作品の上に載っている粉末状の釉は、高い温度で焼成すると、熔けてガラス化し、作品の表面を
覆います。熔けるとは、多かれ少なかれ流動化する事なります。その程度は釉の粘性に左右
されます。流動化が少ないと、釉の塊がそのまま残り、表面に凹凸が現れます。
逆に、釉の粘性が少な過ぎると表面から流れ落ちてしまいます。
釉にはある程度の流動性が必要になります。
勿論、釉の流動性(粘性)の問題は、釉のみが原因ではなく、施釉の厚み、窯の温度、
窯焚きの時間にも大きく関係してきます。
ここでは、釉のみ絞ってお話したいと思います。
1) 釉の粘性(粘度、流動性)。
釉の粘性に由来する問題として、「ブク」と「ピンホール」、「流れ過ぎ(流れ落ち)」が
上げられます。
① 「ぶく」とは釉の内部や表面に大量の気泡が発生し、煎餅(せんべい)の様に、
釉が膨れ上がる状態や、気泡が釉を突き破り、抜け出た痕として残った空洞です。
前者は、釉の粘性がある程度大きく、泡が釉の外に漏れ出さない状態で、後者は、素地や
釉から大量に発生した「ガス」が、ガラス化した釉の表面から抜け出ようとした場合、
粘性が小さい為、「ガス」を釉内に留め置く事が出来ずに現れる現象です。
② 「ピンホール」とは、素地や釉から抜け出した「ガス」の痕が、埋まらづに残った
針の穴の様な小さな空洞です。
③ 釉の流れ落ちとは、粘性の小さい事などが原因で、棚板まで流れ落ちる現象です。
2) 「ガス」の発生の要因。
要因には素地の場合と、釉による場合があります。ここでは、釉に対する事に絞って
お話します。
① 炭酸ガスの発生。
釉中の金属炭酸化合物は、熱分解して金属と炭酸ガス(CO2)になります。
特に炭酸バリウムは、1200℃程度で分解しガスを発生させますが、粘性が大きいと
ガスが釉薬中に留まり、失透釉と成ります。
② 酸素ガスの発生。
酸化第二鉄(弁柄)は、還元焼成で酸素を放出し、酸化第一鉄に変化します。
3) 釉が流れ過ぎる場合。
① 結晶釉は結晶が成長する為には、他の釉よりも、若干流れ易い釉である必要があります。
② 釉が流れ過ぎて、棚板まで流れ落ちると、作品と棚板がくっ付いて仕舞い、最悪作品を
壊す必要が起こる場合があります。又、棚板まで落ちなくても、施釉した最下部で、
滴状の玉になって留まる事もあります。この形を乳と呼び、抹茶々碗などで、珍重される
事もあります。
③ 流動性と関連した問題に、「釉の煮え」があります。
部分的に高い温度の炎が当たったり、長時間高い温度が当たった場合、釉が流れ落ちる
状態で、単なる釉の流れ過ぎとは、異なる表情に成ります。
即ち、「釉が煮え」た場合の痕は、ピンホールが発生し、ピンホールの壁は薄く、
光沢の無い斑点が現れます。
2) 粘性の調整には以下の方法があります。
① 粘性を大きくする方法(流れ難くする:流動性を小さくする)
② 粘性を小さくする方法(流動性を大きくする)
以下次回に続きます。