Part I:「イスラエル、イラン核施設を空爆す」(17)
第五章 三羽の小鳥(2)「マフィア」(2/2)
ロシアからの移住者と言えば医者か農民のどちらかと言われ、おかげでイスラエルの一人当たりの医者の数は世界一となったほどであるが、医者達は病院の勤務医か開業医となってユダヤ人やアラブ人の中に溶け込んでいった。しかし所詮農地を耕すしかない者達は政府の与えた入植地で肩を寄せ合って暮らす他なく、「マフィア」一家が移住した開拓地は同じ境遇のロシア人ばかりであった。彼らのコミュニティではロシア語が使われ、そしてキリストに祈りを捧げた。政府はヘブライ語を半ば強制的に奨励したが、「マフィア」の父親たちの世代は新しい言語を覚えるには遅すぎたのである。
イスラエル社会ではヘブライ語を話せないロシア移民たちは冷遇され、二級市民の扱いであった。建前では移住者の出身地、宗教、学歴で差別されないことになっているが、それはあくまで建前である。幼い時は皮膚の色や親の職業など意識することなく小学校で仲良く遊んでいた「マフィア」も大きくなるに従い嫌でも差別を意識するようになった。そのハンディを乗り越えるために「マフィア」は学校では人一倍ヘブライ語を勉強し、優秀な成績を修めた。そして差別が少ない軍隊に入ったと言う訳である。
(続く)
荒葉一也
(From an ordinary citizen in the cloud)