夏のあつーい日のことです。
一匹の犬がライラックの木陰でお昼寝をしていました。
犬の名はバオバオといいました。
木漏れ日のなかで、バオバオは眠そうな目をうっすらと開けると、鼻をむずがゆそうにくんくんさせました。
一匹の小さなショウジョウバエが、さっきからバオバオの湿った鼻のまわりをプオンプオン飛び回っていたのでした。
夢見ごこちのところをじゃまされて、バオバオは少しばかりイライラしていました。
バオバオはたまりかねて、
「ウォンッ!」
と吠えると、鼻の先をガシャガシャガシャと前足でこすりました。
ハエはまだプオーンと輪をかいています。
(やれやれ・・・ )
バオバオはいごこちのよかったこの木陰をあきらめることにしました。
日向は足のうらがちりちりというほどあつく、バオバオはだらしなくベロリンと舌をたらしたまま、ぽとぽと歩きだしました。
しばらく行くと、すずしそうな日陰を見つけました。
しかし、アレアレッ?
なにやら小さなゴマつぶのようなものが、プンプン音をたてながら飛びむらがっています。
また、ハエでした。
バオバオはホォーッと、ため息をつきました。
「なんて、きょうはハエと縁のある日なんだろう」
ところが、よく見ると、ハエは大きな肉のかたまりにむらがっているのでした。
バオバオはいっぺんに目がさめてしまいました。
気がつくと、もうかけだしていて、肉のかたまりを口にくわえているではありませんか。
ハエなんて、なんのその。
(しめしめ。お昼ごはんが助かったぞ)
バオバオはハエのいないすずしい木陰をもとめて、肉をくわえたまま、川を渡っていました。
すると、川の真ん中あたりまでくると、自分とおなじように肉をくわえた子犬が一匹、川の中にいるではありませんか。
バオバオは魔がさしたのでしょうか。
急にその子犬の肉までもほしくなり、
「ウォン!」
とひと声吠えました。
その瞬間。
ポチャン! と、バオバオのくわえていた肉は川の中へと消えてしまいました。
(しまった!)
と思っても、もう後の祭りでした。
川の中までは鼻も通じません。
肉は川底をゴロリンゴロンと、ころがり流れてゆきました。
見ると、川の中の犬も口もともさびしく、とほうにくれていました。
バオバオの鼻っ先をハエが一匹、軽やかに羽音をさせて川を渡ってゆきました。
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