サナアの国立博物館(だったと思う)の係員たち。無理に頼み込んで写真を撮らせてもらったが、一人はうつむいてしまった。
イエメンは時代劇の国である。
それが証拠に、男たちが腰に刀を差している。
サナア空港に降り立ち、空港の出口を出ようとしたとき、そこに集まった出迎えの人々の姿を見て、私はウッとひるんで、その場でしばらくかたまってしまった。ちょっとちょっと、この人たち腰に刀を差してるよ!ここはどこ?今は何時代?
その刀は短めで、先っぽがひょいと一方に折れ曲がった、アンティークな三日月刀だった。幅広の革のベルトに挟んで、体の正面にぶら下げられている。薄汚れた白いワンピースのような長衣の上に、濃い色のブレザーを羽織り、肩に刺繍入りのスカーフを掛けている男が多い。長衣ではなく、ワイシャツにズボン姿の男もいるし、格子柄の薄い布を腰に巻きつけた、「巻きスカート男」も大勢いる。スコットランド人みたいでなかなかラブリーだ。シリアやエジプトなどの他のアラブ諸国では、刀を腰に差した男などみたことがなかったので、最初は心底驚いたが、見慣れてくると、これが当たり前のように思えてくるから不思議である。2週間後にエジプトに戻ったとき、エジプト男性がTシャツとジーパンなどという、ありきたりの服装をしているのを見てつまらなくなり、イエメンに逆戻りしたくなったくらいだ。
出迎えの人だかりの中には、もちろん女性たちの姿もあった。彼女たちはゆったりした、体のラインを隠す黒い上着で全身を覆い、同じく黒い布で頭部や顔を覆っていて、外に露出しているのは、目の部分だけである。イエメン女性はほぼ例外なくこの格好で外を歩いていて、誰が誰か区別がつかない。人形浄瑠璃の黒子がいっぱい道を歩いてる、というかんじである。こう書くと、不気味そうに聞こえるかもしれないが、実際にはそんなことは全然ない。伝統社会のルールに従って、こういう保守的な格好をしているものの、中身はあけっぴろげで活発な女性たちで、外国人にも積極的に話しかけてくるし、うちにご飯を食べにいらっしゃいと気軽に誘ってくれるのだ。
男たちも女たちも、みんな小柄で痩せている。ビンボウで発育が悪いのだろうか。女たちは顔が見えないからよくわからないが、男たちは肌がかなり浅黒く、髪の毛がくりくりとカールしていて、エチオピア人やエリトリア人などの、東アフリカの人々に近い印象を受ける。考えてみたら地理的に言って、イエメンはあの地域にすごく近いのだった。海を隔ててはいるけれど。イエメン人に比べたら、シリア人などはずっと肌が白く、背も高い。アラブ人と一言で言っても、多様なのである。
悪いけど、イエメンでは、ハリウッド映画の主役級を演じられそうな人は一人も見かけなかった。人生の「勝ち組」になれそうな要素が、彼等の遺伝子にはひとつも組み込まれていないかのよう。強引な遺伝子操作でもしないかぎり、イエメン人はこの世界の「その他大勢」「負け組み」であり続けるのだろうか、と思ったが、そこまで言ったら失礼かしら・・・?でも実は、私はこういう外見が好みなので、眼の保養(?)が出来てご満悦だった。イエメンには、小さい人たちがいっぱいいて、ちょこまかと動き回っていて、非常に愛くるしい!
そして、イエメンでは子供の姿がやたらに目立つ。石を投げたら必ず子供に当たる気がするくらいだ。人口の約50%は15歳以下の子供だという統計を、新聞で読んだことがある。発展途上国なので出生率が高く、子供の数が多いのだろうが、それにしても人口の半分というのは相当である。そんなわけで、イエメンの路上はどこも、遊んでいる子供たちで満ちあふれているのだった。
子供も多いが、猫も多い。猫達の多くは、イエメン人と同じく、やせっぽちである。ゴミ漁りに精を出したり、日向ぼっこをしたり、片隅で猫会議を開いたりして、いつも忙しそう。子供だらけで猫だらけ。これ以上なにを望むものがあろうか?(あえて言えば酒かな・・・)
このように、時代劇の男たちと黒子の女達と子供と猫の国は、私のハートの、かなり狭いストライクゾーンを直撃したのであった。イエメンを訪れた人の多くは、帰った後、イエメン病にかかるという。私も例外ではなく、カイロに戻った後も、しばらくは軽い恋わずらい状態が続いた。忘れっぽい性質なので、2週間くらいでけろりと治っちゃったけどね。
イエメンは時代劇の国である。
それが証拠に、男たちが腰に刀を差している。
サナア空港に降り立ち、空港の出口を出ようとしたとき、そこに集まった出迎えの人々の姿を見て、私はウッとひるんで、その場でしばらくかたまってしまった。ちょっとちょっと、この人たち腰に刀を差してるよ!ここはどこ?今は何時代?
