読書・水彩画

明け暮れる読書と水彩画の日々

百田尚樹の『プリズム』

2014年12月21日 | 読書

◇『プリズム』 著者:百田 尚樹  2014.4 幻冬舎 刊(幻冬舎文庫)

  
  

  著者百田尚樹については、『永遠のゼロ』を読んで感動して次いで『BOX』など読んだが、
 結構幅広い分野を手掛けているという印象だった。その後日本軍創設やNHK経営委員
 として不穏当な発言があったりジャーナリズムを騒がせる言動があって、意外と右傾だっ
 たことに驚いて印象が変わった。

  この本は『永遠のゼロ』を紹介してくれたH女史から回ってきた本で、なんと多重人格―
 解離性同一性障害―をテーマにした本だった。多重人格として知られている傷害の病理
 については『アルジャーノンに花束を』で初めて知ったが、本書のように恋愛サスペンス仕
 立てで小説化したのには驚いた。
  聡子という主婦が初めて訪れた家庭教師のアルバイト先で多重人格の男性がいた。最
 大12人、今は5人の異なった性格の人格が入れ替わり立ち替わり聡子の前に現れる。
 聡子はその主人格への多重人格の統合という治療を行っている女医の計らいで多重性
 の全容を知ることになるのだが、そのうちの一人格に惹かれ始め、ついには不倫関係に
 陥る。関係の最中に他の人格が登場したりしてそれ自体はスリリングなのであるが、果た
 して肉体をもつ主人格から解離した交代人格と持つ性交渉はいったいどういう性質の交
 わりなのか。結局は不倫関係にあって 代人格葉人格統合治療の中で消えることとなり
 聡子の恋愛感情は潰えうろたえる。不気味な推移があってそれはそれで面白い。

  春日武彦という臨床精神科医が「解説」で本書の読みどころを3点挙げている。その一
 は多重人格の人間を前にして、そのうちのひとつに人格だけと恋愛することは可能かと
 いうこと。その二は聡子の恋愛が絶望的という点、三番目は解離性同一性障害の中でも
 きわめて特殊な病態である多重人格をいかに読者に理解させ、成り立ちを把握させるか
 という手腕であるとしている。著者は30を越える解離性障害に関する30を超える文献を
 挙げている。相当勉強した結果このように迫真の、わが国では珍しい多重人格障害の小
 説が生まれたのだと納得した。

 (以上この項終わり)

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