鼎子堂(Teishi-Do)

三毛猫堂 改め 『鼎子堂(ていしどう)』に屋号を変更しました。

『重力ピエロ:伊坂幸太郎・著』~この透明感・・・

2010-10-30 21:06:47 | Weblog
台風の影響で、一日中雨。
雨音を聞きながら、ほとんど一日中眠っておりました。


先週からちょっと体調が悪くて、そのせいか、気が沈み、鬱状態だったのですが、そのさなかに、読んだのが、伊坂幸太郎さんの『重力ピエロ』。
伊坂幸太郎さんの作品は、5年ぶりくらいでした。
『死神の精度』、『魔王』、そして、『重力ピエロ』。

どういうわけか、5年前は、入院していてその時に、読ませていただいたのだけれど、丁度、今頃。

あの独特の透明感のある静かな世界に、一気読みしてしまいました。
現実を忘れて読書しました・・・こういうのなんか、久しぶり。
たぶん、現実には、ない設定で、伊坂ワールド極まれり・・・。

50%の血のつながりを持つ泉水と春の兄弟。
妻が事件に巻き込まれ、生まれたのが遺伝的には、全く他人の子供・春を育てる父親。
それでも・・・自分達は、『最強の家族』。

この物語は、父親の違う泉水と春の兄弟だけど、その中心にいるのは、彼らの『父親』で、穏やかさだけが取り得の地味で、目立たない人間だと思われがちだけれど、本当は、凄いひと・・・なのです。
利己的な遺伝子を超越する或る意味、『神』のような存在で、二人の兄弟を見守ります。

妻が他人の子供を妊娠したと告げた時、この父親は、神様に相談します。
そして、神様に怒鳴られます。
『自分で考えろ。』

人生は、クイズやテストじゃない。
『正解』のない世界なのかもしれない・・・。
癌に侵され、余命のない父親は、病床で、家族を慈しみます。

この物語では、母親がリアルタイムでは、登場しません。
早くに亡くなってしまうからです。いつも泉水(長男)の思い出の中のひと。
その思い出の中で、美しい母親は、夫と子供達と会話をします。
『楽しそうに生きていれば、地球の重力なんてなくなる。』

事件に巻き込まれトラウマになっていないはずのない兄弟の母親。
そして、自分の出生を知った弟は、一日だってそのことを忘れるはずがない。
そのことを受け止める父親と、どうすることもできない兄。

このドラマは、随分、優しい・・・。
たぶん現実では、遭遇しがたい優しさ・・・なのではないだろうか・・・と。