熊本熊的日常

日常生活についての雑記

独断歓迎

2011年11月20日 | Weblog
子供と西洋美術館で開催中のゴヤ展を観た後、亀屋一睡亭で鰻重をいただいた。この店は鈴本のサイトに紹介されていて、他に天ぷらという選択肢もあったのだが、子供が鰻がいいというので亀屋のほうにしたのである。鰻はそう頻繁に食べるわけではないのだが、ここの鰻重(竹)は旨い。旨いという経験があるから、今こうして振り返ってみて思うのかもしれないが、器の漆器の佇まいが尋常ではなかった。テーブルに置かれた瞬間、これは旨いに違いない、と思わせる何かがあった。器の蓋を開けた瞬間、おっ、と思わせるものが感じられた。口に運んでみて、そうした印象が確信に変わるのである。

店を出ると、子供も「おとうさん、今の鰻すごくおいしかったね」と言っていた。月に一度くらいしか会わないので、会う時くらいは旨いものを食わせたいという思いがある。人と人との関係というのは、結局のところ、どれほど根源的な欲望を共有する経験を重ねるかによって、その深さが決まるのではないだろうか。親子あるいは家族の場合なら、基本は食ではないかと思うのである。いっしょに旨いものを食う、という経験を重ねることが良好な関係の基本中の基本だろう。

食事の後、江戸東京博物館で開催中のヴェネツィア展を観て少し腹がこなれたところで、神田へ回り、竹むらを訪れたら休みだった。仕方がないので、都営新宿線に乗って新宿三丁目に出て、追分だんごへ行ってみると待ち行列ができていたので、和風から洋風に切り替えて、ボウルズカフェを訪ねた。こちらも満席だったが、ちょうど客が一組勘定に立ったところだったので、そのまま少し待って、ここで一服した。ふたりとも「紅玉りんごとバナナのスクエアケーキ バニラアイス乗せ」を頼み、飲み物は子供がアイスティー、私はリッチブレンドを注文した。街中にコーヒーを出す店は多いけれど、コーヒーらしいコーヒーを出す店は数えるほどしかない。この店を切り盛りしているのは若い人たちだが、ここのコーヒーはちゃんとしたコーヒーだ。よくチェーン店のカフェで巨大な紙コップになみなみと注がれたコーヒー風の得体の知れないものを飲んでいる人があるが、その感覚は私には理解不能だ。

ところで、ゴヤ展だが、ポスターやチケットに使われているのは「着衣のマハ」だ。これ以上はないくらいに有名な作品をそういうところに使っている場合、過去の経験からすると、実際に展覧会を観たときに、専門家にとってはともかくとして、私のような一般大衆の眼には一点勝負に見えることが多い。今回もその経験則が活きる結果となった。西洋美術館では2002年にプラド美術館展が開催されているのだが、油彩のほうにその時に来日した作品で、今回も展示の中核を成すものが2点ある。「マハ」をどう観るかということ次第ではあるのだが、私は前回のプラド美術館展のほうが楽しいものに感じられた。

ヴェネツィア展のほうは、ポスターやチラシは2種類あり、片方がカルパッチョの「サン・マルコのライオン」、もう一方がやはりカルパッチョの「二人の貴婦人」だが、展示は絵画だけでなく、ヴェネツィアの歴史を象徴するものがまとめられている。カルパッチョやベリーニ(兄弟)の作品を日本で観る機会というのは貴重なので、そういう意味では一見の価値がある展覧会だ。

ところで、タイトルの「独断歓迎」だが、鈴本のサイトの「食処・呑処」のページに「このコーナーは、席亭の独断により皆様にお勧めするお店です。」と書かれていることに由来している。