写真はウインブルドンにて。国枝選手とオルソン選手の試合開始の光景。ここからはシャッターを切らずに静かに観戦した。
【車いすテニス】
ちょっと時間を巻き戻します。
大型コートから聞こえる歓声を聞きながら、知っている選手で私のチケットで見られる試合はないかな? と対戦ボードを見ていると、国枝慎吾選手の試合が17番コートで11時からあると書かれていました。対戦相手はスウェーデンのステファン・オルソン選手。世界ランキング2位の選手です。つまり世界ランキング1,2位が激突です。
さっそく行ってみると緑色のビニールシートで周囲の通路から仕切られただけの独立した一面のコートがありました。
これが17番コートです。
コートの横に固定式の座席が数列並んでいます。試合開始の10分前なのに席は選び放題。一番前だとボールが飛んできそうなので、前から2列目の真ん中あたりの席に座りました。それでも選手に手が届きそうな近さです。
すでに国枝選手はコートに来ていました。ボールボーイ、ボールガールたちもすでにコート上にいて、おそろいの紺のポロシャツと半ズボン、キャップに白のスニーカー姿でキビキビとした動作で選手のお世話をしていました。
国枝選手がボールボーイに水とバナナをお願いすると、彼はすぐに走っていき、コートの真ん中にあるそびえ立つような審判席の下側に手を伸ばしました。そこにはバナナと水が常備されているのです。そして、また走って国枝選手のもとへ。国枝選手は笑顔ながら「もっと傷んでないものを。」と要求していました。
選手もボールボーイもたいへんな緊張感です。そんなやりとりをじかに見られるのもコートの真横に陣取っただいご味でしょう。
さて、ようやく納得のいくバナナを受け取った国枝選手は、次にゆっくりと自分のバックから水、栄養ドリンクのような黄色いのみもの、チョココーティングのグミ、10秒チャージのような栄養系のたべものを取り出して、手慣れた様子でコート横のイスの上に並べました。
それからそれをちょっとずつ食べては、自分でメモしたノートを広げて、最終確認をするように目を通していました。
これが彼のルーティーンなのでしょう。こちらにも緊張感がさざなみのように伝わってきます。
2時間の試合中、ピシッと立ち続けるボールボーイ、ボールガールたち。ボールが来たら、走って取りにいく姿がまたすごい。
試合は湖に手漕ぎボートを漕ぎだすように静かに始まりました。次第に熱を帯びてきます。白熱すると国枝選手の「ウンっ」という、うなるような声がスマッシュとともに響きわたりました。車いすが激しく動き、ギャワっときしむ音。恐ろしい勢いで走り、打つ。すべて腕だけで動いています。
試合は激戦で2時間にも及びました。最初は国枝選手が劣勢でしたが、やがてギリギリでかわし続け、最後に勝ちをもぎとりました。横綱相撲ではなく、すごくどきどきさせられた、見ごたえのある試合でした。
プロの試合をこんなにもまじかで見たのも初めてなら、車いすテニスを見たのもはじめてのこと。すっかりこちらも熱くなってしまいました。
また、見ていて感じたのは本人の技量もさることながら、車いすの性能や細かな調整も大きなウェートを占めている気がすること。冬と夏でも伸びる部材、断裂しやすい部材は変わり、調整も変わってくるはずです。そういった国枝選手をささえるチームが観客席の一角にいて、いろいろとアドバイスを飛ばしている光景も、まるで地元の地区予選のようで面白い光景でした。
帰国後、NHKBSのウインブルドン中継のダイジェストニュースを見ていたら、なんと我々が国枝選手の試合を観戦している模様がばっちり映っていました。ボールが目の前を通り過ぎるたびにせわしなく首を右に左にと動かす私。いやあ、夢中だったんですね。
しかし、世界一位、二位の選手の試合で準決勝だというのに、ギャラリーの多くが報道陣という不思議さ。パラスポーツは一流でもなかなかたいへんなのだな。
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