2021年8月28日、イラクの首都バグダッドで地域サミットが開催された。イラクのカディミ首相が周辺各国の首脳に呼びかけ、フランスが共同主催国なっている。出席メンバーはシーシ・エジプト大統領、アブダッラー・ヨルダン国王を含め、国家元首、首相、外相レベルの10数名であった。
今回のサミットは特定の問題を取り上げるのではなく、中東地域の安定化を目指して首脳間で率直な意見交換を行うことが目的であるとされた。しかしこのことが参加各国に複雑な思惑を生んだ。各国の対応は概ね、会議を外交の足掛かりに利用しようとする積極派、他国の出方をうかがう慎重派及び存在感をアピールするだけの消極派に三分類された。
積極派は主催者のイラクとフランスの他、エジプト、ヨルダン、カタール、イランの各国であり、その多くは国家元首、大統領などのトップが出席した(イランからはアブドラヒアン外相が出席)。慎重派のUAE、トルコからはUAE副大統領兼ドバイ首長及びトルコ外相が出席した。なおUAE副大統領は同国No.2であるが経済問題に専念し、アブダビの専権事項である外交・国防問題には口出ししないことが慣例になっている。消極派はサウジアラビアであり、外相を出席させている。サウジアラビアは現在、イエメン問題など外交的に八方ふさがりであり、しかもカショギ暗殺事件で国際的な信用が失墜している。このため同国は地域外交で主導権を発揮できる状況にはないが、今回のサミットを回避する正当な理由もなく、しぶしぶ参加したと言えよう。
このような同床異夢のサミットについて、イラク政府自身は会議を開くこと自体に意義があり、成果は期待できないと当初から認めていたほどである。従って閉会後の共同声明や記者会見もなかった。目立ったのは積極派であるエジプトなど各国首脳が他国との二国間会談に精力を注いだことである。コロナウィルス対策のため多くの国際会議がオンライン方式で行われる中、今回のサミットが直接対面方式だったこともあり、シーシ・エジプト大統領はカタール首長、UAE副大統領等と直接会談を行った。またイラン外相は会議終了後にシリアを訪問、アサド大統領と会談して両国の関係強化を印象付けた。今回のサミットの趣旨から見て参加が当然と考えられていたシリアは招待されなかった。経済制裁を課している米国がイラクに圧力をかけたためである。しかし米国の経済制裁を受けているイランの外相がサミット参加を奇貨として同じ被制裁国のシリアとの絆を強めたことは皮肉な結果と言えよう。
一方、慎重あるいは消極派のトルコ、サウジアラビアはサミットでも殆ど目立った動きが無かった。また事前に予測されていたイランとサウジアラビアの外相会談が開かれなかったことは驚きですらあった。両国は昨年から今年にかけてイラクの仲介で何度か会談を重ねていたことは周知の事実であっただけになおさらである。推測するに、イエメンにおけるイランとの代理戦争で反イラン感情が強いサウジ国王と皇太子が接触を禁じたものと思われる。
せっかくの努力が水泡に帰したのは共同主催者のイラクとフランスである。イラクはサミットを契機に中東外交の表舞台に躍り出ることを目論んだ。しかし当面はイスラム国(IS)の再興におびえつつ、国内の治安と経済回復を目指す他ないようである。フランスは中東から撤退した米国の後釜を狙い、同時にイラクの復興プロジェクトの受注を狙った。さらに崩壊に瀕した旧植民地であるレバノンに湾岸諸国のオイルマネーを呼び込もうと画策したが失敗した。他国のカネで自国に商売を誘導するのはフランスの常套手段である。
スーパーパワー米国のいなくなった中東は当分混沌とした状態が続くに違いない。
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荒葉一也
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