(最近、書き始めた拙作です。適当な時期に削除する可能性があります。題名が未だに思いつきません。募集中ってやつです)
「坊や、どうしたんだい」
誰もが恐れる樹海に子供が泣いていたのを見て、男は言った。子供を心配しているとしか見えない場面だが、薙刀は確実に子供の首を刎ねる位置にあった。樹海独特の湿度の高さが皮膚にまとわりつく。
「血がとまらないし、道がわからない」
受け答えができるということは鬼ではない。男は子供に対する薙刀の構えを解いてから、微笑ましいという表情をした。樹海では道が分からない方が恐怖だが、この子供は血が止まらない方を先に言ったからだ。傷は小さく、出血の量は大したことがないが、血が止まらないようだ。
いや、まてよ、ここでは血を流しているのも十分、恐ろしいことに入るな、どちらを先に言うかは趣味の問題にすぎないということか、そう思いながら男は傷を観察する。
「血樹蛭だな。血樹の近くに寄ったのかい? こいつに噛まれると血は中々止まらないからね。ちょっと傷を診ていいかな」
「あ、あなたはどなたですか」
子供は怯えた声を出す。
今度は苦笑いを男は浮かべた。確かに怪しい身なりをしていたからだ。布で顔を覆い、曜石を薄くしたものを眼鏡にしている。左肩には、何かの動物がいるのであろうか、毛むくじゃらの塊の中に目が二つ光っている。腰には円筒形の鞄がいくつかついている。左手で薙刀を持ち、そして、彼の右手は「緑色」をしていた。
「私はアン・ジョンミョン。施薬士だよ。安心して」
子供を安心させたいという主人の意志をくんで左肩の細長い動物は左肩の上に立ちあがりながら、優しげな声を出す。
「施薬士?」
初めて聞く言葉らしかった。辺境には施薬士もいないのか、という思いがアンの胸にあった。都では、余っているほどなのに。薬門院は、施薬士のいない地域はないと宣言しているのに。
「施薬士はね、ケガを治せるんだよ。さあ、傷をもっと見せて」
アンが傷を見るが、幸い深い傷ではなかった。アンは緑色の右手の掌を一瞬、上に向ける。色が少しだけ変化したように子供には見えた。傷をその掌でつかんだ。
男の子は瞬間、体が動いた。
「しみるかい」
アンが手をどかすと傷から血は出なくなっていた。しかも、治りかけている。
子供は驚きながら、嬉しそうに話す。
「ありがとうアン様。僕はトゥ・タオチャン。すごいですね。施薬士って。そんな手、初めて見ました」
「アンでいいよ。誰でもこの手を持っているわけではないけどね。まだ、お礼には少し早いかな」
アンが振りかえると何本もの木がいっぺんに倒される音がする。
そこには熊がいた。子供の血の匂いにつられてきたのだろう。二人もいることが嬉しいのか、興奮している。
こんなに餌がある状況も珍しいのだろう。
「ちょうど良かった。熊の内臓はまだ採集が終わっていなかったんだ」
彼は戦う姿勢を見せる。背筋を伸ばし、軽く跳ねる。少しでも体を大きく見せることとすぐに動けるようにだ。熊は大きい動物を狙うのを苦手としている。左手で下の方に薙刀を構える。左肩の動物は主人の意をくんで、下半身の脚でアンの肩にしがみつきながら、上半身は先ほどは見えなかった牙を剥き出しにした。熊の爪といい勝負だ。右手は先ほどとは違う色になりはじめた。
熊は睨む。熊に対して、戦う意志を示す動物は樹海では鬼以外にいない。熊は樹海最強の生物であるし、人間世界でも潤帝国欽軍強熊台は最強の代名詞であった。したがって、人間は逃げるものである。熊は困惑していた。襲うべきか、無視すべきか。
アンは左前方に跳び、間合いをつめる。左肩の動物も左手の薙刀も熊の右手を狙う。まるで、動物は三本目の手だ。アンは熊の左手が届かないところに向かったのだ。
熊は当然の行動を取った。右手は攻撃されて使えない。左手は届かない。しかし、噛もうと首を伸ばした。熊の牙と顎は最大の武器である。その武器は封じられていない。一見、無駄な攻撃をアンはしたにすぎない。
