特別な意図があって選んだわけではなく、ただ空港から近く、比較的安く、短期間ならそこそこ快適に過ごせそうという理由だけで選んだホテルに今いる。およそ観光には縁のない場所だ。昨晩九時過ぎにチェックイン、荷物を部屋に置いたらすぐにホテル内のレストランで遅めの夕食を済ませる。
都内でありながらこれまでまったく縁のない区で、ホテルからほど遠からぬ街区には小さな町工場が立ち並ぶ。今朝、出発前におおよその地図を頭に入れただけで、六時半すぎから一時間半ほどその一帯をジョギングした。携帯も持参したが見なかった。そのほうがいろいろと発見があって面白そうだ。町工場が立ち並ぶ一帯には独特の香りがする。油や金属の削り屑、あるいは何か分からないが薬品の匂いが漂う。七時前だというのに、もう職人さんや工場勤務の人たちが事務室やガレージで仕事の準備を始めているのが見える。
走りながら、多分四十年ほど前に読んだ小関智宏の『大森界隈職人往来』(朝日文庫版、今は岩波現代文庫版の中古本のほうが入手しやすい)のことを思い出した。六十年代から七十年代にかけて、日本経済の柔構造を支えた町工場の誇り高き職人さんたちはこの地区に住んでいたのだ。数人の零細工場でありながら、その技術水準は世界最高レベルの工場がかつてはこの地域にいくつもあった。
その一帯の周辺には東京湾埋め立て地区内にいくつかの公園などもあり、ジョギングコースとしても悪くない。
途中、東京湾上に登り始めた朝日とともに埋め立て地区の大型工場に向かう自転車の群れと一緒になる。その中には外国人労働者も少なくない。
この一帯のここ半世紀余りの変容をつぶさに観察すれば、その間の日本社会の変化の縮図が浮かび上がってくるのかもしれない。
そんなことを考えながら15キロ走った。
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