内的自己対話-川の畔のささめごと

日々考えていることをフランスから発信しています。自分の研究生活に関わる話題が多いですが、時に日常生活雑記も含まれます。

もう一つ辞書項目執筆追加というめぐりあわせを寿ぐべきか

2024-04-29 19:20:05 | 雑感

 先週木曜日、例の日本哲学辞典の他の執筆者から思いがけないメールが届いた。自分が担当することになっている項目を執筆する時間が公務多忙でどうしても取れないから、代わりに書くか、分担するか、手助けするか、何らかの仕方で協力してほしいという依頼である。ようやく自分の執筆項目を書き終えてやれやれと思っていたところで、正直、ちょっと困惑した。
 が、その執筆者の苦衷を知っているがゆえに、なんとか助けたいとも思った。で、共同執筆を提案した。作業をできるだけ効率よく進めるためには、私が主要部分を日本語で書き、美学が専門の彼がそれを仏訳するのが最良と判断し、そう提案した。今日、その提案に対する了解と感謝の返事が届いた。
 というわけで、日本哲学辞典の項目執筆はまだ続くことと相なった。その項目は大西克礼(1888‐1959)である。晩年の『美学』がその業績の集大成として知られているが、日本及び東洋の伝統的美学のいくつかの範疇について細密な理論的考察行った点でも稀有な美学者である。『幽玄とあはれ』(1939年)、『風雅論 ―「さび」の研究』(1940年)、『万葉集の自然感情』(1943年)など、大西が戦中に公刊した著作には、哲学的興味とともに近代日本思想史の観点から、私自身強い関心をもっている。
 幸いなことに、書肆心水の大西克礼美学コレクション三巻本(『幽玄・あはれ・さび』『自然感情の美学 万葉集と類型論』『東洋的芸術精神』、2012~2013年)が手元にある。つまり、提案した執筆事項に必要な文献はもう揃っているのである。
 こういうことを「めぐり合わせ」と言うのであろうか。