鼎子堂(Teishi-Do)

三毛猫堂 改め 『鼎子堂(ていしどう)』に屋号を変更しました。

『錦:宮尾登美子・著』

2009-08-31 21:04:05 | Weblog
横なぐりの雨。台風の余波。

・・・どうも、宮尾先生らしからぬ著書ですね・・・。
織物業を携わる事に決めた男と三人の女達の物語なんですけどね・・・。

デビューの頃のあの粘りつくような文章は、薄れて、男性が主人公ってことなので、随分と書きづらかったのかもしれませんね。
物語の展開が、速すぎて、緻密に書き込んで行く・・・ということが少しお留守になってしまったのかな・・・と勝手に思っています。
初期作品『一弦の琴』なんて、要約してしまえば、数行で終わる物語を、あれだけ長編に仕立てた技量に小説を読み始めた小娘?だった私は、驚愕したのですが・・・。

アスペルガー症候群的な集中力で、古代の錦の再現にかける吉蔵と正妻・妾そして、報われぬ恋を一生貫いた使用人の仙の三人の女達。
あのドロドロした嫉妬や修羅場・・・そんなものが、随分、希薄になってきたな・・・宮尾文学って、そういう情念の世界に生きる女達が、醍醐味だってのが多かった訳ですが・・・。

綺麗にまとまっているカンジのするのは、実在の人物をモデルにした小説だからってことでしょうか?

それとも、しばらく宮尾文学とは、ご無沙汰していたんで、ちょっと、メン喰らったというか・・・。

それでも、あの一気に読ませる力量は、当代一の女流作家さんの凄みというか・・・。
もう80歳を既に越えておられるのに、すごい気力だなといつも思います・・・。

一弦琴(一弦の琴)、香道(伽羅の香)、日本画(序の舞)、茶道(松風の家)と日本の格調高い芸術文化を小説にかかれる反面、花柳界・娼妓(鬼龍韻花子の生涯、陽暉楼)など社会の底辺で、お金で売られた哀しい女達のドラマを描き、そして、歴史小説(宮尾本平家物語、天樟院篤姫、東福門院和子の涙)といった幅広い教養が、ベースにないと書けないような作品を次々に発表されたまさに、小説の神様に守護され、才能と活躍の場を約束された百年にひとりの作家さんだと思う訳です・・・。

去年から、ずっと第一巻を読んだまま、続きを読む機会がなくて、停滞している宮尾本・平家物語も、この秋にナントカ読破できるといいな・・・と思っています。

ほんとに、ここ数年、仕事の環境とかも激変で、落ちつかなかったし、こんな時だから、読書で心を遊ばせたいと思うのです。

以前は、十年一日のごとく、何もなく、平穏だけれど、刺激のない生活での読書は、結構、満たされていたものだったけれども・・・。

ここへきて、読書スタイルが変化しているせいか、宮尾作品に関しても、読み方が変化したのかもしれないな・・・なんて思うし、この先、またどういうふうに変化するのかな・・・とも思いますが・・・。