ミーロの日記

日々の出来事をつれづれなるままに書き綴っています。

パーソナルチェア

2024-11-05 16:37:22 | 日記

35年も前に買った革のパーソナルチェアをついに捨てた。

身体を包み込んでくれるように座り心地が良い椅子だったが、さすがに年数が経つと、表面の皮が劣化してあちこち裂けてくる。

女優の樹木希林さんが、やはりボロボロになった椅子にテープを貼って使っているというお話を聞いたので、真似をして椅子と同じ色のテープを裂け目に貼ってみた。

裂け目が多すぎて、まるで包帯を巻いたミイラのようになったが、とりあえず座り心地は変わらずに良く、夫もこれでいいと言うので使い続けていた。

椅子を買った35年前、当時31歳だった夫は長いローンを組んで家を建てた。

若かったのでお金が無くて、ゴルフの練習ができそうなくらい広いが、とても不便という安い土地に、人生で初めて小さな家を建てた。家が建った時は本当に嬉しかった。

そして新しい家に置く家具を見に行った時、夫が一目惚れしたのが、このパーソナルチェアだった。

でも値段を見てびっくり。当時の値段で、オットマン別売りで10万円以上もした。

「仕事から帰って来て、この椅子でリラックスしたい」という夫に、それが仕事に向かう活力になればと思ってOKしたが、お金もないのによく買ったものだと今は思う。

私たちには、とても高価な買い物だったけど、35年間よく働いてくれたから、結果的には良い買い物をしたと思う。

そのような訳で、椅子は包帯を巻いたミイラのようになっても頑張ってくれていたのだが、遂に座面が少し落ちてしまい、夫が補修を試みたが直すことができなかった。

「もう限界だな、新しい椅子に替えよう」と夫が言い、家具屋さんへ行って新しいパーソナルチェアを買った。

そして新しい椅子が届く前日に、古い椅子を処分するように大型ゴミの手続きをした。

古い椅子を処分する日は、椅子を玄関の前まで運び出して置くのだが、運ぶ前に椅子の座面を撫でながら「今までありがとう」と声をかけた。

すると、これまでこの椅子に座ってきた家族の姿が、一瞬で走馬灯のように脳裏に流れてきた。

椅子に座って新聞を読んでいる夫、椅子の中で丸まって眠っている幼い頃の子どもたち、遊びにきた私の父も必ずこの椅子に座っていた。

それから夫の両親と同居を始めてからは、ほぼ義父専用の椅子になり、いつもこの椅子に座って外を眺めていた義父の姿。

単なる家具としてだけの椅子とは思えない愛着は、このような思い出が染み込んでいるからだったとわかった。

ちょっとウルっときたが、夫には気づかれなかったようだ。

「じゃあ運び出すか」と夫が言い、二人で椅子の両方の肘掛けを持って運んでいたら、途中で椅子の下から何かが落ちた。

止まって下を見ると、木製の脚の部分の一つが落ちていた。

これまでは大丈夫だったのに、自分の役目が終わったと分かった瞬間にどんどん壊れていくように思えた。

最後の最後まで必死に頑張ってくれていたのかと思ったら、またウルっとなってしまった。

物に対して、人間や動物に対するのと同じように愛情を感じると言うのは、多分これが初めてかもしれない。

もったいないという理由で捨てる時に心が痛むことはあっても、この椅子に対するような気持ちにはなったことが無かった。

知らなかった自分の新たな感情に出会った気分だが、もしかすると生きている物じゃなくても、家具でも家電でも車でも、愛情をかけてくれる人の気持ちに応えようとするのかもしれない、、、なんてことを、今思っている。

 

 

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