今から20年以上も前のことだが、2年間ほどイギリスのマンチェスターという町で生活をしたことがある。そこでは、日曜日というと街中の商店は休業で、ぽつりぽつりと営業しているのはインド人や中国人が営んでいる店くらいのものだった。その当時、数ヶ月間をドイツのアウグスブルクという町で過ごしたこともあったが、こちらはマンチェスターよりも街が小さいということもあり、カトリックの街であるということもあり、日曜日はマンチェスターよりもさらに静かだった。日本では週末といえば商店にとっては書き入れ時で、日曜に休業するのは銀座の和光くらいのものだと思っていた。しかし、週に一度、街が静まり返る風景というのは、慣れてみれば心地よいものだった。
今日、ちょっと気になっていることがあって、実家に行くついでに、少し早く住処を出て蕨に立ち寄った。以前にも書いた通り、私はこの町で生まれた。日本で一番小さな市であり、日本で人口密度が最も高い市でもある。生まれてからイギリスに留学する25歳まで、ずっと蕨と隣接する戸田を生活圏にしてきた。27で留学から帰国し、30で結婚するまでの間もここで暮らしていたので、人生の前半をこのあたりで過ごしたことになる。
子供の頃は、蕨駅西口から国道17号に突き当たるまでが商店街で、かなり賑わっていた記憶がある。今、この商店街を歩くと、そうした歴史を知らない人の眼には奇異に映ると思われることがいくつかある。例えば、銀行は駅周辺に立地しているのが一般的だが、ここでは埼玉りそな銀行が駅からかなり離れた場所にあり、さらに駅から遠ざかったところに川口信用金庫がある。妙な立地だと思われるだろうが、かつては商店街のど真ん中だったのである。蕨はその昔は中山道の宿場で、街の中心は駅のあたりではなく、市役所や郵便局がある旧道のあたりだ。蕨駅が開業したのは明治26年なので、駅と旧市街の間に人の動線が形成され、それに沿うように商店街ができることに何の不思議も無い。マルエツというスーパーがあるが、この本社が1974年からダイエー傘下に入る1981年まで蕨にあった。東証一部上場の宝飾メーカーでツツミという会社があるが、この本社も蕨で、かつての商店街から少し外れた場所にある。データを持っているわけではないが、この商店街を歩くと、和装店が多いことに気付くだろう。茶を扱う店もそこそこあるが、おそらく、昔ながらの人の交流が比較的続いているのではないだろうか。それで着物や宝飾品を扱う店が比較的多く立地しているということではないだろうか。
今は商店街も虫食いのように空き店舗やコインパーキングが点在するようになってしまったが、まだかろうじて商店街の風情が残っている。ここにある商店のなかで、食品関係の店を中心に今日が休業日のところがけっこうある。本来は、このような地域密着型の商店街は日曜が休みというところが少なくなかったはずだ。土日の買い物は繁華街の大型店舗で楽しみ、普段の買い物は地元の商店街、という棲み分けが機能していたように思う。それがいつの頃からか、小売店は休むことなく営業を続けるのが当然のようになってしまった。そうなると休業することで機会損失を発生させることへの不安が蔓延するのだろう。休むに休めなくなり、それが店舗運営に無理を生じることにつながり、営業の継続が困難になるという悪循環を生んでいるのではないかと思うのだが、どうだろうか。
どうせ週末の人の流れは都内の繁華街へ向かってしまうのだから、こうして日曜は休むというのが合理的であるように思う。そして英気を養ったり、商売のアイディアを考えたりするほうが、長い目で見ればよほど生活に得るところが大きいのではないだろうか。今日は私のお目当ての店も休みだった。せっかく足を運んだのに残念、と思うような小さな人間では生きていてもろくなことにはならないだろう。だいぶ荒廃しているが、よく眺めれば、まだまだ子供の頃の家並の断片が残っている面白い街並みだ。そういうところをゆっくりと歩くことができたのは、商店街に休みの店が多く、人出も少なく静かだからだろう。そういうことを有り難いことだと、負け惜しみでもなんでもなく、素直に思えるようになったことがなにより嬉しかったりする。
今日、ちょっと気になっていることがあって、実家に行くついでに、少し早く住処を出て蕨に立ち寄った。以前にも書いた通り、私はこの町で生まれた。日本で一番小さな市であり、日本で人口密度が最も高い市でもある。生まれてからイギリスに留学する25歳まで、ずっと蕨と隣接する戸田を生活圏にしてきた。27で留学から帰国し、30で結婚するまでの間もここで暮らしていたので、人生の前半をこのあたりで過ごしたことになる。
子供の頃は、蕨駅西口から国道17号に突き当たるまでが商店街で、かなり賑わっていた記憶がある。今、この商店街を歩くと、そうした歴史を知らない人の眼には奇異に映ると思われることがいくつかある。例えば、銀行は駅周辺に立地しているのが一般的だが、ここでは埼玉りそな銀行が駅からかなり離れた場所にあり、さらに駅から遠ざかったところに川口信用金庫がある。妙な立地だと思われるだろうが、かつては商店街のど真ん中だったのである。蕨はその昔は中山道の宿場で、街の中心は駅のあたりではなく、市役所や郵便局がある旧道のあたりだ。蕨駅が開業したのは明治26年なので、駅と旧市街の間に人の動線が形成され、それに沿うように商店街ができることに何の不思議も無い。マルエツというスーパーがあるが、この本社が1974年からダイエー傘下に入る1981年まで蕨にあった。東証一部上場の宝飾メーカーでツツミという会社があるが、この本社も蕨で、かつての商店街から少し外れた場所にある。データを持っているわけではないが、この商店街を歩くと、和装店が多いことに気付くだろう。茶を扱う店もそこそこあるが、おそらく、昔ながらの人の交流が比較的続いているのではないだろうか。それで着物や宝飾品を扱う店が比較的多く立地しているということではないだろうか。
今は商店街も虫食いのように空き店舗やコインパーキングが点在するようになってしまったが、まだかろうじて商店街の風情が残っている。ここにある商店のなかで、食品関係の店を中心に今日が休業日のところがけっこうある。本来は、このような地域密着型の商店街は日曜が休みというところが少なくなかったはずだ。土日の買い物は繁華街の大型店舗で楽しみ、普段の買い物は地元の商店街、という棲み分けが機能していたように思う。それがいつの頃からか、小売店は休むことなく営業を続けるのが当然のようになってしまった。そうなると休業することで機会損失を発生させることへの不安が蔓延するのだろう。休むに休めなくなり、それが店舗運営に無理を生じることにつながり、営業の継続が困難になるという悪循環を生んでいるのではないかと思うのだが、どうだろうか。
どうせ週末の人の流れは都内の繁華街へ向かってしまうのだから、こうして日曜は休むというのが合理的であるように思う。そして英気を養ったり、商売のアイディアを考えたりするほうが、長い目で見ればよほど生活に得るところが大きいのではないだろうか。今日は私のお目当ての店も休みだった。せっかく足を運んだのに残念、と思うような小さな人間では生きていてもろくなことにはならないだろう。だいぶ荒廃しているが、よく眺めれば、まだまだ子供の頃の家並の断片が残っている面白い街並みだ。そういうところをゆっくりと歩くことができたのは、商店街に休みの店が多く、人出も少なく静かだからだろう。そういうことを有り難いことだと、負け惜しみでもなんでもなく、素直に思えるようになったことがなにより嬉しかったりする。