は硫化水銀を利用した釉と言う訳ではありません。基礎釉に酸化銅を添加し、更に還元焼成
する事で朱紅色に発色する釉を言います。その発色の違いによって、牛血紅(ぎゅうけつこう)
火焔紅(かえんこう)、桃花片(とうかへん)と呼ばれています。
注:・ 牛血紅は辰砂の中で代表的な色で、牛の生血の様に派手で力強い赤色(ルビー色)に
成っています。1700年頃に景徳鎮で作られたと言われています。我が国では宇野仁松氏
(1864~19337年)が作った釉が著名です。尚、赤い色の調子によって、鶏血紅(けいけつ
こう)や猪肝紅(ちょかんこう)と呼ぶ場合もあります。
・ 火焔紅は燃盛る炎の様に、真紅の上に藍紫色の煙がたなびいている様子に成っています。
藍紫色の他に、白紫色の場合もあり青味を帯ます。この釉には、酸化チタン(ルチル)
や硫酸バリウム、酸化錫(すず)などが添加され、これらの微細な結晶が釉に浮いている
為に、光が分散、反射され紫や青味を帯びると考えられています。
・ 桃花片は海棠紅(かいどうこう)とも呼ばれ、穏やかな薄い紅色に発色する物です。
酸化銅が0.3~0.5%程度と極めて少量です。但し、焼成方法が極めて難しく作るのは
非常に困難との事で、作品の数も少ないそうです。
2) 釉の配合は、基本的には、織部釉と同じです。違いは、辰砂は還元焼成で、織部釉は酸化
焼成で緑色になります。
① 銅を含む釉は、酸化焼成で緑系に発色します。これは、酸化第二銅(CuO)の色です。
還元焼成では、酸化第一銅(Cu2O)となり、美しい赤色に発色します。
② 銅を含む釉には、生釉とフリット釉がありますが、辰砂釉は生釉を用いた釉をいいます。
フリット釉の場合の朱紅色は、一般に銅赤釉と呼んでいます。
③ 辰砂釉の赤色が映えるには、素地が白い方が効果てきです。
一般には、素地の色を問題にしませんが、素地の色も大切です。
④ 酸化銅の含有量と色調。
最も良い色を出すには、銅が釉の0.5~0.5%程度の量が必要です。但し次に述べるように
銅は高温で揮発しますので、2%程度の銅を添加します。銅の割合が増えるに従い、色が
濁ってきます。10%を超えると、黒色になります。
④ 辰砂釉の掛け方。
銅を含む釉やその化合物は、高温で容易に揮発し消失する性質があります。
そこで、若干異なる釉を二種類用意し、二重に掛けて揮発を抑えると共に、積極的に還元焼成
を行うのが良いとされています。
) 素地に近い層には、酸化銅と高温で還元作用を起こす酸化錫を1%程度添加した釉を
使います。
) 上の層には、酸化錫1%を含み、酸化銅を含まない釉を掛けます。
) 勿論焼成は還元焼成で行います。そうする事で綺麗な赤が出ると言われています。
以下次回に続きます。