万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

対中武器輸出解禁問題―EUはアジアを犠牲にしないで

2010年04月05日 15時46分57秒 | 国際政治
【野口裕之の安全保障読本】中国に「目覚め」る欧州(産経新聞) - goo ニュース
 巨額の貿易黒字をため込んでいる中国は、EUが、天安門事件をきっかけとして設けた武器輸出措置を解除するよう求めているようです。深刻な経済危機に見舞われている国からしますと、藁をも掴む思いで自国の武器を輸出したいと思うのも山々かもしれません。しかしながら、中国への武器売却は、アジアを犠牲にすることになると思うのです。

 この件に関して、中国は、武器輸出禁止措置は、”政治的差別”と主張しているようです。しかしながら、通常の貿易品とは違って、武器の売却には政治的な意味合いが含まれるものです。武器の提供が、既に味方としての立場を示したものと解されるように、武器を売却するという行為は、政治的な差別ではなく、極めて政策的で戦略的な決定です。アメリカが、ロシアや中国に武器を輸出しないのは、それが、自国の安全を脅かす可能性があるからに他なりません。潜在的に敵となり得る国に対しては、武器輸出に慎重になるのは当然のことなのです。としますと、もし、EUが、中国に対して武器売却を解禁するとしますと、EUは、中国から軍事的な脅威を受けているアジア諸国に対して、もはやその安全は顧みないことを表明した格好になります。

 アジアに有事が発した場合、アメリカとの同盟関係からNATOが域外派兵を行う可能性は高いのですが、これでは、EUの行為は、マッチ・ポンプとなってしまいます。中国の軍事的な脅威は、天安門事件当時とは比較にならないほど高まっているのですから、アジアの安全と平和のために、EUには、武器輸出の解禁は思いとどまっていただきたいと思うのです。

 よろしければ、クリックをお願い申し上げます。


にほんブログ村 政治ブログへ
にほんブログ村
コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする