② 寺田康雄氏の陶芸。
彼の作品は大きく分けて、手捻りによるオブジェ的な作品(陶壁やモノメントを含め)と、轆轤で
制作した実用的な壷、甕(かめ)、皿、鉢、花器などに分かれます。
最初に手掛けた作品は、オブジェを中心とした作品です。
) オブジェ的な作品。
a) 「布と泥漿(でいしょう)シリーズ」の作品。
1979年 最初に発表した作品は、土の洞察考「布シリーズ」です。
これは、ドレステン(ドイツ東部の都市)で見た陶人形のレースの衣装が、焼き物であった
事にヒントを得て制作した作品です。
即ち、大きく幅の広いレース地を泥漿の入っている容器に漬けて、布地に泥漿を浸み込ませ
布の両端を持って引き上げ、自立する様に布の裾野を形作り、何かに吊るした状態で乾燥
させ、その後に布ごと焼成する事により、布を焼き去り、土のみの布地状の作品に仕上げて
います。作品には光沢がありますので、施釉している可能性があります。
・ 布シリーズ(Textile seris,”Clay insights"): 100 x 110 x 50 cm。
b) 「土の彷徨シリーズ」: 1984年に発表された、二番目のシリーズ物です。
工業用のセラミック(ファインセラミック)製の陶板に、くすんだ色の化粧土を掛け、
櫛目の文様を付けたり、流れ易い釉を厚く掛けその「釉が縮れ」て、不規則な形に成った
作品です。
・ 土の彷徨<陶板> : 72 x 72 cm。
・ 土の彷徨<火> : 70 x 25 x 25 cm。
この作品は、焼成でひび割れたと思われる、茶褐色の角柱を13本を石材を切り出した
様な場所に立てて並べた作品です。
c) 「合金焼きシリーズ」の作品 : 平板な真鍮を陶板に嵌めて焼成したものです。
四角形や不定形の厚さ3~5cm陶板の表面に、四角に切った大小の真鍮板を、複数個
嵌め込んだ作品です。
真っ白な陶板には、金色の真鍮板が熔け掛り、金属と土との縮み具合の差により、亀裂が
入っています。
・ 合金焼<陶板> : 45 x 55 x 5 cm (1983年)
・ 合金焼<陶板> : 27 x 35 x 3 cm (1983年)
d) 「金滴シリーズ」の作品 : 寺田氏の代表的な技法の作品です。
陶土の長石粒と上絵付けによる金彩との相互作用によって、陶土から金の滴が噴き出して
いる様に見える作品です。この技法は「カボチャシリーズ」の、陶制の「カボチャ」や陶壁の
陶板に発生させています。
・ 金滴シリーズ<カメ=甕、花器、陶板、壷>など多くの作品が有ります(1985年)
これらの作品には、かなり大きな真鍮板が複数個使われ、表面に飛び出しています。
・ 金滴カボチャ<カボチャシリーズ大> : 125 x 35 x 35 cm (1990年)
・ 「カボチャシリーズ」<小、金滴、金彩、金釉> : 8 x 12 x 12 cm (1991年)
) 轆轤を使って実用的な作品も多く作っています。
e) 「灰釉金彩シリーズ」の作品 : 轆轤挽きされた作品に、灰釉を掛け本焼き後に、上絵付け
の技法で、金彩を施した作品です。灰釉は濃淡のある緑色(ビードロ)や茶褐色、白色などに
発色し、幾何学文様や自由な線描きの金彩が施されています。
作品としては、鉢、壷、花器、甕、皿、盤などの作品があります。
・ 更に、灰冠金彩、黒釉金彩、灰釉金銀彩、伊羅保(イラボ)金彩などと、バリエーションも
増えます。又手捻りの四角い作品(花器)にも施しています。
f) 「陶彩シリーズ」の作品: 小さな皿から巨大な甕まで多種に渡ります。多くは轆轤挽きです。
素焼き後の作品に、三角形や短冊状に青緑色を施釉し、黒釉、白釉、茶(瓦土)釉を無造作に
線状に垂らしや、ハネの技法で施釉し(それ以外は無釉)、酸化や還元焼成した後、金や
銀彩の上絵付けを施した作品です。(1991年頃より制作されています。)
彼のオブジェの中には、全長10m以上の、飛翔「土から土へ」と題する作品もあります。
作品を作ってから、周りをレンガで囲み窯を築き、焼成後に窯を壊したと言われています。
大きな割れやひび割れがあちこちにあり、表面は松灰による自然釉が掛かっています。
尚、オブジェの作品は、静岡県の伊豆多賀の山腹に築いた窯で焼成し、轆轤の作品は主に瀬戸に
ある窯で制作焼成しているとの事です。
次回(若尾利貞氏)に続きます。