![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/5b/45/ae4dd5cfbc47eb38afc428ddc57331eb.png)
* 44 *
人生にはまた同じことが起こる可能性がありますからね。
戦争になったり、紛争になったりする。
それで日常の営為が吹っ飛ぶ可能性が、いつでもあるんですよ。
テロにあったら、それこそ命がないかもしれない。
それならそういう事に対して、自分がどう対応するか、それをきちんと考え抜いておかなけりゃいけない。
養老 孟司
*
パーティーから数日して、月に一度の弟子とのVS(練習対局)日であった。
いつものように師匠が速攻で相手側を窮地に追い込み、弟子は自分の敗勢を悟るも、勉強ということもあり、淡々と終局に向かって駒を進めていた。
すると、練習とはいえ、師匠たるもの、永世八冠たるものが、真剣対局にあってはならない「打ち歩詰め」という、反則手を“うっかり”指してしまった。
その事に、先に気付いたのは弟子の方で、そして、数秒後に、当人が
「アッ!」
と言って、呆然自失となった。
棋士たるもの、それも、永世八冠なるものが、初心者が指すような反則手を打つということは、冗談で済まされることではなかった。
しばし、沈黙がふたりの間に流れた。
次の瞬間、ガラリ…と音がした。
師匠が、右手を盤について、駒を畳にバラバラ…とこぼした。
「先生ッ! 」
と、弟子が慌ててその上半身を抱えた。
カナリは胸に苦悶感を覚え、喘ぐような表情で盤に顔を伏せた。
自宅だったこともあり、早急に救急車が呼ばれ、愛菜と加奈梨が同乗した。
救急救命に運ばれた時、カナリは高熱を発しており、症状は急性肺炎状態で、人事不省に陥っていた。
酸素マスク処置では血中酸素飽和度の降下を喰い止められず、ECMO(人工心肺装置)処置に切り替えられた。
救急搬入から半時ほどして、処置に当たった救命医が廊下に出てきた。
愛菜たちを親族と認めると、
「かなり危険な状態です。
覚悟されといて下さい」
と一言告げられた。
その場に泣き崩れたのは加奈梨のほうだった。
「そんなぁ・・・。
うそぉ・・・」
と、顔を覆うと、とめどなく泪があふれた。
愛菜は、救命室のドアを凝視したまま、唇を噛んだ。
「ソーちゃん。ソーちゃんッ!
お願いッ!
助けてーッ!
カナちゃんを連れて行かないでーッ!」
と、心の中で絶叫した。
高1と中2になった聡美と竜馬が、病院に到着した。
聡美は母親に抱きついて、激しく泣いた。
竜馬は、拳を固く握って
「カナねえッ!!
ガンバレーっ!」
と、声を上げた。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます