友々素敵

人はなぜ生きるのか。それは生きているから。生きていることは素敵なことなのです。

名演『妻と社長と九ちゃん』

2011年11月24日 21時53分21秒 | Weblog

 火曜日は名演の11月例会だった。昼の部だったからかも知れないが、観客のほとんどは高齢者である。出し物は劇団青年座の『妻と社長と九ちゃん』で、結論から言えば私には物足りなかった。一代で会社を大きくした社長とホステス上がりの妻、社長を慕う昔気質の社員の物語である。文具の販売で大きくなった会社の社長は、自宅のそばに運動場を持ち、毎年春には桜の、夏には盆踊り、秋には運動会、冬は餅つきを行ってきた。先妻を亡くして1年も経たないうちにホステスだった女性を妻に迎えた。それが次期社長となる息子には気に入らない。バブルが弾けて景気は悪く、会社の建て直しに迫られている。しかし、社長は自分のやり方を変えようとしないが、実権を握る息子に多くの幹部社員は同調している。

 

 どこの会社でも、特に一代で財を成してきたような会社では、次への交代が難しい。大王製紙のような大きな会社でも創業者一族の権限は強いようで、100億円ものお金が私的に使われても止めることができない。会社は私的な持ち物ではないはずだが、創業者にとってみれば自分が創った会社という意識はなくならないようだ。中小企業の会社なら、社長の車はほとんど私的にしか使われなくても社用であり、自宅も社用に登録している。公私の区別が付きにくいと言うより、公など存在しないのだ。会社名義にしておけば税金は全て会社持ちですむ。この芝居の会社の幹部たちも、バブル期は会社の金で大いに飲み食いしていた。それは日本の全ての会社がそうであったし、公務員もそれに準じていたと思う。

 

 秋の運動会での社長のスピーチに息子は待ったをかける。余りにも長すぎるだけでなく、来年もまた会社は花見や盆踊り、運動会など、地域の皆さんと一緒にあるというくだりがダメだと言うのだ。傾きかけた会社を立て直すためには、運動場と本社の土地を売却するしかないと考えているからだ。それが父親は許せない。しかし、幹部は息子の意見に賛成している。妻は言う。「あなたの時代は終わったのよ。仕方ないじゃない」と社長を慰める。できた女房ではないかと思うが、泣けてくる。

 

 ホステスだった妻は息子や社員の連中からも、「絶対に金目当てで結婚した」と言われ続けてきた。しかし、社長が亡くなると、喪主は息子でいいと言う。息子は「貸しを作って、遺産を取ろうという魂胆さ」と言い、周囲もみんなもそう思っている。けれども、妻は「婚姻届はしなかった。みんなが金目当ての結婚と思っているなら、そうじゃないと思い知らせたかったから届けはしなかった」と言う。社長に可愛がられ、社長にほれ込んできた昔気質の社員の九ちゃんは、普通の遺影と社長らしさのある遺影とどっちを飾るべきかと部下に問われて、社長らしさの方を選ぶ。ところが息子が普通の遺影を選ぶと「そうですよね。新しい会社が生まれるのですから、やはりこちらですよね」と息子に同調する。

 

 それは、部下をかばうための演技だった。しかし、通夜の席で余りにもみんなが社長を悪く言うので、とうとう堪忍袋の緒が切れる。「新しい時代がそんなにいいのか。どうして古くちゃーダメなのだ」とまくしたてる。「憲法第9条を変えちゃーならない。戦争をしないと宣言したことのどこが古い」とまで言い出す。結局、彼は辞表を出し、妻も社長宅から出て行くだろう。でも、それで本当にいいのだろうか。会社はこれからどうなっていくのだろう。いや、もっと言うなら、名演という組織のこれからを暗示しているように思った。

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