◇『任務の終わり(下)』(原題:END OF WATCH)
著者:スティーヴン・キング (STEPHEN KING)
訳者:白石 朗 2018.9 文芸春秋社 刊
自殺のキング・ブレイディの高校時代の課題レポート「アメリカの死の道」はA判定だった。
アルベール・カミュは言った「真に重要な哲学の問題は一つだけ—自殺だ」。精神科医レイモンド
・カッツ曰く。「あらゆる人間には自殺遺伝子がある。ただし大多数の人間の場合、その遺伝子は
潜伏したままである」。ちなみにジム・ジョーンズ(アメリカ・新興宗教教祖)は918人の信者を
自殺に追い込み、自らも死んだ。
ブレイディはずっと自殺に魅せられ続けている。
本書下巻の内容はホッジス・ホリー組と医師バビノーに乗り移ってしまったブレイディとの攻防
の様子に終始する。刑事ピートやその相棒イザベルはほとんど頼りにならない。
元刑事ホッジスはすい臓がんの痛みがどんどんひどくなってきている。
「マリファナには痛みを和らげる効き目があったかな?」「あくまでも私にとってという話だけど、
毎月やってくる辛い痛みの時期も、マリファナのおかげでずっと楽に過ごせる」元職場の相棒で、
ブレイディのそそのかされて、<ザビット>のソフト改竄作業を行ったフレディの返答である。
ホッジスは痛みに耐えかねてついに麻薬に助けを求めることになる。
ブレイディはバビノーの別荘に移り、ホッジスたちが探し求めてくるに違いないと待ち受けてい
るはずだと踏んだホッジスとホリーは降りしきる雪をついて全輪駆動車のSUVで別荘に向かう。
相棒のホリーには「俺がやつを仕留めるから待っていろ。<ザビット>がやつの手にあったら有
無を言わせずにやつを撃つ。もし15分経っても帰ってこなかったら先ほど道を聞いたGSに電話し
て助けを求めるんだ」。
ホッジスは死を覚悟しているので、知り合ってから初めてホリーの唇にキスをする。
がんの激痛に身をよじりながら別荘に迫るホッジス。突然身内を火矢が貫き倒れこみ立ち上がれ
ない。そんなホッジスを助け起こした人が…。「車から動くなと言ったじゃないか!ホリー」
「あなたは他人の助けなしでは別荘にたどり着けないでしょ。私はパートナーだから。とっとと仕
事を終わらせましょう」
そんな中にも警察には3件また3件と自殺の報告が入っているらしい。ブレディの自殺誘導マシン
<ザビット>がフル稼働しているのだ。
ところが監視カメラで二人の行動を把握していたブレィディは待ち受けていたホリーの頭を銃の
床尾でぶちかまし脳震盪を、銃を取り出そうとしたホッジスの右手に床尾を打ち下ろし、行動の自
由を奪ってしまう。
ブレイデイが手にしているのは1分間に650発の戦闘用アサルトライフルSCAR。勝ち誇るブレ
イディはホッジスに<ザビット>を渡し操作を命じる。ゲーム・プレイが進むうちにブレイディが
ホッジスの脳を侵食し始めるのを感じる。これには抵抗しようがない。
そこで絶体絶命の二人を救ったのはホッジスに携帯の着信音だ。ホリーがスマホに設定してくれ
た奇抜な着信音。ガッシャンというガラスの割れる音と子供の歓声、続いて「見事なホームラン!」
ここでブレイディとホッジスをつないでいた精神の絆が一瞬途絶える。
ホッジスは<ザビット>を暖炉の火に放り投げる。狼狽したブレイディはSCARSCARを手に構え
るが…。それから意識を回復したホリーとホッジスは一挙に反逆に向かう。ホリーが撃った銃弾が
ブレイディの胸を貫き、助けに来たジェロームのスノーキャット(雪上車)のキャタピラに押しつ
ぶされてブレイディはついに命を落とす(肉体形はバビノー)。
結局ブレイディによって<ザビット>を介して自殺に追い込まれた人は14人、未遂者は40人だっ
た。
ホッジスは事件の4日後、病院で娘のアリスンと仲間たちに65歳の誕生日を祝ってもらった。
8か月後亡くなったホッジスの墓碑にはこう記してある。<任務終了(END OF WATCH)>。
(以上この項終わり)