは質問した学生に対して、質問を紙に書いて提出してくれないかと頼む。それを読んで、次の講演の中でか、次回のセミナーの折に答えようと提案する。あるいはあなたとディスカッションしながら答えてもいいと言う。

Parce que je crois que c’est une question tout à fait fondamentale. Il n’y a pas de raison de traiter cette question, d’y répondre maintenant ou plus tard ou à la fin [de la séance]. Je crois que je dois répondre à cette question fondamentale et générale, et je crois que ce n’est peut-être pas exactement le moment maintenant. En tout cas, je voudrais très bien comprendre quelle est votre question. Vous êtes d’accord pour procéder ainsi ? Merci.

Michel Foucault, Dire vrai sur soi-même, op. cit., p. 162.

 質問の重要性をしっかりと受け止め、それに対してセミナーの中でお座なりな解答を与えて済ますのではなく、質問の意図をよく理解した上で、それについてよく考えてから答えようとするフーコーの姿勢は、まさに哲学の実践の一つの生きた形であろう。