Part I:「イスラエル、イラン核施設を空爆す」(18)
第六章 三羽の小鳥(3)「アブダッラー」(1/3)
3機編隊のしんがりを務める「アブダラー」は地元生まれのアラブ人遊牧民ベドウィンの子供である。彼らはオスマントルコ帝国の時代から現在の地に住み続けていた。そこは第一次大戦後のイギリスによる信託統治時代にユダヤ人に割り当てられた土地であった。この時アラブ人にも「パレスチナ」としてヨルダン川西岸が割り当てられた。第三次中東戦争でイスラエルがパレスチナ地区を占領した結果、大量の難民が生まれたが、もともとイスラエル地域に住んでいた「アブダラー」たちはそのまま住み続けることができた。彼らはアシュケナージたちよりも古い先住民族なのである。イスラエルでは彼ら先住民の他エチオピアなどアラブ・イスラム圏から移住したアラブ人達をミズラフィムと呼んでいる。
ミズラフィムもロシア移住者と同様二級市民として扱われたが、実質的にはロシアの移住者以下の扱いであった。イスラエル国内でイスラム過激派の自爆テロが頻発するようになり、白い肌のユダヤ市民たちは一目でアラブ人とわかるミズラフィムを警戒するようになったため、彼らの立場はロシア移住者よりさらに悪くなった。「アブダラー」の仲間の若者には絶望して過激派組織に身を投ずる者もいたが、「アブダラー」はイスラエル国民として生きる道を選んだ。彼は「良き市民」たらんとした。その選択が軍隊に入り国を守ることだった。彼の心のよりどころは民族でもなく宗教でもなく国家そのものなのである。
(続く)
荒葉一也
(From an ordinary citizen in the cloud)