読書・水彩画

明け暮れる読書と水彩画の日々

堂場瞬一の『ピーク』

2019年05月10日 | 読書

◇『ピーク』       著者:堂場瞬一 2019.1 朝日新聞出版 刊

   

  東日新聞社会部の遊軍記者永尾賢治40歳。かつて入社1年目の新米記者でありながら
 「野球賭博」のスクープ記事で新聞協会賞という栄冠に輝いたが、その後は鳴かず飛ばず
 のまま遊軍で他の部署に回されるのか社会部デスクのサブに上がるのか岐路に立たされて
 いる。彼が本作の主役である。
  そんな永尾は今一つの殺人事件の裁判の傍聴に通っている。被告は竹藤樹生。彼は永尾
 が17年前スクープした野球賭博事件で罪を認め、野球から永久に袂を分かつと告げて球界
 を去った。そして今酒場で出刃包丁で人を刺し殺した事件で裁かれている。

  裁判で竹藤は殺人の事実を認めた。論告求刑があり、弁護側が争わないため次回は判決
 の運びであるが、永尾は裁判に釈然としないものを感じている。竹藤は喧嘩で見ず知らず
 の人を殺す男とは思えないし、なぜ凶器の包丁を持ち歩いていたのか不自然に思うからで
 ある。
  これまで自分の記事をきっかけとなって球界のエースの座から消えていった竹藤に対し
 居心地の悪さを感じていることもあり、なぜ彼が殺人を犯すようなことになったのか、真
 相を求めて関係者を探り始める。
 
  際どいサスペンスではないが、新聞記者という、ペアで動く刑事とは違って単独行動の
 機敏な判断と行動でことが動いていく過程に警察ものとはまた違った面白みがある。
  記事にできるかどうかわからないまま、別居中の竹藤の妻を初め関係者を手繰り寄せ取
 材を続ける中で、永尾が感じている釈然としなかった部分が読者にも次第に見えてくる。

  永尾が調べを進めていくうちに、なぜか中学・高校の野球選手を取引するブローカーの
 影が浮かぶようになった。しかも
竹藤の殺人事件にはやはり17年前の野球賭博事件が絡ん
 でいた。
  横浜の球団のエースピッチャーであった竹藤を
球賭博に誘い込んだという女房役のキ
 ャッチャー西村は事件の中心人物として有罪となったのであるが、どうやらその西村はブ
 ローカーとして全国的に暗躍しているらしい。
  永尾はつてを頼ってようやく西村と会うことができた。そして永尾は自身の推測通り竹
 
藤を殺人の罪から救い出すことができる事実をつかむことができた。

  判決公判前に真相を暴き、警察のずさんな捜査を糺すことに成功、竹藤を拘置所から開
 放することができたのであるが、関係者への取材は結構強引である。脅迫めいた言辞も弄
 する。新聞記者という人種と多少接したことがあり実感がある。ペンを盾に高飛車にふる
 まう姿は見苦し
い。社会の木鐸という立場を背に強引に調査(取材)を進める姿は警察手
 帳を手に司法権力を振り回す刑事を思わせる。このように無実の人を救い出すようなこと
  はジャーナリズムの重要な役目の一つではあるのだが。

  永尾の記者人生の早すぎるピークと、竹藤の野球選手としての早すぎるピークが横浜球
 場
で交差し、互いのほろ苦い人生を確認する。と思ったのであるが、結局永尾は殺人事件
 の真相解明で警視庁クラブの連中を出し抜いて、他社を圧倒する第二のスクープを手に

 た。
 竹藤には第二のピークは訪れない。
                               (以上この項終わり)

 

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