万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

WTO協定―政府調達電子入札化の問題点

2010年07月23日 16時18分09秒 | 国際経済
 本日の朝刊一面に、WTO加盟各国は、政府調達について、インターネットを使った電子入札制度を導入することで合意したという記事が掲載されていました(本日付日経新聞朝刊)。当面は、政府調達協定が締結されている日米欧の先進国が中心ということですが、中国やインドなど、新規加盟国との交渉も開始されたそうです。

 ところで、この協定が新興国に拡大されるとしますと、これに先だって、幾つかの問題点をクリアにしておく必要があるのではないかと思うのです。

 第1に、落札基準を価格のみに限定しますと、”質”の確保が難しくなります。技術力、安全性、環境配慮・・・、といった価格以外の優位性を入札制度に組み込みませんと、事後における事故の発生や環境破壊の危険性を回避できなくなります。

 第2に、仮に、事故や損害が発生した場合、どのように損害補償の責任を分担するのか、予め、ルールを設ける必要があります。特に、政府調達の場合、公共性が高い事業となりますので、国家間の対立や紛争に発展するリスクが高くなるからです。

 第3に、政府調達は、物品のみならず、サービスや建設業にも及びますので、現地雇用とするのか、それとも、受注企業の本国から人員が派遣されるのか、雇用においても、ルール作りは重要です。もし、本国からとなりますと、人件費の低い国が圧倒的に有利となりますし、アフリカにおいて発生した中国人労働者による雇用独占といった問題が、他の諸国でも起きることになります。

 また、第4に、入札が価格競争となりますと、当然に、新興国が有利ということになります。いわば、一種の”価格破壊”が発生しますので、先進国側は、競争力強化政策を実施しておく必要があります。
 
 受注企業が、自国企業に限定されなくなりますと、景気対策として政府が公共事業を実施する意味が低下しますし、競争原理が働けば、政府は、調達費用を低く抑えることもできます。この点、財政の健全化には役立つのですが、自国企業が強みを活かせなくなったり、雇用問題が発生したりする恐れもあります。こうした問題を解決するためには、利害関係者の意見を聞きつつ、政府間の充分な協議が必要なのではないかと思うのです。

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