鼎子堂(Teishi-Do)

三毛猫堂 改め 『鼎子堂(ていしどう)』に屋号を変更しました。

『ピンザの島:ドリアン助川・著』

2014-10-06 23:01:46 | Weblog

午前中、台風通過で、雨風ともに強く、大荒れ。


台風の中にあって、丁度、読み終わった本があって、その本のラストも、台風だった。

昨日、今日と同じ作者の本を取り上げる。
著作者は、ドリアン助川氏。
氏の著作は、この拙なブログの中でも何度となく取り上げている。

ドリアン助川氏は、たぶん。
挫折の多いひとらしい。ハタからみれば、それ程、挫折ではないのでは・・・?と思うけれど、完璧主義者にとっては、どんな小さなことでも挫折で、傷になってしまう。
目指していた演劇の世界は、完璧主義な彼を拒んだ。
小さな視覚の欠点で、所謂一流と言われる企業からの採用はなく、放送作家の道を行く。
考えていた深夜放送のパーソナリティは、生と死の狭間で喘ぐ若者の救済に心身をすり減らし、ロックバンドのメンバーの麻薬事件で、バンドは解散。

ドリアン助川氏の小説に登場するのは、自分自身には、何の瑕疵もないのに、社会から、弾き出され、恩恵をうけることの出来ない立場の人々だ。

心に受けた衝撃から、他人との境界線を作らねばならない菊池涼介。
彼は、土木工事のアルバイトで、どうしても訪れたかった離島へ向かうことに成る。
そこには、離島の因習とそれに従う島民、そして、野生のピンザ(山羊)がいた。

ピンザは、喰われるために島にいる。
野生のピンザとの不思議な出会い。
そのピンザと共存を図るためには、ピンザのミルクで、極上のチーズを作ることを考えた涼介の出生に関わるかつての父の親友のいる島で、絶望とされたチーズ作りを試みようとする。

離島での因習。疎外。

離島と言えば、落ち武者伝説。
ゴクモントー(獄門島)だとか、(離島ではないが)八つ墓村だとか・・・そんな雰囲気があるけれど、
この『ピンザの島』にもその因習が色濃く残っている。

絶望の世界にほんの小さな光を見る一瞬。
ひかりは、すぐに消えてしまうけれど、何もかも失くしたその瞬間に、もしかしたら、新たなる極上の・・・今まで生きてきた世界を覆す・・・かそけき光をみるような・・・そんな小説。