内的自己対話-川の畔のささめごと

日々考えていることをフランスから発信しています。自分の研究生活に関わる話題が多いですが、時に日常生活雑記も含まれます。

特薦 山本淳子『源氏物語の時代 一条天皇と后たちのものがたり』(朝日選書 2007年)

2024-04-16 00:00:00 | 読游摘録

 2007年度サントリー学芸賞受賞作。「はじめに」から引用します。これを読むときっと続きを読みたくなりますよ。大河ドラマ『光る君へ』をご覧になっている方にとってもご覧になっていない方にとっても、その期待を裏切らない作品です。

本書がいざなう世界は、一見、歴史小説のそれに似ているかもしれません。しかし小説が本質的に小説家個人の想像力による創作物であるのに対し、本書は資料と学説のみに立脚し、あくまで〈伝えられてきた〉一条朝の再現を目指しています。何よりこころがけたのは、資料に耳を澄ますこと――史料や作品自体がもっている情感の世界を損なわずに、この時代をよみがえらせることです。幸いに、資料たちはみな雄弁でした。一条・定子・彰子という三人の主人公はもちろん、登場する脇役たちの人間性も生き生きと伝えることができたと思います。

なにより、一條天皇の時代を味わってください。その時代の人になった気持ちで、考えるよりも感じてもらえればよいのです。彼らの試練と成長の物語は、必ず心を打ちます。そしてその後で『源氏物語』や『枕草子』を読むならば、その目はもう前とは違うものになっているでしょう。新しい発見やさらなる好奇心が生まれてくるに違いありません。