読書・水彩画

明け暮れる読書と水彩画の日々

マーク・グリーニーの『機密奪還』(上・下)

2018年04月24日 | 読書

 

 ◇ 『機密奪還』(原題:TOM CLANCY'S SUPPORT AND DEFEND(Vol.Ⅱ))
                       著者: マーク・グリーニー(Mark Greaney)
           訳者: 田村 源二
           2014.4 新潮社 刊 (新潮文庫)

  

  トム・クランシーのジャック・ライアン・シリーズ外伝。本書は対テロ極秘民間
 情報組織(ザ・キャンパス)工作員のひとりドミニク・カルーソー(通称ドム)の
 単独冒険譚になっている。
  ドムはFBIの特別捜査官の肩書を有しながら秘密裏に特別工作に携わっている。

  今回のストーリーのあらすじといえば「アメリカのNSC(国家安全保障会議)
 事務局職員が自己の信条から軽い気持ちで機密情報を外部に漏らし、その情報が
 暗殺に利用された。自分の身を守るために更に高度の機密情報を漏らすという深
 みにはまっていく。そこに外国の諜報機関や組織が絡んで情報奪取に動く。ドミ
 ニクは殺された恩師の敵に復讐を誓って多数の命がかかった機密情報の奪取に命
 を懸ける。」

  著名な大学教授の両親を持ち、ハーバードを出て、国家機関でエリートコースを
 歩む筈であったイーサン・ロスは、自分の超絶能力が認められずいまだに不遇なポ
 ストに置かれていることに不満を持ち、内部告発機関:国際透明性計画(ITP)に
 アクセスし、機密情報を流すことを何度か繰り返すことに。
  こうした内部告発啓発機関が匿名性を厳密に保持しながら隠された情報を暴露し、
 社会的正義を実現していくシステムの設定はいかにもアメリカらしいが、所詮は組
 織。組織のほころびから秘密が漏れて対象者の名前・住所が明らかになり、極端な
 場合報復殺人が起こることもある。

  ドミニクはインドでヤコブ(元イスラエル海軍特殊別部隊大佐)から家庭に寄宿
 し個人的に対テロ訓練を受けていた。
  ある日テロ集団がヤコブ宅を襲いヤコブの家族全員が殺され、ドム自身も大怪我
 を負った。実行犯はパレスチナ解放戦士とイェーメンの聖戦士混合チームと目され
 た。
  実はヤコブ元大佐は4年前ガザ沖で起きた貨物船襲撃事件、トルコ船籍の貨物船
 に潜む9人のパレスチナのイスラム原理主義ハマスの軍事部門の兵士を襲撃し殺害
 したチームの指揮者であった。 
  このトルコ船籍貨物船の襲撃にはアメリカCIAからの情報 や関与が記されており、
 機密情報とされていたが、NSCの機密情報アクセス権限を持つロスはこの情報をIT
 P経由で流し、どこかでその中のヤコブの名前・住所が漏れてしまったのである。
  当然のことながらFBI国家保安部防諜課・管理監督特別捜査官が出動。アメリカ
 情報機関・極秘イントラネット(Intelink-TS)取り扱い資格を持つ人に「ポリグ
 ラフ(嘘発見器)」にかけられることになり、ロスは真っ青になる。連邦公職守秘
 法違反容疑である。 

  FBIからロスが濃厚な容疑者との情報を得たドムは復讐に向けてロスの尾行を始
 め、イスラエルのモサドの加助を借りながら、ITPの手引きでベネズエラへ高飛び
 しようとするロスを確保しようとするがロスは巧みにすり抜けて・・・。
  
  ロスはITPの勧めに従って、もし罪がばれた場合、取引材料にするために、JWICS
(アメリカ政府機関インテ
リジェンス・コミュニケーション・システム)の重要機密フ
 ァイルをダウンロードする。このファイルにロシア特殊部隊やイラン・クドス部隊な
 どが群がり争奪戦となる。下巻はロスを抱え込んだ
イスラム革命防衛隊少佐のモハマ
 ドとドムとの攻防戦で、臨場感あふれる活劇が繰り広げられる。

  振り返ってみればこの小説はこの数年で話題になったアメリカのスノーデン事件や
 ウィーキリークスを想起させる内容で、情報機関における内部告発の怖さと、国際諜
 報機関同士の駆け引きを巧みに盛り込んだインテリジェンス活劇である。
 

 本書『機密奪還』の前に『米朝開戦』という誠に時宜に適した著作がある。邦訳は
 『機密奪還』より後の出版されている(2016.3)。

                             (以上この項終わり)

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