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(アラビア語版)
(目次)
Part I:「イスラエル、イラン核施設を空爆す」(11)
第三章 パイロットのもう一つの敵 (2/3)
イスラエルでも戦闘機とパイロット達の出番は減り、せいぜい国内のガザ地区を爆撃する程度であった。その中で外国領土への出撃のチャンスが2003年に訪れた。イラク解放戦争である。イスラエル政府と軍部は戦争への参加を米国に打診した。当時のブッシュ共和党政権は親イスラエル色が強かったが、世界世論の手前イスラエルの申し出をやんわりと断った。戦争が始まって間もなくイラクのフセイン大統領はスカッドミサイルをイスラエルに撃ち込んで挑発した。イラクのミサイルはイスラエル占領地のヨルダン川西岸に着弾しただけで被害と言えるほどのものは何もなかったが、イスラエルにとってはそんなことは問題ではない。口実さえあれば敵を徹底的に叩くのがイスラエル流のやり方である。空軍は直ちに応戦体制を敷き、戦闘機のパイロット達はバグダッド空襲に勇み立った。
しかしこの時も米国はイスラエルの反撃を許さなかった。もしイスラエルの参戦を認めれば「独裁者からのイラク解放」と言う大義名分で同盟軍に参加させたパキスタンなどのイスラム諸国、或いは陸上部隊の自国通過を認めたサウジアラビア、クウェイトなどの湾岸諸国から反発を受けることが明らかだったからである。
イスラエル空軍のパイロットたちはCNNテレビでバグダッド空襲の実況中継を指をくわえて眺めるだけであった。戦闘機から発射されたミサイルが目標に向かって真っすぐ突っ込む様子、そして上空で目標攻撃の瞬間をとらえた偵察機からの映像をCNNは繰り返し放映した。テレビ・ゲームのように見えて実はゲームではない本当の戦争が行われているのであるが、それはバグダッド市民以外は誰も痛みを感じない世界であった。
(続く)
荒葉一也
(From an ordinary citizen in the cloud)