その刀は短めで、先っぽがひょいと一方に折れ曲がった、アンティークな三日月刀だった。幅広の革のベルトに挟んで、体の正面にぶら下げられている。薄汚れた白いワンピースのような長衣の上に、濃い色のブレザーを羽織り、肩に刺繍入りのスカーフを掛けている男が多い。長衣ではなく、ワイシャツにズボン姿の男もいるし、格子柄の薄い布を腰に巻きつけた、「巻きスカート男」も大勢いる。スコットランド人みたいでなかなかラブリーだ。シリアやエジプトなどの他のアラブ諸国では、刀を腰に差した男などみたことがなかったので、最初は心底驚いたが、見慣れてくると、これが当たり前のように思えてくるから不思議である。2週間後にエジプトに戻ったとき、エジプト男性がTシャツとジーパンなどという、ありきたりの服装をしているのを見てつまらなくなり、イエメンに逆戻りしたくなったくらいだ。
出迎えの人だかりの中には、もちろん女性たちの姿もあった。彼女たちはゆったりした、体のラインを隠す黒い上着で全身を覆い、同じく黒い布で頭部や顔を覆っていて、外に露出しているのは、目の部分だけである。イエメン女性はほぼ例外なくこの格好で外を歩いていて、誰が誰か区別がつかない。人形浄瑠璃の黒子がいっぱい道を歩いてる、というかんじである。こう書くと、不気味そうに聞こえるかもしれないが、実際にはそんなことは全然ない。伝統社会のルールに従って、こういう保守的な格好をしているものの、中身はあけっぴろげで活発な女性たちで、外国人にも積極的に話しかけてくるし、うちにご飯を食べにいらっしゃいと気軽に誘ってくれるのだ。
男たちも女たちも、みんな小柄で痩せている。ビンボウで発育が悪いのだろうか。女たちは顔が見えないからよくわからないが、男たちは肌がかなり浅黒く、髪の毛がくりくりとカールしていて、エチオピア人やエリトリア人などの、東アフリカの人々に近い印象を受ける。考えてみたら地理的に言って、イエメンはあの地域にすごく近いのだった。海を隔ててはいるけれど。イエメン人に比べたら、シリア人などはずっと肌が白く、背も高い。アラブ人と一言で言っても、多様なのである。
悪いけど、イエメンでは、ハリウッド映画の主役級を演じられそうな人は一人も見かけなかった。人生の「勝ち組」になれそうな要素が、彼等の遺伝子にはひとつも組み込まれていないかのよう。強引な遺伝子操作でもしないかぎり、イエメン人はこの世界の「その他大勢」「負け組み」であり続けるのだろうか、と思ったが、そこまで言ったら失礼かしら・・・?でも実は、私はこういう外見が好みなので、眼の保養(?)が出来てご満悦だった。イエメンには、小さい人たちがいっぱいいて、ちょこまかと動き回っていて、非常に愛くるしい!
そして、イエメンでは子供の姿がやたらに目立つ。石を投げたら必ず子供に当たる気がするくらいだ。人口の約50%は15歳以下の子供だという統計を、新聞で読んだことがある。発展途上国なので出生率が高く、子供の数が多いのだろうが、それにしても人口の半分というのは相当である。そんなわけで、イエメンの路上はどこも、遊んでいる子供たちで満ちあふれているのだった。
子供も多いが、猫も多い。猫達の多くは、イエメン人と同じく、やせっぽちである。ゴミ漁りに精を出したり、日向ぼっこをしたり、片隅で猫会議を開いたりして、いつも忙しそう。子供だらけで猫だらけ。これ以上なにを望むものがあろうか?(あえて言えば酒かな・・・)
このように、時代劇の男たちと黒子の女達と子供と猫の国は、私のハートの、かなり狭いストライクゾーンを直撃したのであった。イエメンを訪れた人の多くは、帰った後、イエメン病にかかるという。私も例外ではなく、カイロに戻った後も、しばらくは軽い恋わずらい状態が続いた。忘れっぽい性質なので、2週間くらいでけろりと治っちゃったけどね。