しかし、その時。
アンは緑色の右手を熊の口の中に叩きこんだ。
「坊や、どうしたんだい」
誰もが恐れる樹海に子供が泣いていたのを見て、男は言った。子供を心配しているとしか見えない場面だが、薙刀は確実に子供の首を刎ねる位置にあった。樹海独特の湿度の高さが皮膚にまとわりつく。
「血がとまらないし、道がわからない」
受け答えができるということは鬼ではない。男は子供に対する薙刀の構えを解いてから、微笑ましいという表情をした。樹海では道が分からない方が恐怖だが、この子供は血が止まらない方を先に言ったからだ。傷は小さく、出血の量は大したことがないが、血が止まらないようだ。
いや、まてよ、ここでは血を流しているのも十分、恐ろしいことに入るな、どちらを先に言うかは趣味の問題にすぎないということか、そう思いながら男は傷を観察する。
「血樹蛭だな。血樹の近くに寄ったのかい? こいつに噛まれると血は中々止まらないからね。ちょっと傷を診ていいかな」
「あ、あなたはどなたですか」
子供は怯えた声を出す。
今度は苦笑いを男は浮かべた。確かに怪しい身なりをしていたからだ。布で顔を覆い、曜石を薄くしたものを眼鏡にしている。左肩には、何かの動物がいるのであろうか、毛むくじゃらの塊の中に目が二つ光っている。腰には円筒形の鞄がいくつかついている。左手で薙刀を持ち、そして、彼の右手は「緑色」をしていた。
「私はアン・ジョンミョン。施薬士だよ。安心して」
子供を安心させたいという主人の意志をくんで左肩の細長い動物は左肩の上に立ちあがりながら、優しげな声を出す。
「施薬士?」
初めて聞く言葉らしかった。辺境には施薬士もいないのか、という思いがアンの胸にあった。都では、余っているほどなのに。薬門院は、施薬士のいない地域はないと宣言しているのに。
「施薬士はね、ケガを治せるんだよ。さあ、傷をもっと見せて」
アンが傷を見るが、幸い深い傷ではなかった。アンは緑色の右手の掌を一瞬、上に向ける。色が少しだけ変化したように子供には見えた。傷をその掌でつかんだ。
男の子は瞬間、体が動いた。
「しみるかい」
アンが手をどかすと傷から血は出なくなっていた。しかも、治りかけている。
子供は驚きながら、嬉しそうに話す。
「ありがとうアン様。僕はトゥ・タオチャン。すごいですね。施薬士って。そんな手、初めて見ました」
「アンでいいよ。誰でもこの手を持っているわけではないけどね。まだ、お礼には少し早いかな」
アンが振りかえると何本もの木がいっぺんに倒される音がする。
そこには熊がいた。子供の血の匂いにつられてきたのだろう。二人もいることが嬉しいのか、興奮している。
こんなに餌がある状況も珍しいのだろう。
「ちょうど良かった。熊の内臓はまだ採集が終わっていなかったんだ」
彼は戦う姿勢を見せる。背筋を伸ばし、軽く跳ねる。少しでも体を大きく見せることとすぐに動けるようにだ。熊は大きい動物を狙うのを苦手としている。左手で下の方に薙刀を構える。左肩の動物は主人の意をくんで、下半身の脚でアンの肩にしがみつきながら、上半身は先ほどは見えなかった牙を剥き出しにした。熊の爪といい勝負だ。右手は先ほどとは違う色になりはじめた。
熊は睨む。熊に対して、戦う意志を示す動物は樹海では鬼以外にいない。熊は樹海最強の生物であるし、人間世界でも潤帝国欽軍強熊台は最強の代名詞であった。したがって、人間は逃げるものである。熊は困惑していた。襲うべきか、無視すべきか。
アンは左前方に跳び、間合いをつめる。左肩の動物も左手の薙刀も熊の右手を狙う。まるで、動物は三本目の手だ。アンは熊の左手が届かないところに向かったのだ。
熊は当然の行動を取った。右手は攻撃されて使えない。左手は届かない。しかし、噛もうと首を伸ばした。熊の牙と顎は最大の武器である。その武器は封じられていない。一見、無駄な攻撃をアンはしたにすぎない。
しかし、その時。
アンは緑色の右手を熊の口の中に叩きこんだ。